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即興力の育成はどのようになすべきか?

大塚謙二(北海道厚真あつま町立厚南こうなん中学校教諭)

 令和3年度から完全実施される中学校学習指導要領の解説「外国語編」では「即興」という言葉が27回使用され,「話すこと(発表)」については「暗唱ではなく即興」というステップアップした目標設定がなされました。以下に一部を引用します(下線は筆者による)。

(3)話すこと[やり取り]

ア 関心のある事柄について,簡単な語句や文を用いて即興で伝え合うことができるようにする。
(中略)

(4)話すこと[発表]

ア 関心のある事柄について,簡単な語句や文を用いて即興で話すことができるようにする。

 (前略)「関心のある事柄」とは,「話すこと[やり取り]」アと同様,例えば,スポーツ,音楽,映画,テレビ番組,学校行事,休日の計画,日常の出来事など,身の回りのことで生徒が共通して関心をもっていることを意味している。(中略)
 小学校では「伝えようとする内容を整理した上で」話すのに対して,中学校では,「即興で」話すことができるようになることが求められる。したがって,事前に原稿を書いてそれを暗唱したりするのではなく,興味・関心のある事柄であれば,既習の知識や技能を生かしてその場で話せるようにする必要がある。即興で話す力については,一度の授業や言語活動で身に付くものではない。1年生から即興で話す活動に継続的に取り組ませることで,即興で話す力を高めていく必要がある。

 SUNSHINE ENGLISH COURSEのパフォーマンス活動My Projectは,「スピーチ原稿の作成 → 原稿を暗記 → 声の大きさ,ジェスチャーの使い方を意識して発表」の流れで行うprepared speechの活動です。その流れの中で,他の生徒の英文を読んで参考にしたり,他の生徒に日本語や英語で助言したりする(協働)活動を行ってきました。

 しかし,新学習指導要領では,小学校でそれがある程度実施されます。そして,中学校では「発表」の重点が「即興」にシフトし,目標が「暗唱」ではなく「即興で話す」力の育成になりました。即興力を育成するには,学習指導要領解説にもあるように「1年生から即興で話す活動に継続的に取り組ませる」ということに尽きますが,本稿では具体的にどのように取り組んでいくと話せるようになるのかを私の実践を交えてご紹介します。

即興力を高める活動を毎時間行う ―英語を話す場面をつくる―

 教室には,英語の授業が「好き/嫌い」,「得意/不得意」,「意欲的/消極的」など多様な生徒がおり,日々苦労しながら指導しています。しかし,授業の始めに帯活動としてペアやグループで行う即興の発話活動をすると,多くの生徒がいきいきと活動します。

 「1分間chat」,「1分間speech」などは時間もかからないので,教師中心の授業を生徒中心の取り組みへと手軽に転換できます。生徒指導がかなり困難な学級でない限り,生徒たちは「パートナーをないがしろにしてはいけない」と感じ,全員が意欲的に取り組み始めます。また,英語でやり取りする楽しさを見出すことで発話が活発になり,その時間の授業全体が意欲的な雰囲気に包まれていきます。

 そのときに,生徒のレベルにぴったり合うトピックを選ぶようにすると,生徒はどんどん話すようになります。これを毎回の授業で数分行うだけで,生徒たちは英語を話すことに慣れ,英語が苦手な生徒や間違いを恐れてあまり話したがらない生徒も,クラスの雰囲気に影響されて話すようになっていきます。習うより慣れることが重要なのです。

 私は1年生の最初の授業で「1分間chat」を行っています。Hello, how are you? で始めて,Thank you for talking. で終わる練習をしたら,すぐに活動を開始します。小学校で学んだ表現にはDo you~?, Can you~? など,ある程度の蓄積があります。1分間では長いと感じる場合は30秒から始めると,難易度が下がって取り組みやすくなります。

 そして,1学期が終わる頃,My Project 1で自己紹介をします。それが終わったタイミングで帯活動を「1分間speech」に変えます。My Project 1で発表した内容をスピーチしても1分間もかからないので,既習表現の I [don’t] like ~. やその他の一般動詞などを使った文を即興で加えて話させます。この「50%即興のスピーキング活動」を授業に加えると,「100%即興のスピーキング活動」への準備にもなります。また,生徒が話しやすくなる足場掛けとしては,活動前に1分間のplanning timeを設定する,活動前・中・後に「英語で言いたいけど言えなかったこと」を調べたり指導したりする,よく使う語彙や表現を提示したりすることなどが考えられます。

雰囲気づくりと修正feedback ―生徒が理解可能な英語を聞かせて基礎をつくる―

 授業の最初にあいさつをしたあと,続けて「昨日の出来事」,「ニュースで話題になったこと」などを英語で話します。関連する質問を生徒に投げかけると,多くの生徒は頭の中で質問に対する答え方をリハーサルします。そして,対話の仕方を学んでいきます。教師が既習事項をフルに活用して生徒が理解可能な程度の英語で話すと,生徒は聞く気になり,聞く力を高めていきます。それがSmall Talkやchatのモデルにもなります。

