茨城県石岡市立石岡小学校 吉沼 育子
「人」に「良」と書くと「食」という漢字になる。「食」は人間が生きていく上で,絶対に必要不可欠なことであることは言うまでもない。また人と人とが一緒に「食」を楽しむことにより,情報を共有したり,相手のことをより一層理解したりするなど,「食」による豊かな恩恵と可能性は計り知れないものがある。
その一方で,児童を取り巻く食生活においては,「孤食化」(一人での食事)や「個食化」(同じ食卓だが食べるものが別々)が増え続けているのが現状である。「欠食」(食事を摂らない)する児童も増加している。このような家庭の中では,飽食の時代は過ぎ,崩食の時代がやってきているといっても過言ではないだろう。今どのようにして子ども達に「食」の大切さを学ばせるべきか。学校教育の中でも,「家庭科」で担う責任は大きいと考える。
現行の学習指導要領で「家庭科」の年間授業時数は,5年生で「60単位」,6年生においては「55単位」となっている。この時間の中だけでは,学ぶ内容も実習も限られてしまう。子ども達に,「食」の重要性を学ばせるためには,教科でのポイントをしぼった学習と,他教科や総合的な学習の時間,学校行事などを総合して「価値ある学び」を実施する必要性があると考える。
子ども達にとって一番身近で学びやすい「食」の教材は何だろう。
私たち日本人は大昔から主食として「米」をつくり,食べ続けてきた。家庭科においては「ごはんをたいてみよう」という題材がある。また,社会科では「日本の農業」を,理科においては,「植物の生長」を学ぶ。
さらに,石岡の地は霞ヶ浦の豊かな水や肥沃な土地・水運交通の発展,地下水の恵みがあり,米づくりの盛んな土地であった。また「関東の灘」と称される程,酒造りで栄えていた。
そこで,石岡小学校(以下は本校)では,教科と総合的な学習の時間と学校行事において,私たち日本人が,昔から主食として食べてきた「米」をキーワードに内容を構想し,学びを展開することにした。
本校では以前から地域の農家に田んぼを借りて,餅米をつくるという体験実習を行っている。
毎年5・6年生は,学校から1㎞離れた田に出向き,田植えと稲刈りを行ってきた。秋には地域のお年寄りや保護者を招いて,共に収穫を喜び,その米を使って餅つきを行うことが伝統になってきた。
5年生の総合的な学習の時間では,この「米」に注目し,「稲から学ぼう!」という単元を構想し学習を展開している。以下にその活動内容の特色を示す。
1㎞離れた学校の田んぼの稲(餅米・うるち米)と身近にバケツで稲(うるち米)を育て,成長を比較する。
バケツに稲を植える利点は,各自の責任で稲を育てられること,作業の苦労を体験できること,夏休みの観察が可能であることなどが挙げられる。特に稲の花をぜひ見せたいという教師側の願いもある。JAでいただけるバケツ稲のセットを利用した。
また,校内にミニ田んぼをつくって同時に観察した。
《稲の観察,成長と気温の関係,グラフ化,メダカと稲の関係,稲の歴史,化学肥料・有機肥料の長所と短所・地元でアイガモ農法を実施している農家の方にインタビューや取材,田んぼにやってくる生物や雑草の様子や観察,他国における農業の調査など》
・ゲストティーチャーや関わってくれた人
( 地域の農家の人,食糧事務所の職員,自然博物館の職員,保護者・祖父母,ナイロビ日本人学校の教諭・地域の高齢者・全校児童・大学生・大学院生)
地域・人・自然の素晴らしさの発見,「食」の大切さ・豊かさ,マナーを守ることの必要性,大人への憧れ,環境への気づき,大人への啓発,自信・達成感・充実感の保持,街の活性化と有効利用方法の創造,他の地域・他国との対比,未来への展望
収穫した餅米を使って,11月に餅つきを実施した。地域の高齢者が先生となって,臼と杵を使用した本格的な餅つきを行った。高齢者のパワフルな活動に子ども達は驚いたり感動したり尊敬の念をもったり様々であった。
また,10月末に6年生は,早稲田大学の大学院生たちが地元でつくった無農薬のお米で炊いた「おにぎり」をごちそうになる機会に恵まれた。その際大学生が,「このお米が今まで食べた米の中で最高においしい。自分たちが苦労して育てた米であるから。」ということを強調して話してくれた。この言葉を受け,今回自分たちでつくった餅米でおいしい『お餅』をつこうという意欲が高まった。
たくさんの方々と楽しく餅つきを行い,みんなで車座になりおいしく食べられたことは,子ども達にとって一生涯の思い出になるだろう。
総合的な学習の時間で育てた稲を精米し,家庭科の時間にごはんとみそしるをつくる実習を行った。
当日はパイレックスの鍋を使用し,米からごはんに変化していく様子を観察した。自分たちが苦労して作ったお米を調理実習に使用するということもあり,お米を大切に扱っている印象をうけた。また米のとぎ汁は流さず花壇にまいた。
自分たちが炊いたごはんはおいしく,先生方にもぜひ試食してもらおうと職員室へ持参し,多くの先生に試食していただき,賞賛をうけた。子ども達は家族のために,家庭でもごはんを炊いてみようとはりきっていた。
「食」の学びを実施するにあたり,子どもたちは多くの人とかかわりをもち,その人の苦労を知り,優しさやあたたかさを実感することができた。
今回の学びは人や地域から教えてもらったことが大きかったと思う。子どもたちが次代に引き継ぐこともたくさんあるだろう。学びも循環しているのだ。子どもたちがさらに進歩していけるよう,これからの授業も指導計画をきちんと立て,価値ある学びを実践していきたい。
→家庭科と他教科などとの関連
→地元の食材を意識したこんだてづくりと食品の分類