Basic Dialogによる導入

1. Sunshineにおける通常課(Program)の構成

 Sunshine English Course(以下Sunshine)の通常課(Program)は原則として3セクションからなり,各セクションは基本的に見開き2ページで構成されています。左側のページにはまずBasic Dialog(1年は「おぼえよう!」)があり,新出言語材料の導入があります。その下にListening(1年は「聞いてみよう」), Speaking(「言ってみよう」), Let’s Try(「使ってみよう」)があり,新出事項の練習から簡単な自己表現活動まで行います。これらを通して新出事項の基本的な定着を図ります。右ページには対話文や説明文などからなる本文があり,その下に本文の内容理解に関するQ&A,そして最後にBasic Dialog(「おぼえよう!」)で扱った新出事項を使って簡単なWriting(「書いてみよう」)を行うという構成になっています。つまり,見開きの2ページで4技能を総合的にバランスよく扱っているのです。
 この構成はほかの教科書のものと大きく異なっています。この構成の基礎になっているのは,できるだけ実際の教室での授業の流れに合わせることと,学習がスムーズに進行することを保障しようという考え方です。本文を読む前に,その中にある新出文型・文法事項について,あらかじめ基本的な理解を持ち,ある程度使えるようにしておいたほうが,先生方にとっても指導しやすいし,生徒にとってもわかりやすいだろうと考えました。このため左ページで新出文型・文法事項の導入・練習をしています。実際,多くの先生方が教科書の構成が別な形式になっていても,そのような流れで日常の指導をしておられるのではないでしょうか。その自然な流れに沿っているのが,このSunshineの特長なのです。

2年生pp.18-19

通常課の見開き構成(2年pp.18-19より)

2. なぜ新出事項を対話形式で導入するのか

 ほかの教科書の多くは,新出文型・文法事項を含む基本文の導入を既習の文と形式・構造上の比較をするという形で行っています。一方,Sunshineでは,新出文型・文法事項を対話形式で導入しています。1年では「おぼえよう!」として2行(A-B)対話,2, 3年生はBasic Dialogとして4行(A-B-A-B)対話になっています。これがSunshineの特長の一つです。なぜSunshineはこのような形式にしたのでしょうか。
 新出文型・文法事項は単に形が新しいだけでなく,意味も使い方も新しいのが通常です。それならば新出事項を導入する際,その形式・意味・(文脈の中での)使い方をひとまとまりとして一体的に示すほうがわかりやすく,あとあと定着しやすいと考えられます。それを実現する導入法,それが対話形式なのです。このため,各対話はできるだけ新出文型・文法事項が典型的に使われる場面や文脈の中で展開しています。例を挙げてみましょう。2年のProgram 7, Section 3には次のようなBasic Dialogがあります。

2年生p.68 Basic Dialog

Program 7-3 Basic Dialog(2年 p.68より)

 この4行対話には,2人の人物のやりとりがあります。生徒は2人の人間関係や対話の場面などを想像しながらこのやりとりを理解しようとします。そして,そのようなやりとりの中で新出文型である〈S+V+O+O〉に触れていくと,たやすく “I” と “you” の関係を理解します。さらに “you” と “a big present” との間にある〈相手に(間接目的語)+プレゼントを(直接目的語)〉という関係を具体的なイメージとして捉えることができます。何の脈絡もなくI’ll give you a big present.という文を覚えるより,はるかに鮮明なイメージが得られます。このため,生徒は場面と文脈の中でこの新しい表現を理解し,使って覚えることができるのです。

