読み込みを促す発問・活動とは

1. 読み取る内容はどこにあるでしょうか?

 英語に限らず,私たちは毎日,文章を読んでいるのであまり意識をしませんが,多くの生徒たちは(そして時には先生方でさえ)「読み取る情報は全て文章中にある」と確信していることがあります。果たしてそうでしょうか。次の英文を読んでみましょう。

アイスクリーム売りMary heard the ice cream man coming down the street. She remembered her birthday money and rushed into her house.

(Carrell & Eisterhold, 1983, pp. 558-559; Rumelhart, 1977, p. 265)

(メアリーはアイスクリーム売りが通りをやってくるのを聞いて,誕生日にもらったお金を思い出し,急いで家に帰った)

 さて,この英文を読めば,メアリーは「アイスクリームが大好きなこと」「アイスクリームを買いたいと思ったこと」「残念なことに,手持ちのお金がないこと」「アイスクリームを買うお金を用意するために家に駆け込んだこと」などがわかります。ところが,これらの情報は英文のどこを探してもありません。では,上の文章に次のような英文が続いたとしたら,どうなるでしょうか。

... and locked the door. (そして鍵をかけた) 鍵をかけた

 たった4語が加わっただけで,「メアリーはアイスクリームが大好きだ」という理解はこつ然と姿を消してしまいました。また,「アイスクリームを買いたいと思ったかどうか」「アイスクリームを買うお金を用意するために家に駆け込んだかどうか」なども怪しくなってきました。もはや,「手持ちのお金がない」などの状況は存在するかどうかを確認する必要すらなくなってしまいました。

2. 英文と読み手の間に生まれる理解

 実は書き手は,読み手がすでに理解しているであろうこと,そして,与える文章から当然湧き出てくるイメージに含まれる情報などは,書かないことがよくあります。たとえば,「さっき,ファミリーレストランに行ったばかりでお腹がいっぱい」と書いてあれば,「ファミリーレストランで食事を取ったこと」はおのずと理解されます。「朝起きたら快晴だったが,道路は濡れていた」という文章を読めば,「夜中に雨が降ったであろうこと」は伝わります。すでに読み手と共有していたり,書かなくとも容易に思いつくであろう情報をすべて書いてしまうと,文章としては逆に読みにくいものになるのです。
 このことからもわかるように,文章の意味は英文の中にではなく,読み手が背景知識などを駆使して英文との間に描くイメージの中に存在するのです。したがって,英文を読むときは「どんな状況なのか?」と頭の中で場面を思い浮かべることが最も大事になります。そのような目的がないままに,ただ英文を日本語に直そうとすると,明らかにおかしな日本語訳が生まれてしまい,また,英文の正しい理解にはとてもたどり着くことはできません。
 Sunshine English Course(以下Sunshine1のPOWER-UP ⑨ Readingでは,“A Man and a Little Bear”と題し,川の中で釣りをしている男性の横で小熊が立ち上がって同じ方向を見ている写真が載っていて,このあとにどんなことが起こるのかたずねています。また,“A Baby and a Newspaper”という写真を添えた英文では,新聞紙を広げて紙面に見入っているような赤ちゃんが何とつぶやいているのかを考えさせています。これらはみな,英文に書かれている状況や場面を頭に描くトレーニングを,写真を使ってわかりやすく導入しています。

pp96-97

POWER-UP ⑨ Reading(1年pp.96-97より)

3. 発問の目的

 発問の目的は一般的には「内容確認」ですが,意味が英文と読み手との間に生まれるとすると,英文で書かれている内容を表面的に追っても,状況や場面を頭に描けるような深い読みにはつながりません。
 発問の仕方には以下のようなさまざまな方法があります。

①文章の順番に沿って確認していく方法。

②文章全体のテーマから段落,1文など細部へと確認していく方法。

③Facts Finding型,Inference型,Generalization型などバランスを考える方法。

④因果関係から,文章や段落構造を把握する方法。

⑤一読しただけでは読み過ごしてしまうような箇所をたずね,深い読みに誘う方法。

 どれも有効ですが,たとえば⑤でも以下のような簡単な質問から始められます。

Mike: Hi, I’m Mike Brown. I’m a new student.
Yuki: Oh, you’re Mike. I’m Yuki, Sayama Yuki.