 また,生徒とのQ&Aで,T: What did you eat for breakfast this morning?  S: I eat cereal.  T: You ate cereal.  Was it good? のように,最初は暗黙的なfeedbackで修正し,良好な関係ができたら明示的に「I eat じゃなくて I ate」と修正すると,多くの生徒にとってaccuracyを高める気づきになります。

 教師のSmall Talkや生徒とのQ&Aなど,自然な流れの中で英語をたくさん使うことで英語を話すことへの抵抗感を低減し,英語を話すのが普通だという雰囲気にしましょう。その小さな積み重ねが最終的には即興のスピーチ,ディベート,ディスカッションへとつながっていきます。

学んだ表現をくり返し使用する場面をつくる ―モデルを示して発展させる―

 SUNSHINEでは新出表現を学ぶとき,Listen,Speak,Tryの3つの活動が位置づけられています。Listenではその表現を聞くことで理解・確認し,Speakではその形式をきちんと理解して正確に使えるようにする(accuracyを高める)ための練習を行い,Tryではある程度トピックの使用場面を限定し,即興で自由に使える前段階を目指しています(fluencyを高める)。

 次の段階で生徒に練習させたいのが,その新しく学んだ表現を使って,自分の身近なトピックについて即興で自由に話す活動です。それを行うベストタイミングは,新出表現を学習した次の授業で行う「1分間chat / speech」です。学んだ表現を忘れてしまった生徒には,適度な時間をあけての復習は印象深く思い出すチャンスにもなり,また,初出ではなく使い慣れ始めた表現なので,前の授業よりも使いやすくなります。このタイミングでの復習と発話は本当に大切です。

 例えば前時に一般動詞の過去形を学んだ場合,翌日の授業では「yesterday」というトピックで「1分間speech」を行います。ヒントになるものやモデルを与えないでこれを行うと,

このような単なる過去の出来事の羅列になってしまいます。英語が苦手な生徒にとっての学びとしては許容できますが,誰かに伝える文章としては不自然です。これを避けるために,生徒が発話しやすいようにヒントとなる語彙や資料を提示し,足場掛けをします。以下のように,スピーチを広げる構成のモデル(2年生My Project 5の内容を先取り)をプリントやスクリーンに提示し,これを意識させ,毎回の授業でくり返し発話させながらaccuracyfluencyを高めていきます。

 特別な教材を使わず,教科書の進度に即した内容で1分間の発話活動を行える流れを,本稿の最後に提示しますのでご覧ください。このようなものがあると3年間を通して取り組みやすくなります。そして,My Projectの内容を即興のスピーチで1,2週間前から行っておくと,My Projectの際に短時間で英文を作れるようになります。

反応しながらスピーチを聞く練習で更なる発展を ―発表力,対話力を高める―

 SUNSHINEでは,2年生の1学期末にMy Project 4で「対話のつなぎ方」を学習します。「くり返し・相づち」「質問」「意見・感想」は,自然なコミュニケーションには必須のものです。しかし,ここで学んでもそれ以降使わなければ,本当に使えるという状態にはなりません。

 そこで,「1分間speech」を行うとき,パートナーの話す内容に対して,それらを使って反応しながら聞くように促します。すると,聞く側も能動的に聞くようになり,話す側も話しやすくなります。話を聞いたその場で質問することは難易度が高いのですが,日常的に取り組んでいると質問しやすくなり,普段の会話やミニディベートなどの意見交換の場でも使えるスキルの練習になります。chatとspeechの中間に位置するこの活動は,1人で長めに話すトレーニングになるので,制限時間を90秒に伸ばすなどして難易度を高めると,3年生になっても発展的に継続することができます。

おわりに

 教科書はいろいろな制約があるため,掲載できないことが意外と多くあります。例えるなら,豪華に完成された料理というよりも,あとひと手間で完成する手前の状態と言えるかもしれません。そして,そのひと手間(どんなスパイスを加えるのか?煮るのか?焼くのか?)を,目の前の生徒たちにぴったりフィットさせると素晴らしい授業ができあがります。教科書から離れた一見華やかな投げ込み教材を使用して短期的に即興力を伸ばす試みよりは,各学年のゴールを目指して日々の「教科書の内容+α」で少しずつスピーキング活動を着実に積み上げていくほうが,教科書の内容を深く学びながら,時間を無駄にせず,進度も気にすることなく生徒の力を高めることができるのです。「教科書を教えるのではなく,教科書で教える」これは,今も昔も変わらぬ大切なことだと思います。

 

資料 3年間の主な1分間chat / speechの流れ

即興力を高めるスピーキング活動(略案)

