ホーム資料中学校英語情報誌:Sunshine LetterWebリレーコラム 第1回 大場先生に聞いてみた

英語に興味を持ったきっかけは?
英語に興味を持ったきっかけは、2つあります。
 1つ目はThe Beatlesです。中学生のときに2枚組のLPレコード『The Beatles / 1967-1970(通称「青盤」)』を買ってもらい、そこからThe Beatlesにハマっていきました。当時、ギター少年だったこともあり、何度もレコードを聞いてはカセットテープに録音し(雑音多し)、ギターでコピーしました。学校の英語はあまり好きになれませんでしたが、The Beatlesだけは一生懸命聞いて、友だちと歌っていました。今でも懐かしい思い出です。
 2つ目は、高校時代のオーストラリアからの留学生の存在です。初めての英語母語話者との出会いでした。彼が学校祭でギターを弾きながらJohn Denverの”Take Me Home, Country Roads”を歌う姿がめちゃくちゃカッコよくて、「いつかあんな発音で歌えたら」と思いました。それから英語の教科書を音読しまくり、英語を鍛えました。高等学校の英語教師になったときには教員バンドも組みました。学校祭でThe Beatlesの”While My Guitar Gently Weeps”を歌いましたが、あの彼のようにカッコよく歌えたかは…。今でも私の研究室では、The Beatlesの曲がBGMで流れています。
なぜ教師を目指そうと思ったのですか?
高校時代の担任の先生にかけられた言葉が、教師を目指すきっかけでした。部活動や生徒会活動、ギターばかりにエネルギーを注いで勉強がおろそかになり(それでも英語だけは頑張っていた)、さらに学校や先生方にちょっと反発していた時期もあり、将来の希望もなく、あえなく大学受験に失敗しました。やりたいことも定まらないまま浪人生活を送っていたときに、先生が会いに来てくれて、「高校時代の経験や失敗・挫折の経験を活かして、教師を目指したら」と言ってくださったのです。その言葉で目が覚め、そこからけんちょうらいを期して、教師になるため努力しました。
 その後、教員養成系大学に進み、大学院ではより専門的なことを学びました。高校の英語教師になってからは、担任業務や部活動などで多忙な中でも、さまざまな英語授業実践にチャレンジし、その成果を学会で発表して論文にまとめました。当時は、これらの経験を活かしてゆくゆくは教員養成に携わることができればな、と漠然と考えていました。失敗や挫折は人を強くし、また、人との出会いは自分の進むべき道に大きな影響を与えるとつくづく思います。
令和3年度版サンシャインのイチオシは?
2年生PROGRAM 4のHigh-Tech Natureです。
 日常生活で使われているネイチャーテクノロジーに関する題材で、特にThink 1のハスの葉に関する内容が気に入っています。自宅近くの高田城のお堀では、夏になるとたくさんのハスが見ごろとなり、この課の教材作りにはもってこいです。そこで、教科書本文の内容と同じように大きなハスの葉と帽子を並べて、写真に撮りました。また、雨の日には水滴がハスの葉の表面ではじかれて転がっていく様子(Raindrops are running off the leaves.)や、ヨーグルトのフタにヨーグルトをのせてもくっつかない様子を動画に撮りました。(実際に試してみてわかったことですが、ヨーグルトは確かにフタにはくっつきませんでしたが、蓮の葉を水が転がるように滑らかには流れませんでした。)このような写真や動画を用いてThink 1のオーラルイントロダクションを行えば、生徒はより親近感を持って題材を理解できるのではないでしょうか。
 この教材を大学の授業やさまざまな教員研修でご紹介したところ、多くの先生方から好評を得られました。
自分が中学校の先生だったら、どんなことにチャレンジしたい?
ここでは、ある中学校の3年生向けに実際に行った授業についてお伝えしたいと思います。その中学校の英語授業のアドバイザーを務めていた際に、示範授業として2年生PROGRAM 3のA Hot Sport Todayの最初の2時間の授業を受け持つことになりました。
 1時間目では、1人1台ずつ小さなホワイトボードを用いて、お互いを知るために自己紹介クイズを行いました。一人ひとりの解答を読み上げ、その内容を確認していくことで、生徒の表情や行動に生き生きと変化していきました。最大のチャレンジは、授業の後半20分ほどで、新出文法の導入として位置づけられているScenesではなく、本文であるThink 1のオーラルイントロダクションと、英語と日本語によるリテリングを行ったことです。生徒たちの振り返りコメントを読むと、かなり難しかったようですが、生徒たちは前向きに取り組んでくれました。「間違えてもOK」というルールをくり返し伝えたのもよかったようです。
 2時間目には、ALTとのTeam Teachingで、スモールトークや本文内容の確認、そして再びリテリングを行いました。2回目のということもあり、ペアの相手のリテリングを聞いて書き出すという、少しレベルを上げたタスクに取り組みました。リテリングを通して本文の内容をしっかり把握させることも、新たなチャレンジでした。
 授業はほとんど英語で進めましたが、みな頑張ってくれました。この授業の動画は、教育委員会を通じて市内の先生方に向けて配信されるようです。
今後の英語教育に期待することは何ですか。
授業では、もっと言語活動にチャレンジしてほしいと思います。
 先日、「令和5年度全国学力・学習状況調査」の結果が公表されましたが、特に「書くこと」と「話すこと」のアウトプットに課題があることが明らかになりました。毎年多くの中学校で授業を見せていただきますが、日々の言語活動やパフォーマンス活動の重要性を理解しているものの、それらの活動を取り入れることに臆病になっている先生が時におられると感じます。
 安心・安全な教室環境を設定し、生徒が本来持っている力を引き出すような授業を展開することによって、彼らは少しずつ力をつけていくでしょう。教師は主導するのではなく、ファシリテーターとして生徒をサポートすること、さらには生徒自身がファシリテーターとして互いを支援し、励まし合える関係を作っていくことが大切です。教師は、それぞれの生徒の強みを活かして、彼らの苦手分野にばかり目を向けるのではなく、まずはできていることをたくさん褒め、自己肯定感や自己効力感を高めたうえで、苦手にチャレンジできるように励ましていきましょう。
もどる 第2回へ