1. 「ことば」は人から教えられるものではなく,自ら「問題解決」をする中で身につけていくもの

 My Projectに取り組んだ生徒たちの感想をいくつかご紹介しておきます。

My Project 5(2年)

  • すごく楽しかった! 人の発表を聞くのも楽しかったし,何よりも発表するのが楽しかったです。
  • 自分のことだけでなく,自分の夢を相手に伝えたり,聞いたりする発表の活動をとおして,文法や単語が身近に感じられるようになり,テストでよい結果が出せるようになった。

My Project 8(3年)

  • It’s a kind of ... を使って日本の伝統文化やものについて説明文を作ったのが楽しかった。
  • 発表者が笑顔でやったり,見る方も笑顔で見たりしたから,やっていても楽しかった。笑顔が出る活動は,発表も聞く方も楽しめる。マイ・プロジェクトは,クラスがいつも明るくなるから大好きです。

(原文通り)

現行版3年生pp.70-71

My Project 8「伝統文化を説明しよう」(3年pp.70-71より)

 なぜこのような感想が出てくるのでしょうか。「楽しい」「明るい雰囲気」「テストで結果が出る」といった要素は,My Projectの活動が生徒たちにとって「有意味学習」になっているということを示しています。このような感想が出てきた学校では,教師たちはあらかじめ学期の最初にMy Projectをゴールとして生徒に見せて「到達目標」を知らせ,それぞれの単元の言語材料や言語活動が「どうMy Projectにつながるのか」「なぜそれを学ぶのか」という意味づけを行っています。
扇 前回のWEBマガジンで,My Projectは「扇の要」であると説明しました。扇に「要」の部分がなければどうなるでしょうか。バラバラになってしまい,役に立ちません。
 「まとめの活動」は,言わば試験前の学習と同じです。今まで「断片」だった知識が,理解しようとする行為によって整理され,統合されていきます。人は「箇条書き」を頭の中に記憶しておくことはできません。記憶できるのは,ストーリーのようにまとまった内容です。つまり,つながりを作っていく中で自分なりに「こうすればいいのか」という気づきと納得があれば定着しやすくなるということです。それは教師による説明ではなく,自分が「問題解決」をしながら,仲間と「協働学習」(学び合い,互いによい影響を与え合う学習)をする中でこそ可能になります。

2. 学習意欲を高めるには,授業を「可視化」することが大事

 言語の習得には,3つのPが必要だと言われています。最初のPはPresentationです。たとえば,教師は表情豊かにジェスチャーを使ってsmall talkやdemonstration(modelを見せること)を行い,さらには教科書のBasic Dialogのような文脈を示して,学習者にどんな場面かを想起させます。ただ,この時間が長くなりすぎると,残りの2つのP,つまりPracticeとProductionがおざなりになってしまいます。Practiceでは,教師がパタン・プラクティスやドリル活動で終わらせるのではなく,場面や条件を与えて学習者に「思考」させるようにします。こうすると,生徒たちは最後のProduction(My Project)にまで無理なく到達できるようになります。大切なのは3つのPのバランスです。
  Edgar Dale(視聴覚教育の先駆者)は,多くの臨床実験の結果,1946年に「経験の円錐(Cone of Experience)」という説を発表しました。それによると,人が2週間経っても覚えていることが,次のような円錐の関係になるということです。

 1)から4)の黄色の部分は,授業でいうと「教師が説明する授業(教師主導)」と考えられます。どんなに指導者が一生懸命にしゃべろうが,受け身では半分までしか覚えていないということがわかります。
 一方,5)と6)の緑色の部分は,「学習者が主体となっている授業」です。すると,定着度が7割から9割にもなるのです。これは,他者との関わりの中で,自分の理解や考えの「可視化」が起こっていると考えられます。つまり,他者の考えや意見が,自分にとって「鏡」となり,より鮮明に意識づけられるのです。