1年生

◆1 minute chat

4月 初日から「1分間chat」を導入(Let's Startを参考に)
    ★小学校の既習事項で可能
     開始:Hello, how are you?  終了:Thank you for talking.
5月 Program 2 互いに名前や出身を言う(canは小学校で既習なので使用させる)
  Program 3 肯定,疑問,否定(一般動詞を使った表現をプラスしていく)
    ★時々chatからspeechにしてみる
6月 My Project 1 「自分のことを話そう」【自己紹介スピーチ】

◆1分間speech

7月 自己紹介スピーチ終了後 「1分間speech」開始
  【自己紹介(7月①)に情報をプラス】
     I like~. / I don't like~. / I can play~. / I can't eat~. など
  Power Up 4 What time 学習後
    【自己紹介(7月①)+1日のスケジュール紹介】
     get up / eat breakfast / get home / take a bath / go to bed など
9月 Program 6 3単現のS 学習後 【私と家族のスケジュール】
10月 【家族紹介 / アニメキャラクター紹介】(例:ドラえもん)
     This is ~. / He is 性格. / He can[can't]~. / He likes(一般動詞)~. など
    ★感想や意見を付け加えて言い,ディベートやディスカッションにつなげる
11月 【My favorite person,アニメキャラクター】
12月 My Project 2 「人を紹介しよう」【スピーチ】
12~
1月
「人を紹介しよう」に即興で情報を加える(例:家族,芸能人など)
1月 現在進行形 学習後 Picture description
2月 過去形 学習後
     yesterday / last weekend (例:テレビ,学校行事など)
3月 My Project 3 「知りたい情報を引き出そう」

2年生

5月 助動詞・未来時制 学習後
     tomorrow / this weekend / vacation など
7月 My Project 4 「スキット作りを楽しもう」(対話のつなぎ方)
    ★相づち,感想,質問を使ったチャット,相手のスピーチを能動的に聞く
8月 There is 学習後 Picture description 【私の部屋,街,好きな国紹介】
9月 不定詞 学習後 【将来の夢】
     I want to be a ~. / I will go to ~ to study …. など
    【スピーチの構成】(My Project 5の内容を先取り)
11月 【My favorite person】
  My Project 5 「スピーチをしよう―こんな人になりたい」【スピーチの構成】
12月 比較級 学習後 【impromptu speech】 Which do you like better, A or B?
    ★意見を述べるスピーチ構成の定着
     (例:「都会or田舎」「弁当or給食」)
    ★Picture description 写真やイラストを英語で表現する
3月 受け身の文 学習後 ~の頃にされたこと,感想
  My Project 6 「CMを作ろうーこんなものがほしい」
    【スピーチの構成】(理由の表現方法)

3年生

 3年生では今までの活動をアレンジし,難易度を高めたトピックを扱ったり,制限時間を延長したり,話してから書いたり,他の生徒の書いた物を読んだりするなどの統合的な活動を行う。

完了形 学習後 (幼少,小学校の)思い出,習い事

     have been to / have eaten など
    ★英検3級,準2級2次問題の絵を表現する活動
    ★News Telling
    …ペアの聞き手が後ろを向き,話し手はスクリーンに表示された日本語のネットニュースの一部を英語で伝える。伝え終わったら,聞き手は理解したことを日本語で話し手に伝える。終了後,スクリーンのニュースを確認する。この活動では,自分が持っている英語力で,日本語の内容を英語で表現する力をつける。
    ★Mini Debate 「都会or田舎」「弁当or給食」などについての簡易版ディベート

関係代名詞「これって何?」クイズ

    ある1つの単語について,互いに関係代名詞を使って英語でヒントを出し合う。

※トピックは,スポーツ,音楽,映画,テレビ番組,学校行事,休日の計画,日常の出来事など,身の回りのことで生徒が関心をもちそうなことを選択する。

※話してから書かせると時間をかけて文章を書くので正確性を高めようとしていた。

大塚 謙二(おおつか けんじ)

 北海道教育大学大学院 教育学研究科英語教育専攻修士課程修了。1986年より北海道の公立中学校で教鞭をとり,現在は北海道厚真町立厚南中学校教諭。平成21年に北海道教育委員会より北海道教育実践表彰受賞,平成22年には平成21年度文部科学大臣優秀教員表彰受賞。
 「英語の授業は,英語力と仲間を思いやる気持ちを育てる力を持っています!目の前の子どもたちに,気づきと感動と発見のある授業を通して,多くのスキルを身につけてもらいたいです!」

主な著書

『教科書だけでここまでできる! 最強英語授業のつくり方』(学陽書房),『基礎からわかる! 成功する英語授業の組み立て方』,『英語教師力をアップする100の習慣』,『成功する小中連携! 生徒を英語好きにする入門期の活動55』(ともに明治図書出版),『成長する英語教師をめざして』(共著・ひつじ書房)ほか多数。