第9回 新しいSunshineを使った入門期の指導―小学校英語との接続を図るために―

0. はじめに

 平成23年4月から,小学校で「外国語活動」が全面実施となりました。続いて,平成24年4月には中学校で,新学習指導要領に則って編纂された教科書を使った,新時代の英語教育がスタートします。第6回では,新しいステージへと船出した英語教育をとらえ,「小学校の英語活動を踏まえた中学校英語のスタート」について考察しました。本稿では,実際の授業で,どのようにしてスムーズに小・中の英語の接続を図るか,平成24年度に出版される新しいSunshine English Course(以下,Sunshine)をご紹介しながら,入門期の指導の具体的な方法を検討します。

1. 入門期の指導

 第2回でもご紹介しましたが,新学習指導要領に掲げられた小学校「外国語活動」と中学校「外国語」の「目標」は類似していて,両者に連続性があることが読み取れます。そのため,中学校の英語教師は小学校の英語活動を理解し,その延長線上に,中学校の入門期の指導を計画する必要があります。そこではじめに,小学校の英語活動の方法と成果を考察し,中学校入門期の指導の主な留意点をまとめます。

小学校英語の方法
 小学校ではとりわけ「聞くこと」が重視されることから,「聞くこと」の面からの連携が推進されます。小学校英語の聞き取りは,細部にはこだわらず,聞き取れた単語を繋ぎ合わせ,場面や表情などの助けを借りて大まかに理解するトップダウン式です。したがって新入生の理解力は,中学校の英語学習の中心となるボトムアップ式の分析的で正確さを求める理解力とは異なることに注意が必要です。

 また,小学校での聞き取りは成功体験が大切にされるので,新入生は英語をわかっている気になって中学校に入学してきます。そこで生徒が「中学校の英語はわからない」と失望しないように,入門期には小学校で慣れ親しんでいる教室英語やティーチャー・トークで,生徒が理解可能な音声インプットを選んで与え,小学校で育んだ「わかる」という気持ちを大切にしてコミュニケーションの意欲を持続させるようにします。

小学校英語の成果
 小学校の「外国語活動」は,文部科学省によって到達目標が示されておらず,学校によって開始学年が異なり,独自教材を使う学校もあるので,新入生の英語力にはバラツキがあります。また,正確さは求められず,習ったことが定着しているかどうかのチェックもありません。そこで,中学校の指導者は早い段階で,発音,語彙,表現,「聞くこと」,「話すこと」などの観点から生徒の英語力の実態を把握し,自分の指導内容と方法を調整する必要があります。また,生徒が小学校で身につけてきた英語を,新しい視点からとらえ直したり,体系的に文字を指導したりするなどして,知的興味を刺激し,「中学校の英語は小学校の英語とは違う!」という期待感を高めるようにします。

 以上のことを念頭に置いて,次節では新しいSunshineの紙面を参照しながら,実際の入門期の指導の方法を考えます。

2.実際の指導 ― Let’s Start

 中学1年生用のSunshine 1では,本課にあたるPROGRAMに入る以前に,小学校英語から中学校英語へのスムーズな移行を目指したLet’s Start 1~4を設けました。

Let’s Start 1
 図1にはLet’s Start 1の紙面の一部を示しました。ここでは,生徒が小学校で慣れ親しんできた「あいさつ」を聞いて,自分が知っている言い方で応えます。「できる!」という自信をもって,中学校英語をスタートさせるための活動です。

 また,小学校で当たり前のように使ってきたあいさつを文字で提示し,生徒がパターンで覚えていた「ハウアーユー」が,実はhow, are, youの3語からなることを明らかにします。既知の事柄を中学校英語の視点からとらえ直し,生徒の知的興味を刺激し,新たな英語の学びに対する期待感を高めます。

Let's Start1(p.6)

図1 Let's Start 1(p.6)より

Let’s Start 2
 図2はLet’s Start 2の紙面の一部です。小学校英語は,身近な話題を取り上げることが多いので,日用品や文具の名前など,中学校の教科書ではあまり扱われない語彙を生徒が習得していることが考えられます。ここでは,状況を提示するイラストを使って,創造的に多様な活動を行うことができます。たとえば,教師が“a car”, “a red box”, “You can see a cat.”と言うのを聞いて,生徒がそれをイラストの中から探して指さす。教師がイラスト中の本をさして,“We can see some books on the desk. How many books can you see? Let’s count together. One, two, three…”と言ってインタラクションを図りながら,生徒と一緒に本の数を数える。さらに“What can you see on the desk?”と教師が質問して,生徒が知っている英語を駆使して自由に答える。このように,イラストをもとに,小学校で経験してきたようなティーチャー・トークを使って,生徒の語彙力と表現力の広がりを把握,確認します。

Let's Start2(pp.8-9)

図2 Let's Start 2(pp.8-9)より

Let’s Start 3
 図3と図4は,Let’s Start 3の紙面の一例です。生徒はCDから流れる発話を聞いて,タスクに解答します。教師は,生徒が実際にどの程度の聞き取り能力があるのかを確認することができます。扱うタスクは,生徒が『英語ノート』で慣れ親しんでいる形式なので,安心して取り組めます。

 図4の活動では,自己表現の機会を与え,生徒が文レベルの表現をどの程度,どのように身につけているかを確かめます。たとえば,生徒は『英語ノート 1』で“I like apples.”という表現に触れています。それを決まり文句として丸ごと覚えているのか,それとも文の一部を入れ替えて自分の言いたいことを伝えられる状態で身につけているのか,文の生成力のレベルを確認し,今後の「ことばのルール」の指導をどのように展開するかを検討します。