アンケート

3. 最初に「ゴール」を示せば,見通しが生まれ,学習意欲が高まる

ゴール 通常,学校では,仕事も,行事も,研究大会さえもゴール(到達目標や到達地点)から逆算して準備します。ゴールがあると「見通し」が生まれます。見通しがあると,意欲につながり,よい準備をするようになります。よい準備はよい仕事につながり,それが自信になっていきます。
 ただ,学校で,唯一逆算ができていないのが「授業」です。テストが暗記型になっていたり,進んだところまでをテスト範囲にしたりするのは,「つけたい力」が明確になっていないからです。教科書を終えることがゴールになっているかぎり,生徒たちに真の英語力は身につきません。授業におけるゴールとは,「つけたい力」を身につけさせることです。その到達地点の具体をイメージできなければ指導はできません。
 大切なことは,「聞く・読む」の「入力」を「知りたい・伝えたい」という内容にすることです。そして,それを「考える」「書く」「話す」「ふり返る」の4つの要素を組み合わせた「出力」の活動につなげます。つまり,竹の節に当たる「統合的な言語活動」を学期ごとのゴールとして具体的にイメージしておくのです。
 学習指導要領解説に出てくる「統合的に活用(する)」の「統合」とは複数の技能を「リンクさせる」という意味です。これについては,現場の理解も深まってきているように思います。ただ,「活用」が「応用」レベルで終わっているようです。
 「活用」とは「組み合わせる」という意味です。ある言語材料をパタン・プラクティスで練習する,ドリルをする,またはその言語材料を使って表現活動をするというのはどちらかというと「応用」です。「活用」とは,単元で学んだ複数の言語材料を,「目的」に応じてどう使えばよいか考えることです。
 例をあげてみましょう。算数で「三角形の面積」のあとに,なぜ「平行四辺形の面積」が用意されているのでしょうか。それは,自分で「補助線を引いて三角形と四角形に分ける」ことに気づかせるためです。ここで,教師が説明をしてしまっては台無しです。いつまで経っても問題解決能力は身につきません。英語も同じです。そして,「4技能」「言語材料」「思考」などを有機的に組み合わせ,タスク化したのがMy Projectです。
 Sunshine English Courseでは,9つのMy Projectがつながり,しかも「協働学習」になっているというところが,ほかには見られない大きな特長です。人は「出力」(書く,話す)をしたときに,初めて学びの状況が「自己理解」できます。そのときに,相互評価(他者の視点から学ぶ)をし合うことで,個々のメタ認知力が高まり,自己評価能力が高まっていきます。
 ですから教師は,このMy Projectを「学習者主体の集中的な言語活動」ととらえ,十分な時間を保障していただきたいと思います。そうすることによって,冒頭のような感想が出てくるのです。また,生徒の作品や取り組みの様子を記録に残しておけば,鑑賞して互いに学び合う学習にすることが可能です。
 このように,My Projectというゴールからbackward designをする中で「布石」や「仕掛け」となる中間点を用意することができるようになると,教師の授業デザイン力がみるみる高まっていきます。さらに,このMy Projectで身につけたスキルを日々の「帯学習」の中で日常化させてこそ,真の“My”プロジェクトになるのだということもご理解ください。点ではなく線の学習にするのです。
 生徒たちが9つのMy Projectに楽しく取り組むことで,英語という「ことば」に更に興味・関心をもつようになり,「自律的学習者」としてたくましく育っていくことを心から願っています。

中嶋洋一 (なかしまよういち)
中嶋洋一 埼玉県の公立中学校,富山県の公立小・中学校で長年教鞭をとる。 その後,県教委の指導主事,公立中学校の教頭を経て,現在は 関西外国語大学教授。 中学校では,英語ディベートと卒業文集 づくりで,論理性と感受性の育成のバランスを心がけた。大学では,「七転び八起きできる教師」になれるよう,学生に「教師魂」を注入しているところである。
主な著書
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』『英語わくわくワークブック』(開隆堂),『英語好きにする授業マネージメント30の技』(明治図書),『だから英語は教育なんだ』(研究社),NHKDVD『わくわく授業―私の教え方』(ベネッセコーポレーション),NHKDVD『えいごルーキーGABBY』(日本コロムビア)など。ほかにNHK Eテレ『えいごルーキーGABBY』番組委員,NHK Eテレ『Rの法則』企画・出演など。