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Retellingのすすめ

卯城祐司(筑波大学教授)

Retelling(再話)とは?

 再話(Retelling)は,実は私たちが日常生活の中でよく行っている活動です。今日一日,学校で起きた出来事を夕食で家族に話したり,前の日にテレビで見たお笑い番組の内容を学校で友だちに話したりするのも再話です。再話の指示としては,次のようなものになります。

Pretend that you are asked to tell the story to other kids in the class who have never heard the story before. What would you tell them happened in that story? Can you remember anything else? (Golden, 1988)

どんな話だったのか,この話を知らない人に説明してください。話の中でどんなことが起こりましたか。他に覚えていることはありますか。

 つまり,再話は「ストーリーを読んだ後に,原稿を見ない状態で,そのストーリーの内容を知らない人に語る活動」と定義できます(卯城,2009)。英文を読んだ後に再話を行うと,どのくらい英文を理解できたか診断することができ,また,細かな英文内容だけでなく大事なポイントを押さえているかどうかもわかります。英文を読み,相手に語り,また相手のRetellingを聞き,そして書いてまとめるなど,4技能を統合した活動にもつなげることができます。何より,英文を読んだ後に教師が内容について質問して答える活動に比べて,学習者(読み手)主体の活動です。

Retelling(再話)とMemorization(暗記)の違い

 Retelling(再話)の最大のメリットは,すでに読んだ英文内容の理解を深められることです。英文を読んだ後は通常,Retellingを行う前に教科書を閉じてしまうため,この活動中に理解が深まることがちょっと不思議に思われるかもしれません。ポイントは「英文内容を知らない誰かに語る」というところにあります。

 内容を一生懸命伝えようとすると,頭の中で英文内容を整理して,わかりやすいことばで相手に語ります。この過程で,英文内容の理解が深まるのです。つまり,「英語が読めた(あるいは聞けた)」というのは,一語でも多くの英語や情報が頭の中に入ることではなく,それらの内容が,きちんと整理されている状態を指します。Retellingは,「相手にわかりやすく伝えよう」という気持ちを強く意識できればできるほど,整理整頓の活動となるのです。

 英文を読んだ後にその内容を誰かに伝えるとなると,人によっては,英文を一語一句暗記しなければならないと錯覚するかもしれません。暗記する活動も英語を頭の中に入れる効果はあるものの,英文内容の整理整頓にはつながらないため,英文内容の理解を深める効果は見込めません。

 Retellingが,英文を読むことから4技能を統合した活動につながることにはすでに触れましたが,本文のMemorizationに終わってしまうと,同じような場面・展開でなければ生きないオウム型の活動に終わります。時に身振り手振りを交え,少しでもやさしい英語で,相手の理解を確かめつつ効果的に間を置いたり,語るスピードを変えたりしながら自分のことばでRetellingするとき,コミュニケーション能力が高まっていきます。

中学生段階のRetellingと効果的な支援

 「自分のことばで」と言っても,まだ中学生段階では,それほど英語のバリエーションも豊富ではありません。また,教室には,必ずしも英語が得意な生徒ばかりがいるわけではないでしょう。まずは,しっかりと「本文を通して音読し,内容を確認する」ことから始める必要があります。英文を何度も音読し,頭に残った1文,2文をつなげたら,それはもう立派なRetellingです。

 Retellingの際に参考にできるよう,本文の「語句や写真,絵」などを材料として与えることは,効果的な支援となります。このとき,教師がその中の語句や写真のひとつを用いて例を示してもよいでしょう。生徒一人ひとりが伝えたい内容,あるいは頭に残っている内容は異なるので,補助として示した語句や写真,絵の全部を使わなくともよいことを事前に伝えて安心させることも重要です。「全ての内容を」「少しでも多くの英文を」と意識すると,Memorizationになってしまいます。

 中1段階では,まず,本文の一場面を思い出し,あるいはその内容を表す絵をもとに日本語でRetellingすることくらいから始めてみましょう。英語学習の初期段階では,英語でのRetellingを意識するあまり,やはりMemorizationになってしまう恐れがあるからです。ただし,日本語でRetelling,そして次に英語でRetellingという手順を踏むときは,最初の日本語Retellingを翻訳しないように,日本語Retellingの目的を内容整理とすることも大事です。
 中2,中3と段階が上がるにつれ,補助として与えた語句のほかに付け加えたい語句をメモして使ってみたり,英文内容を自分で整理してメモし,その内容を組み立てたりすることにも挑戦させてみると力がつきます。

Oral Introduction,質問,本文の通し読み,全てがRetellingにつながる

 「さあ,Retellingしてみましょう」といきなり指示をしても,なかなかことばは出てきません。まずは,教師が行うOral Introductionが,Retellingのいちばんのモデルとなるでしょう。ここで,難しい表現を言いかえたり例を挙げたりとバリエーションを示すことが,生徒が「自分のことばで語る」Retellingにつながっていきます。また,英文を読んだ後の英問英答では,その英語の答えをつなげるとRetellingとなるように,本文理解を導くことができます。さらに,本文を読むときは,ひと通り学んだ後に英文を通して読んだり,学年が上がれば初見での通し読みに挑戦したりするなど,英文全体を俯瞰して理解することを目指すのも大事です。

 Retellingは難しいと恐れず,まずは1枚の絵を使ってPicture Descriptionしてみるのもよいでしょう。だまし絵を使ったり,抽象的な絵画を用いたりして,それが何を表しているのか英語で表現してみることもおもしろい活動です。このような活動を通して,Retellingには「間違い」や「失敗」がないと理解させることができます。

(1)テキストをどのように読むか
(例:教師が音読する,生徒が音読する,生徒が黙読する)
(2)再話をどのような形式で行うか(口頭または筆記)
(3)テキストの読解と再話との間にテキスト内容の図式化(マッピング)を行うか

 Retellingの活動は,上記(1)~(3)を考慮することによって,「聞く」「読む」「話す」「書く」という4つの言語技能を様々に組み合わせ,形式にバリエーションを持たせることができます。また,卯城(2011)では(1)インフォメーション・ギャップを活用した再話の導入活動(2)クリエイティブ再話(3)ジグソー再話などの発展形も紹介しています。「語れること」そして「伝えたいこと」を,相手に伝えることから始めてみましょう。

●参考文献
Golden.J.M (1988). The construction of a literary text in a story-reading lesson. In: J.L.Green & J.O.Harker (eds.) Multiple perspective analyses of classroom discourse, 71-106. Norwood, NJ: Ablex.
卯城祐司(2009)『英語リーディングの科学:「読めたつもり」の謎を解く』研究社.
卯城祐司(2011)『英語で英語を読む授業』研究社.

卯城 祐司(うしろ ゆうじ)

 北海道の公立高等学校3校,北海道教育大学釧路校を経て,現在は筑波大学人文社会系教授。博士(言語学)。専門は英語教授法全般,リーディングおよび第二言語習得。全国英語教育学会会長,小学校英語教育学会会長,関東甲信越英語教育学会会長などを歴任。文部科学省「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」,「外国語能力の向上に関する検討会」委員などの要職を務める。
 「英語は『楽習』です。共に英語教育「楽」を目指しましょう!」

主な著書

『英語で英語を読む授業』『英語リーディングの科学:「読めたつもり」の謎を解く』『英語リーディングテストの考え方と作り方』『英語で教える英文法:場面で導入・活動で理解』(以上編著・研究社),『小中連携Q&Aと実践:小学校外国語活動と中学校英語をつなぐ40のヒント』(共編著・開隆堂出版),『図解で納得!英語情報ハンドブック』(ぎょうせい)ほか多数。