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新学習指導要領の「新機軸」とは何か(中編)
中嶋洋一(関西外国語大学教授)
令和3年度から完全実施となる中学校の「新しい学習指導要領」では,おもに次の3つが新機軸になると考えられます。
これらを踏まえた指導を行うポイントについて,全3回(前・中・後編)に分けて述べていきたいと思います。今回(中編)のテーマは,「思考力・判断力・表現力を高める指導」です。
アメリカの独立宣言を起草したベンジャミン・フランクリン(1706-1790)が次のようなことばを残しています。
Tell me and I’ll forget.
Show me and I may remember.
Involve me and I learn.
involveとは「当事者にする」という意味です。これがアクティブ・ラーニングの概念になると考えられます。時間を忘れて没頭できることこそがアクティブ・ラーニングであるということです。つまり,脳働的な(脳がワクワクする)学習を仕組むことが learn(獲得する,到達する)につながるということです。
よって,ペアやグループといった学習形態が大切なのではなく,全体指導や個人学習での「沈思黙考」もアクティブ・ラーニングになりうることを理解しておく必要があります。
教師が教えるよりも,仲間どうしで学び合う(気づいたこと,学習でもどかしさを感じること,ギャップや立ち位置を知ること)ほうが,はるかに学習効果が高いと言われています。「人から教わったことよりも,自分で気づいたことのほうが,ずっと覚えている」というのが「自然の摂理」です。
それを,授業でも生かして,生徒たちを「ハッ」とさせる場面を演出するようにすれば,生徒は時間を忘れて活動に取り組むようになり,終わりのチャイムが鳴った時に「え? もう?」「英語の授業,はやーい」と言うようになります。ポイントは,いかに自由度を高め,自己決定させるかです。
studyはプロセスであり,learnが到達・獲得した状態であるとするなら,その達成には授業の最後5分間,単元の最後では学んだことを振り返ることが不可欠です。自己評価シートに書き込むといった表面的なことではなく,自分のことばで説明してみる,仲間と考えを交流させる,よいモデルに触れるなどの活動を仕組むことが大切になります。
音読が単なる「正しい発音とストレス」だけを習得させるための練習で終わっていないでしょうか。もっと「思考」の場面を増やしてみませんか。たとえば,相手に伝わるように読む,ラジオドラマやテレビアニメの声優のように読む(朗読)というレベルや,ドラマの役者のように場面を理解して登場人物のセリフをその場で演じるように読む(演読)といったレベルにまで高めていくのです。そのために必要なのは,場面を想像させる活動です。
次のような本文を,皆さんならどう読まれますか。海外のレストランの場面です。
A: Excuse me. What’s today’s special?
B: Today’s special is curry and naan with chicken.
A: Great. I’ll have that.
B: Would you like a drink?
これを音読するときに,多くの教師は「間」を入れずにそのまま続けて読んでしまいます。
しかし,Excuse me.と言っているのですから,AはBを呼んだのであり,Bは離れたところにいたと考えられます。だとすると,Aは続けてすぐにWhat’s today’s special? とは言わないでしょう。また,AがI’ll have that.と言ったすぐあとに,BがWould you like a drink? とたずねるのも不自然です。なぜなら,Bは注文票に書き込んでいるでしょうから,2秒くらいの間を取るべきです。
なぜ,音読がどのページも同じようになってしまうのでしょうか。それは「場面」を想像した読み方ではなく,「正しい発音やストレス」を教えるだけの「口真似練習」で終わっているからです。いきなり教師が範読をして,Repeat after me.でくり返させるのは,思考力を育てない「おうむ返し」の活動です。
たとえば,「このダイアログを声優になって読むとしたら,間を取らなければならないところは何か所あるか。また,それはなぜか」とか「このダイアログを演じるときに,必要になる小道具は何と何か」などの推論発問を用意すれば,生徒たちは思考しながら何度も「黙読」をするようになります。
必要なのは,「ドラマ化」させることです。上述した「演読」とは,実際にメニューや注文票などを用意し,それを持ちながら役になりきって演じる(なりきり読み)ということです。教科書のさし絵だけで場面を想像させるのは難しいかもしれませんが,「まんが」や「ドラマ」形式ならばbeforeとafterがわかりやすいので,なり切って「演読」できるようになります。
英語教師がプロたる所以は,外部試験のスコアや語彙の量などではなく,生徒が聞いてすぐに理解できる英語の語彙が豊富であるということです。それは教科書ですでに学んだ単語を駆使して,生徒にわかるような文脈を提示し,適宜,その中でどうしても必要な単語を自然に導入しているということを意味します。3,000語程度のBasic Englishで,すべての単語を説明している英英辞典のようなものです。
プロの英語教師は知識を一方的に与え,repeat させて覚えさせようとするのではなく,生徒と真正の情報をやりとりする中で,コミュニケーションそのものを教えています。ですから,リアルタイムで,ある意味即興で授業中に「自己研鑽」とともに「教材研究」もしているということになります。
彼らは,生徒が言い間違えたときに,自然なやりとりの中でYou mean ~? とフォローしたり,Oh, you think ~. などとさりげなく言い直したりしています。このような指導は,通常recastと呼ばれており,このrecastがとっさにできるかどうかで,授業の質の高さが変わってきます。
これは新出単語の導入でも同じです。教師自身が写真や実物を見せながら,または黒板に絵を書きながら,Collins COBUILD Primary Learner’s DictionaryやThe Sesame Street Dictionary,Oxford Junior Illustrated Dictionaryなどの語義を使って説明しています。英語を英語のまま理解させるには,フラッシュカード(英語→日本語,日本語→英語)で置き換えさせる指導以外に,しっかりとイメージできるような写真や絵を用意して英語の文脈で理解させることが大事です。新出語彙を英語で導入しているうちに,教師は英語で伝える極意を会得していきます。これこそが,プロ教師になるための最大の自己研鑽となります。「プリント作り」は,英語教師の資質向上にはつながりません。
