1. ことばは「場面」の中で意味が生まれる

 次の英文をご覧ください。それぞれ,どんな場面でしょうか。

 1) How many pens do you have?
 2) Have you been to Kyoto in the fall?

 いろいろなケースが想定されます。1つの文では,場面が特定できないからです。指導者がどれだけ多くの英文を用意したとしても,文脈がなければ,それは「生きたことばではない」ということになります。2つの英文の前後に文を1~2文付け加えてみると,場面が生まれてきます。例えば1) であれば,次のような場面が考えられます。

A: What's up?
B: Hmm.... How many pens do you have?
A: I have four pens. Why?
B: It's for a *questionnaire. We need twenty pens. *アンケート

 また,2) であれば,こういう場面が想定できないでしょうか。

A: Have you been to Kyoto in the fall?
B: No. I've been there in the spring.
A: Here, look at these pictures.
B: Oh, beautiful! I'd like to visit Kyoto again.

 もう少し詳しくお話をしてみましょう。例えば,話をよく聞いていないJohnに向かって言う"John?"と,久しぶりに会ったJohnに向かって言う"John!"とでは言い方が違ってきます。"Do you have a pen?"の答えも,"Yes, I do. / No, I don't."とは限りません。例えば,自分のポケットを探した後で,隣の人に"Do you have a pen?"と聞いたときは,"Can I borrow your pen?"の意味になりますから,相手は"Oh, here you are."と言います。

 また,大切な話をしているときに,A君が居眠りをしているのに気づいた先生は,A君に言います。"A-kun, do you have a pen?" これは"Why don't you take notes? It's very important."という意味です。それを聞いたA君は"Oh, I'm sorry."と言うでしょう。

 "Do you ~?"と聞かれているのですから,"Yes, I do."という答えは間違っているわけではありません。しかし,ペンを貸す,ノートをとるという行為につながらないのであれば,いくら文法の知識はあっても,コミュニケーションが成立していないと言えます。

 「ことばは生きている」のですから,日常的に起こりうる場面を取り上げ,学習者が「なるほど,こう使えばいいのか」といった気づきが生まれるようにすることが大切です。ことばの学習では,「ことばは,場面の中で意味が生まれる」ということを認識することが大前提となります。

2. なぜ「スキット」なのか

 ことばの学習には,「習得→習熟→活用(応用)」というプロセスが不可欠ですが,この「習熟」が誤解されているようです。機械的なドリル練習やプリント学習では,「習熟」とは言えません。『大辞林』によると,「習熟」とは「習い覚えて,よく通じていること」とあります。「よく通じている」というレベルは,適切に使える,自分で説明できるというレベルであり,テスト問題で正答が書けるというレベルではありません。

 「習熟」させるためには,「型」を習得しなければなりません。芸術や武道と同じです。英語学習の大切な「型」の1つに,「教科書の基本文の意味を理解し,適切に使えること」があげられます。中学の2年,3年になると,教科書の本文も長く複雑になってきます。学力差も生まれてきます。そこで,必要最低限の指導として,1年のときから,基本文を導入するときには,できるだけ身近で短いスキットを用意し,それをくり返し音読させ,覚えさせることを目指すようにします。

 例えば,canの基本文ですが,現行版の教科書では,それぞれ次のようになっています。
 A社: I can play the guitar. My brother can play it too. ......(1)
 B社: We can see the game today. We cannot see the game today.
 C社: Miki speaks English. Miki can speak English.
 D社: I can swim. We can't stop now.

 canがこの後に出てくるdidやwillなどの助動詞につながるようにと,それぞれ工夫されているようです。ただ,場面がなければ,それはショーウィンドウのディスプレイのようなものです。そこで,(1)に場面を与えてみます。

A: Cool! Is this your guitar?
B: Yes. I practice it every day. Now I can play it a little.

 

 このように,シンプルで状況がわかりやすい文脈を示せば,canのニュアンスが伝わりやすくなります。教師は「Bはギターが上手ですか」と発問することもできます。

 教師は,時には,基本文の中で,微妙な意味の違いにも気づけるように仕掛けます。

A: I am going to visit the U.S. this summer.(すでに予定していること)
B: If you go to New York, you should meet my sister.
A: OK. I will.(今決めたこと)

 この後,「日曜日に映画に行かないかと誘われたが,Kateと約束があるので断りたい。次のどちらが相手を傷つけない断り方か」とたずねます。
 (1) Oh, sorry. I am going to play tennis with Kate.
 (2) Oh, sorry. I will play tennis with Kate.

 何気なくwillを使ってしまうと「(両天秤にかけた結果)今,Kateとテニスをするほうを選んだ」という意味になってしまい,相手をいやな気持ちにさせてしまうということに気づけるようになります。このように,考える場面を与えれば,単純にwill = be going toで置き換えられないことがわかり,以後のことばの学習につながっていきます。

3. 基本文の「習熟」で何が考えられるか

 「型」を徹底したら,次は様々な場面や条件を与えて,「自分なりに判断して考える」「仲間から学ぶ」といったことをくり返し体験させるようにします。自由度を与え,自分で考えることこそが「さらに習熟したい」と願う生徒を育てる原点になるからです。そこで有効なタスクが「スキットづくり」です。

 まず教師が,新しい言語材料の導入のときにモデルスキットを提示します。さきほどのcanを使ったもので考えてみます。

A: Tomorrow is Kate's birthday.
B: Really? Any good ideas?
A: Well, we can make cookies for her.
B: Great! Let's do that.

 この後,教師は3つの選択肢を与えます。
 A) いくつかの部分に下線を引き,そこを変えるだけのもの
 B) AかBの文だけを書いておき,相手の文を考えさせるもの
 C) 自由に書くもの

 これらを,自己申告で作らせるのです。

 スキットはdialogです。質問や応答の仕方を学ぶだけでなく,どうつなげていけばいいのかといったコミュニケーションの「型」も学ぶことができます。ある程度の長さや内容のあるスキットが自分で作れるようになれば,長文(対話文)も正しく読みとることができるようになっていきます。

 「自己決定」は,自己責任につながります。教師のspoon-feedingの指導や「~しましょう」といった活動では「やらされている」と受けとる生徒たちが,内容を工夫するようになり,友だちの作ったスキットから学ぼうとするようになります。

 ことばの学習では,場面設定が欠かせないと述べてきました。さらに,従来のtask on time(50分の中で何ができるかを考える)から生まれがちな指導者の「must(くどくど)」の指導を,time on task(タスクに必要な時間ややり方を考える)で「want to(ワクワク)」の指導に転換していくことが,学習者に真に支持される授業づくりへの大きな鍵となります。

中嶋洋一 (なかしまよういち)
中嶋洋一埼玉県の公立中学校,富山県の公立小・中学校で長年教鞭をとる。 その後,富山県教委の指導主事,公立中学校の教頭を経て,現在は, 関西外国語大学教授。中学校の指導では,英語ディベートと卒業文集づくりで,論理性と感受性の育成のバランスを心がけた。大学では,「七転び八起きできる教師」になれるよう,学生に「教師魂」を注入しているところである。
主な著書
決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』『わかる!英語わくわくワークブック』(開隆堂),『英語好きにする授業マネジメント30の技』(明治図書),『だから英語は教育なんだ』(研究社),NHKDVD『わくわく授業-わたしの教え方』(ベネッセコーポレーション),NHKDVD『えいごルーキーGABBY』(日本コロムビア)など。