3. 対話形式での導入のための工夫

 対話形式で新出の言語材料を導入するために,いくつかの工夫をしました。
 第1に,対話は新出事項以外全て既習事項にしました。これは当然ですね。生徒が新出事項だけに注意を向けられるようにしたのです。
 第2には,上でも述べましたが,当該の新出言語材料が使われる典型的な場面や用法を用いたことです。各セクションの右ページの本文は,話題によって新出言語材料が応用的な形で示される場合もあります。そのために,Basic Dialog(「おぼえよう!」)では当該文法事項の極めて基本的で一般的な用法を示すことにしました。
 第3は,これらBasic Dialog(「おぼえよう!」)を最低限きちんとマスターすべき学習項目と位置づけたことです。この対話を出発点として,それに続くListening(「聞いてみよう」)やSpeaking(「話してみよう」)で新出言語材料の練習を行い,Let’s Try(「使ってみよう」)で応用まで高めるという流れになっています。そして,最後にもう一度Basic Dialog(「おぼえよう!」)に戻り,これをしっかり覚えることで基本知識の定着を図るというプロセスになっています。最低限これらをしっかり覚えさせたいものです。
 実際に,全国の中学校で先進的な授業を行っている多くの先生方は,新しい文型・文法事項をSunshineにあるような対話形式で意味や場面・用法などを統合しながら導入しています。つまり,新出言語材料の導入時点からコミュニケーションとしての「やりとり」を考えた導入法を実践している先生方が多いのです。その導入方法をSunshineは積極的に取り入れたわけです。そして若い先生方にも,この導入法に慣れていただきたいと考えています。

4. Basic Dialog(「おぼえよう!」)の扱い方

ALTと中学生 それでは,Basic Dialog(「おぼえよう!」)をどのように扱ったらよいのでしょうか。ここでは典型的な例を示すことにします。
 まず,これらの対話の音声を何度か聞かせることから始めます。CDを使うばかりでなく,ALTと2人で実際に対話してもよいでしょうし,事前に1人の生徒に練習させておいて教師とその生徒で実演してもよいでしょう。できたら3度以上対話を聞かせたあと,その対話についてWhat are they talking about? / Who are they? / Where are they now?などの質問(日本語でもOK)をして,生徒に対話の場面や内容を想像させます。正解はなくとも想像させることで英文理解が深まります。その後,対話全体の意味を考えさせ,何か新しい言い方・表現に気づいたかどうかを生徒にたずねます。上の例であれば,「『だれだれに何かをあげる』という言い方が出ていたと思います」という答えが出てきたら上出来です。気付きいわゆる「気づき」(noticing)が生じたわけです。教師がはじめから教えてしまうと「気づき」は生まれません。次に教科書を開いて,英文を見ながら新しい文型・文法事項の確認や説明に入ります。理解ができたら,音読練習に入ります。chorus reading, pair reading, buzz reading, individual readingなどを適宜行うとよいでしょう。
 その後,対話で出てきた新出事項の練習と活用をListening(「聞いてみよう」), Speaking(「話してみよう」), Let’s Try(「使ってみよう」)で行います。時間があったら再度Basic Dialog(「おぼえよう!」)に戻って,しっかり覚える活動を続けます。このようにスパイラルな授業展開をすると,対話自体の意味がよりよく理解でき,確実に新出事項が定着しやすくなります。さらに時間があれば,対話の前やあとに1文以上付け加えて対話を長くするというようなplus one dialogの活動を行うこともできますし,スキット作りまで高めることも可能です。
 Basic Dialog(「おぼえよう!」)を覚えるときに,表情やジェスチャーをつけて発話することも勧められます。発言内容を身体全体で表現することで,英語を自分の血や肉にできます。もちろん,どんな表情やジェスチャーが適切か生徒自身に考えさせるとよいでしょう。このようにすることで,全体がコミュニケーションを意識したパフォーマンスになると考えます。

新里 眞男 (にいさと まさお)
新里眞男 東京教育大学文学部卒業。オーストラリア政府公費によるキャンベラ大学留学。公立高校教諭,筑波大学講師,文部省(当時)教科調査官(平成4~12年),富山大学教授(平成12~18年),東京国際大学教授(平成19~23年)を経て,現在,関西外国語大学教授。 「英語は使って覚えるもの」「英語の授業はインタラクションを中心に」が信条。
主な著書
『英語教育のアクションリサーチ』(研究社),『実践的英語教育の指導法』(ピアソン・エデュケーション)など