Let's Start 3(p.10) Let's Start 3(p.11)
図3 Let's Start 3(p.10)より 図4 Let's Start 3(p.11)より

 

Let’s Start 4
 図5はLet’s Start 4の紙面の一部です。ここでは,生徒がどの程度正しい発音を身につけているのか,小学校で触れたカタカナ語を利用して確認します。英語らしい発音を聞いて理解できるか,英語らしく発音できるか,受容と発表の両者のレベルを把握しながら,英語らしい発音に憧れさせます。カタカナ語は生徒にとって親しみがあり,日本語と英語の対比がわかりやすいので,取り組みやすい教材です。ただし,入門期には,個人の発音を取り上げてこと細かに矯正をすることは避けます。通じることを大切にする小学校英語では,発音を矯正することはまれなので,小学校では通じた発音が中学校で直されると,意欲をそぐことがあるからです。

Let's Start 4(p.12)

図5 Let's Start 4(p.12)より

 Let’s Startを通して,生徒が『英語ノート』で親しんできたイラストと同じイラストレーターを起用していることにもご注目ください。これは小・中の英語のギャップを和らげるための配慮です。新しいSunshineではこうした細かい点まで気を配っており,小学校英語との連携を丁寧に扱っています。

3.実際の指導 ― PROGRAM 1

 新しいSunshineでは,小学校英語によって音声指導が充実したこと,中学校外国語の時間数が増えたことを踏まえて,中学校入門期におけるアルファベットの文字指導と,アルファベットの文字と発音の関係の指導を,時間をかけて丁寧に行えるように,通常の課(PROGRAM 1)として位置づけました。ここでは,その内容を詳しくご紹介します。

PROGRAM 1-1
 図6にPROGRAM 1-1の活動例の一部を示しました。ここではアルファベットの大文字・小文字と,アルファベットが表す音を確認します。さらに,子音と母音の発音に意識を向けさせるためのクイズ形式の活動もあります。これらは,小学校で,聞いて読んだアルファベットを振り返り,より深い文字学習へ踏み込むための最初のステップとなっています。

PROGRAM 1-1(p.14)

図6 PROGRAM 1-1(p.14)より

PROGRAM 1-2
 図7はPROGRAM 1-2の一部で,A~Zのアルファベットの文字とそれが表す音の関係を理解するための活動です。文字と発音の関係の全てを一度に覚えることは難しいのですが,必要に応じて,いつでもこのページに戻ってルールを確認することができます。また,これに連動させて,教科書の巻末には,教科書に出現した単語を使って,綴り字と発音の関係を整理したリストがあります(図8)。既習の単語を利用して多数の事例に触れることで,綴り字と発音の関係を,体系的,帰納的に理解して習得できるように工夫しました。このように,新しいSunshineは,英語力の基礎であるアルファベットの文字と発音の関係の理解と習得を大切にしています。

PROGRAM 1-2(p.16)
巻末資料5「英語のつづり字と発音」(p.144)
図7 PROGRAM 1-2(p.16)より 図8 巻末資料5「英語のつづり字と発音」
(p.144)より

PROGRAM 1-3
 図9には,PROGRAM 1-3の活動の一例を示しました。ここではアルファベットの形に注意を向けさせます。文字の形に注意して「なぞる」,よく見て正確に「書き写す」という活動を通して,文字を定着させます。これに連動して教科書の巻末には,ペンマンシップが付いていて,単語や文を実際に書いてアルファベットを覚えることができます(図10)。厚手の紙を使っているので,消しゴムで消して何回でもくり返し練習することができます。

PROGRAM 1-3(p.18)
巻末資料8「ペンマンシップ」(とじ込み)
図9 PROGRAM 1-3(p.18)より 図10 巻末資料8「ペンマンシップ」
(とじ込み)より

PROGRAM 1の仕上げ
 PROGRAM 1の最後には,仕上げとして,遊びながらアルファベットを確認し,習得するゲームを付けました。図11はその一例です。文字の習得には反復練習が欠かせません。生徒が,飽きずにくり返して練習できるように,数種類のゲーム活動があり,消しゴムで消して何度でも使うことができます。

アルファベットゲーム(p.20)

図11 アルファベットゲーム(p.20)より

 新しいSunshineは,生徒にとっても教師にとっても,丁寧でわかりやすい新時代の英語教育を目指した教科書です。本稿では,新しいSunshineの特長のひとつである小・中の連携を図ったLet’s StartとPROGRAM 1をご紹介しました。ぜひ,新しいSunshineを手に取って,その充実した内容を実感なさってください。

西垣知佳子 (にしがきちかこ)
西垣知佳子千葉大学教授。教育学部で小・中・高の英語教員の養成を担当。専門はリスニングと,語彙の学習と指導。「英語力」「授業力」「言語・文化の知識」を備えた英語教師の育成を目指す。人は生涯学び続けるもの。学生には学んだことに自分の視点を加えることで,英語教師としての実力を身につけてほしいと思う。
主な著書
『デイリー英単語 あら・かるた』(開隆堂),『リスニングが上達する!CD付英語楽習マガジンNon Stop English Wave』(日本英語検定協会),NHKラジオ講座『英語リスニング入門』番組講師(2002年~2004年)など。