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アウトプット重視で本当の学力がつく

吉田喜美子(佐賀県吉野ヶ里町立東ふり中学校教諭)

バックワードデザインで計画を立て,目標への道のりをクリアにしよう

 言語をうまく使いこなして,意見や考えを伝え合い,お互いに理解し合えるようになるには,どのような指導をすればよいのでしょうか。それはずばり,「使わせながら身につけさせる」ことを念頭において指導することです。英語の先生である皆さんは,言語を獲得されてきた経験上,よくご存じだと思います。自分の意見や考えが相手に伝わったときのうれしさを,私たちはみな知っています。
 しかし,授業の悩みで多く聞かれるのは,「(英語を使わせる活動を行う)時間がありません」ということばです。では,どのようにすれば時間を生み出せるのでしょうか。そのためには,バックワードデザインで授業計画を立て,目標に向かって活動を精選していくことが大切になってきます。

 まず,単元のゴールで生徒にどのような力を身につけさせたいのか,そしてそれを身につけさせるためにどのような活動を仕組むのかを決め,それを生徒たちと共有しましょう。それができたら,次は全ての学習活動を目標の達成に向けて関連づけし直します。

 活動の目的と方法がクリアになれば,その達成のために必要な学習活動(文法学習や音読練習,家庭学習など)に,生徒たちは自ら取り組むようになります。そして,活動の中で自分の言語知識を使いながら,「うまく伝えることができない」「伝え方がわからない」と自覚したときに,生徒たちは次の目標に向かって猛烈に勉強をし始めるのです。

 下記は筆者が勤務校で取り組んでいる中学2年生の実践において,生徒たちに身につけさせたい力に向かって立てた指導構想図です。

「気軽にアウトプットする」ことを習慣化しよう

 SUNSHINE ENGLISH COURSEBasic Dialogでは,新出言語材料を2ターン程度の対話形式で導入しています。本WEBマガジンの第1回「新学習指導要領の『新機軸』とは何か」(中編)にもありますが,まずはBasic Dialogを「まんが」や「ドラマ」の一場面のように,場面を思い浮かべながら導入し,音読練習をしましょう。
 言語材料を学んだら,その知識を使って気軽にアウトプット活動に取り組んでみましょう。最も気軽でしかも楽しく取り組める方法として,次の活動を紹介します。

Basic Dialogの一部を入れ替えたり削ったりして,オリジナルバージョンを作成する。
「演読」練習をし,教師の見取りとフィードバックを受ける。

 慣れてくると,場面がさらにわかりやすくなるよう,セリフを足したり,3ターン,4ターンと,対話を伸ばしたりする生徒たちが出てきます。また,ジェスチャー・リーディングは,場面の状況を最もよく表現できる手段の一つですから,Basic Dialogの学習の際に積極的に導入しましょう。
 オリジナルのBasic Dialogが完成したら,発表の場を設け,クラス内でシェアしましょう。友だちの「作品」から学び,刺激を受けることで,次の活動への意欲が高まり,質の改善を図ることができます。

Basic Dialog(SUNSHINE 2 PROGRAM7-3)

オリジナルBasic Dialogの作品例(2年生PROGRAM 7-3)

※太字は(教科書のBasic Dialogから)加筆された部分,取消線は削除された部分
【状況設定】仲のよいA(弟)とB(兄)の会話

AListen! Today is my birthday.
B Oh, that’s right! hHappy birthday! I’m sorry I forgot.
A You forgot? That’s OK.
B Well, I’ll give you a present tomorrow.
What do you want?
A I don’t need anything. Let’s play together!
B I see. How about fishing next Sunday?
A That’s a good idea. Let’s go!

 アウトプット活動は,特別な活動ではなく,むしろ日常的な活動として捉えていきたいものです。Basic Dialogで気軽にアウトプット活動を行う習慣を身につけておくと,発展的な言語活動に取り組む際のハードルが下がり,質の向上が期待できます。

時間を効率的に使うために,活動の組み方を再考しよう

 言語に関する知識については,体系化して指導し,理解・定着させましょう。生徒たちのぼんやりした知識を,関連事項をリンクさせながらスッキリと整理させ,より効率よく習得させることをねらいます。そのためには,すべてのPROGRAMで「文法①→本文①」→「文法②→本文②」…といった流れが途切れる指導をくり返すのではなく,「言語材料をまとめて導入・言語活動➝本文を通しで読解・表現活動」といった流れへ転換してみましょう。

 まず,PROGRAM内の言語材料を扱います。生徒たちは,Basic Dialogによって場面を想起しながら,ことばの使い方について理解を深めます。次に,Basic Dialogをアレンジしてそれをアウトプットします。これにより,自分のことに置き換えられるので,より実生活に近い場面での言語活動を通してことばの使い方を学ぶことができます。これらの活動によって,アウトプットする習慣の基礎を築いていきます。
 続いて,本文を通して読み,理解したり考えたりした内容を,自分のことばで伝え合う言語活動に取り組むのです。このように,指導の流れを入れ替えてみると,「考えることはおもしろい!」「自分の言いたいことが,少しずつ言えるようになってきた!」「PROGRAMのテーマについて,自分の意見をもつことができた!」という声が聞かれるようになってきます。
 ここで提案している指導の流れは,一見時間がかかるように見えます。しかし,慣れると,目標に向かって進む道のりがクリアになり,家庭学習ともつなぎやすくなって,効率的に学習を進めることができるようになります。

 私たちが育てたい生徒の姿を達成するためには,思い切って活動を精選し,それらを関連づけ,限られた時間を有効に使うことが必要になります。ことばの習得には,時間がかかります。しかし,自分のことばで伝えることを念頭に置いた活動に時間をかければ,言語は必ず習得できるということを信じて,踏み出しましょう。一歩,前へ!

吉田 喜美子(よしだ きみこ)

 佐賀県の公立中学校で教鞭をとる。現在は,吉野ヶ里町立東脊振中学校教諭。
 平成20年(2008年)より,佐賀県スーパーティーチャーとして認証され,現在に至る。平成26年度に文部科学大臣優秀教員表彰受賞,令和元年度には佐賀県教育委員会より「教職員によるICT利活用教育指導事例」優秀賞受賞。「中学校学習指導要領(外国語)」作成協力者。
 Fake it until you make it.がモットー。生徒たちには,沢山の人から学び,考え,前進し続けてほしいと願っています。

主な著書

『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編』(文部科学省)作成協力,『平成29年版 中学校新学習指導要領の展開 外国語編』(明治図書)部分執筆,『「プロ教師」に学ぶ真のアクティブ・ラーニング“脳働”的な英語学習のすすめ』(開隆堂出版)部分執筆など