発問には,事実発問,推論発問,評価発問の3種類があります。広く行われているのは事実発問(fact-finding questions)でしょう。これは,本文に出てくる5W1Hの内容を問うものや,代名詞が何を指しているのかなどを問うものです。
推論発問(inferential questions)とは,教科書の本文には直接出ていないことを,「行間を読む」ことで推測するものです。たとえば,”Do you think ~? Why?” といったものや”Is Kenji happy? Why?” のようなものです。登場人物や作者の意向について考えることで,相手の意向を察することにつながります。
評価発問(personal questions)は,”What do you think? Do you agree with the author’s idea? Why?” といったもので,討論にまでつなげることが可能です。
これらの発問を有効に使うことで,「読む→書く」,「読む→話す」,「聞く→書く→読む」というように技能を自然にリンクさせられるようになります。「推論発問」や「評価発問」がなかなか思い浮かばないという教師にとって,教科書は具体的な「思考プロセス」を提供する役目を担っていると考えます。教科書のそれぞれの「問い」を分析することで,どこをどのように取り上げればよいかが見えてくるようになる,そのようなガイドラインが学べる教科書が今求められています。
Q&Aのワークシートを配り,帯学習としてペアで練習をしている光景をよく見かけます。確かに聞かれたことについて適切に答えるという活動は,言語活動の土台になるでしょう。しかし,それをいつまで続け,その後の活動をどう系統的に発展させていくかという見通しはできているでしょうか。
大事なのは,次のステップとしてAnswerのあとに1文を付け足す,意見や理由も言う,相手の言ったキーワードを捉えて発展的に質問をすることです。Q&Aばかりでは,いつまで経ってもchatには進めません。
そこで有効なのがinterview mappingです。SUNSHINE ENGLISH COURSEでは,平成24年度版から他社の教科書に先駆けてmapping の指導を紙面に位置づけてきました。幸いなことに,SUNSHINEの採択地区から「それにより,書く力と話す力がついた」という声が上がっています。また,4月に行われた全国学力調査(中3英語)においても,それが結果として現れたようです。
平成28年度版SUNSHINE ENGLISH COURSE 1より抜粋
実はmappingには,mind mappingのように自分の構想を練っていく使い方のほかに,得た情報を整理するという使い方があります。相手にインタビューをしながらmappingをしていくことで,会話の履歴が残るので,落ち着いて質問が考えられます。もし行き詰ま ったら,手(線)のないノード(mappingの1つの単位,バルーンと呼ぶこともある)を見つけて,You said ~. Why did you ~? のように,どこからでも質問を作ることができます。こうすると,会話が途切れにくくなります。また,教科書の本文の事象や登場人物の関係性などをmappingで図に表すことも可能です。
さらに,interview mappingの活動後は,ペアでmapping sheetを見ながら振り返ることができます。「ここはこんな質問ができたね」「こう聞けばもっと広がったかもしれない」という振り返りを2人でしながら,シートに朱書きをして行きます。その気づきが次の活動に活かされます。会話をしている間に言えなかった単語を,辞書で調べてシートに書き込んでいくと”My Dictionary”にもなります。
このinterview mappingに中1の3学期から取り組んでいる学校では,mapping専用のノートを作っているところが多いようです。自分の学習履歴が確認できるので,どんどんノード(バルーン)の数が増えていくと励みになるようです。2年生になると,picture describingやretelling(本文の暗記ではない)にもつながっていきます。生徒が臆せず英語を話せるようになっていきます。
学校では,OJT(On the Job Training)で経験を積んでいくことが大事だと言われています。もし,教師がプリントや短冊を用意して,予定調和のような授業をくり返していたらon the job とは言えなくなります。それは,用意したものをこなすという方法であり,生徒がノートに英文を書いて,それを暗記して発表するのと同じだからです。
授業を活性化させるのは,思考する楽しさがあること,自分で問題解決する場面があること,協働学習で互恵的な関係になっていること,などの要素です。これらの要素が含まれるのがretellingの活動です。
ロングマン現代英英辞典でretellを引くと,to tell a story again , often in a different way or in a different languageと定義されています。retellingは,暗記した教科書の本文を再生する活動(reproduction)とは本質的に異なります。本文のキーワードや絵を参考にしながら,自分が理解したことを自分のことばで相手に伝えるということです。
retellingの活動は,「即興でやりとりする力」をつけるのにも有効です。それはなぜでしょうか。まず,単元のゴールに retellingの活動を入れると,本文の内容を最終的にもう一度まとめて読んで「意味の理解」をするという活動が必要になります。さらに,暗記ではなく,自分でキーワードと絵を選び,「紙芝居」をするように描写することで,「意義の理解」に質的に変容します。この変換に習熟しておくと,まとまった英語が即興で話せるようになり,それが学期のまとめになるプロジェクト学習にそのまま活かされます。
よって,retellingの活動では,絵がふんだんに用意されていてイメージを膨らませやすいこと,さらにキーワードを自分で選ぶというプロセスが必要になります。また,そのときは生徒の負担にならないように,欲張ってページをまるまる選ぶのではなく,「自分が関心をもった場面」だけを取り出す,それに必要なキーワードを自分で選ぶ,登場人物に関する背景情報や既習単元での事象などの情報を組み入れる,オーディエンスに問いかける,行間を読んで自分の考えを述べる,など「picture describing + presentation」のようにすると気楽に取り組めるようになります。
次回(後編)は,「技能どうしをどうリンクさせるか」というテーマでお話しさせていただきます。