Program2-1 1年p.25

PROGRAM 2-1(1年p.25より)

 この2行を取り上げて,「“Oh, you’re Mike.”からどのようなことがわかりますか?」とたずねるだけでも,生徒が頭に描く状況や場面を深めることが可能です。「初対面のふつうの会話」だと何も感じない生徒,「初対面なのに,“Oh, you’re Mike.”とは変だ」と気づくものの,そこで終わってしまうちょっと頭の固い生徒。そして,「ははあ」と気づく生徒。反応はさまざまに分かれます。“Hi, I’m Mike Brown. I’m a new student.”というマイクの自己紹介に対しての由紀の発話なので,ふつうであれば“I’m Yuki, Sayama Yuki.”だけでよいはずです。そこまで問いかけると,ほとんどの生徒が気づき出します。種明かしをするまでもなく,“Oh, you’re Mike.”から始まるということは,「あなたがマイクなの? アメリカから転校生が来たって聞いていたわよ」という思いが込められています。このようにして,生徒が頭に描く状況や場面は白黒からカラーへ,そして平面から立体的にと,どんどん鮮やかになっていきます。私たちは,1文1文英文を読み進めるごとに,柔軟に状況や場面を修正していく,能動的な読み手を育てているのです。

4. 頭の中を整理する発問や活動を

 Sunshine 2のPROGRAM 12では,次のような文があります。

Her father’s dream came true. And Megumi’s dream also came true.

PROGRAM 12-3 Reading

PROGRAM 12-3 Reading(2年p.112より)

 インターネット上にあるような機械的な翻訳ソフトであれば,この2文の前までに書かれている情報と結びつけることができず,「それで,すでに亡くなっているお父さんの夢が実現したことになるのか」「そのことが,どうしてめぐみさんの夢も実現したと言えるのか」など,理解は不能でしょう。「木を見て森を見ず」型ロボットの致命的な限界です。
 そこで,英文の読みが十分であれば,「めぐみさんの願いは何だったのか」などを考える発問をし,まだ読みそのものが浅ければ,「生前のお父さんが望んでいて叶えられなかったことは何だったのか」などとたずね,字面を追うだけでは因果関係を築くことができない生徒を導く必要があります。
 リーディングもリスニングも,どれだけの英文情報を頭の中に入れることができたかという情報量が問題ではありません。教室でよく用いられている再話(retelling)活動は,「読んだ英文を見ずに,その内容をだれかに自分のことばで伝える活動」ですが,不思議なことに読解理解が上がります。頭の中の英文の情報量そのものは変わりませんが,「モノでぐちゃぐちゃに詰まった引き出し」が整理された場面に似ています。リーディングの授業で有効な発問や活動は,まさに,この英文情報の整理・整頓を行っているのです。

参考文献

Carrell, P. L., & Eisterhold, J. C. (1983). Schema theory and ESL reading pedagogy. TESOL Quarterly, 17, 553–573.

Rumelhart, D. E. (1977). Understanding and summarizing brief stories. In D. LaBerge & S. J. Samuels (Eds.), Basic processes in reading: perception and comprehension (pp. 265–303). Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.

卯城 祐司 (うしろ ゆうじ)
卯城 祐司 北海道の公立高等学校3校,北海道教育大学釧路校を経て,現在は 筑波大学人文社会系教授。博士(言語学)。専門は英語教授法全般, リーディングおよび第二言語習得。全国英語教育学会会長。前小学校英語教育学会会長。前関東甲信越英語教育学会会長。文部科学省 「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」,「外国語能力の向上に関する検討会」委員などを務める。
 「英語は『楽習』です。共に英語教育「楽」を目指しましょう!」
主な著書
『英語で英語を読む授業』『英語リーディングの科学:「読めたつもり」の謎を解く』『英語リーディングテストの考え方と作り方』『英語で教える英文法:場面で導入・活動で理解』(以上編著・研究社),『小中連携Q&A と実践:小学校外国語活動と中学校英語をつなぐ40のヒント』(共編著・開隆堂出版),『図解で納得!英語情報ハンドブック』(ぎょうせい)ほか多数。