「聞いたことは忘れ,見たことは覚え,体験したことは忘れない」英語の授業ではTotal Physical Response (TPR)のように行動やジェスチャーをしながら発音すると定着がよいことは多くの先生方が体験的に実感されていることでしょう。私たち教師が行っていることは生徒たちの記憶にtraceを残すことです。そのために,帰納的に指導したり,演繹的に指導したり,ICTを活用したり,いろいろな工夫をしながら日々の授業を行っています。
ところで,PPP(Three P)アプローチをご存知でしょうか。知っているいないにかかわらず,多くの先生方はこの形式で文法や表現を授業で指導されているのではないでしょうか。
Presentation(提示) | 新出語彙や文法・表現についての明示的説明 |
↓ | |
Practice(練習) | 正確さに焦点化した,リピート,パターン練習 |
↓ | |
Production(表出) | 自発的な,意味に焦点化した言語使用活動 |
PPPを使うべきかどうかという議論は別として,授業で新しい文法や表現を学習したら,最後には生徒自身のことばでProduction活動をauthenticに行うことの必要性が長い間言われ続けてきました。しかし,現状としては教科書の進度や時間の都合により,または基礎的な練習を重視するために,このProduction活動が行われていない場合があります。そうなると,生徒たちの言いたいことをoutputする手前で止めてしまっている可能性があります。
また,もしProduction活動がSpeakingだけで終わっていたら,生徒たちは書けるようにならない可能性があります。私はワークショップのときに「『しょうゆ』を漢字で書いてください」と出題しますが,9割の参加者は書けません。長期間にわたって日常的に何度も何度も「醤油」という漢字を読んでinputしているつもりでも,覚えようとしなかったり,書く練習をしなかったりでは書けるようにはなりません。Sunshine English Course(以下Sunshine)では,inputしたことを無理なく自然にoutputできるように段階を踏んだ活動を設定しています。
一般的に英語の授業では,inputに多くの時間をかけて,output,特に書くことにはあまり時間をかけていないようです。そうすると,トータルで4技能のバランスをうまく取れなくなってしまいます。ピッツバーグ大学の白井恭弘教授は,外国語学習では大量のinputと適量のoutputが必要であると力説されています。Sunshineでは通常課(PROGRAM)の各セクションで,適度に話すこと・書くことも行い,4技能のバランスがよい授業ができるようになることを目指しています。
Sunshineでは,通常課の見開き左ページに新出文法・表現を学習するページがあり,次のようなPresentationとPractice,Productionが用意されています。
Basic Dialog | 場面をイメージできる対話で文法・表現の理解を図る |
Listening | イラストを参考にしながらListeningし,問いに答える |
Speaking | ドリル形式で簡単に発話できるようにSpeakingの基礎練習をする |
Let’s Try | ペアで会話し,実際のコミュニケーションに近づける |
Writing | 気持ちや考えをWritingで自己表現し,My Projectにつなげる |
Listening(1年では「聞いてみよう」)は,多くの生徒が自信を持って取り組める活動です。学んだ文法・表現を含む英文をイラストを見ながら聞いて,新しい表現の意味をイメージしやすいようになっています。生徒はときどき聞き直したがるので,必要に応じてくり返し聞かせて達成感を与えるようにしましょう。デジタル教科書があれば,最後にスクリプトを見せながら聞かせることもできます。
Speaking(1年では「言ってみよう」)は,最低限の文法操作を適度な難易度に設定した練習によって,学んだ表現を使えるようにし,発話の基礎を固めます。ここでは正確さを高めたいので,理解できないまま進めてしまうとあとで混乱のもとになります。教師が事前にデモンストレーションをし,全員で練習をして,発話方法・内容をはっきりさせてからペアで確認しながら行います。活動中は机間指導をして,必要に応じて援助します。
Let’s Try(1年では「使ってみよう」)は,Speaking(「言ってみよう」)よりも自由度の高いinteractionをペアでできるように設定しています。Let’s Try(「使ってみよう」)には,すぐにできる活動もあれば,事前に準備が必要なものもあります。会話で使いたい定型表現や語彙は必要に応じてWORD BOXに提示してあります。事前に説明を加えてから活動してもよいのですが,活動方法を生徒に読ませて一度活動させ,生徒たちが言いたいことをうまく言えない状態にしてから教師が説明すると,文法や表現の使い方がより印象深く定着しやすくなります。教師側で事前に教材研究をし,いろいろな活動方法を考えましょう。
こうして,ある程度使えるようになってきたら,次の時間に本文を学習し,その中に配置されている新しく学んだ文法・表現に「気づき」ながら学びを深めます。
Writing(1年では「書いてみよう」)では,自分の言いたいことを英語で書く自己表現活動を行います。これらの多くは,各学年3箇所に設定されているMy Project(パフォーマンス活動)での活動につながっており,My Projectではふり返って参照できるように工夫されています。また,この「書く」活動では,発達段階に配慮し,1年生の初期のころは英文を書き写す程度のことから始め,次第に単語を入れかえて英文を完成する活動を取り入れていき,自分の気持ちや考えを状況に応じて自己表現できるようにと,少しずつ難易度を高くしています。
このようにListening(「聞いてみよう」),Speaking(「言ってみよう」),Let’s Try(「使ってみよう」),Writing(「書いてみよう」)を通して,新出文法・表現を4技能を使ってステップアップしながらくり返し学習していきます。
Sunshineでは,4技能をバランスよく指導できるだけでなく,AB判(縦がB5,横がA4)のワイドな紙面構成により,美しい写真やイラストで英文の内容や文法が持つ意味をイメージしやすくし,生徒たちの興味を引き,理解を深める配慮をしています。
また,若い先生方が迷わずに授業展開でき,生徒が効果的に4技能を伸ばす練習ができるような構成になっていますし,もちろんベテランの先生方が自分の授業スタイルに合わせて各活動内容や順番をアレンジしたり,新たな活動を加えたりして扱うこともできます。
このように,授業で一度行った練習はリハーサルとして生徒の記憶に残り,家庭でも復習しやすくなります。したがって,授業のSpeaking(「言ってみよう」)やLet’s Try(「使ってみよう」)で話した英語を今度は「書く」課題として宿題にしたり,Writing(「書いてみよう」)を宿題にしたりすることもできます。これらの多様な練習を通して学習の仕方を身につけさせ,学校の授業と家庭学習のつながりを持たせて,自律的学習者を育てるようにしたいものです。
大塚 謙二 (おおつか けんじ) |
北海道教育大学大学院 教育学研究科英語教育専攻修士課程修了。1986年より北海道の公立中学校で教鞭をとり,現在は北海道壮瞥町立壮瞥中学校教諭。平成21年に北海道教育委員会より北海道教育実践表彰受賞,平成22年には平成21年度文部科学大臣優秀教員表彰受賞。 「英語の授業は,英語力と仲間を思いやる気持ちを育てる力を持っています! 目の前の子どもたちに,気づきと感動と発見のある授業を通して,多くのスキルを身につけてもらいたいです!」 |
主な著書 |
『基礎からわかる! 成功する英語授業の組み立て方』,『教師力をアップする100の習慣』,『成功する小中連携! 生徒を英語好きにする入門期の活動55』(ともに明治図書出版),『成長する英語教師をめざして』(共著・ひつじ書房)ほか多数。 |