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Teacher's Lounge Vol.1音読指導のすすめ

芳賀沼 彰 福島大学附属中学校

1.はじめに

 「同時通訳の神様」として知られる國弘正雄先生は,「只管朗読」(一通り意味のわかった英文を,ひたすら音読すること)の大切さ,すばらしさを提唱された。この「只管」とは,鎌倉時代に禅宗の一派である曹洞宗を開いた道元禅師の教え「只管打坐」(とにかく黙って座りなさい)という悟りに由来している。「CDを聞くだけで,映画が字幕なしで聞けるようになります」「たった10時間で英語が話せるようになります」などといった様々な声に惑わされることなく,「英語」と正面から向き合って腹の底(丹田)から声を出して読む。このようなシンプルな方法にこそ,様々な技術を超えた大きな効力があるのだということを,この「只管朗読」ということばに込められているのだと考える。

 今回は「中学生が教科書教材等の英語をきちんと読めるようになるためには,どのような指導が必要なのか」をテーマに話を進めていくことにする。

2.音読をするうえで大切なこと

(1) 姿勢,呼吸,そしてひと工夫

 音読に限らず,「学び」に取り組むうえで「姿勢」はとても重要である。猫背にならず背筋をピーンと伸ばし,教科書をしっかり持って音読する。「呼吸」は腹式呼吸で,「5秒吸ったら,10秒はく」「10秒吸ったら,20秒はく」という準備体操をする。これにより,しっかりとした声が出せるようになり,集中力も高まる。音読の方法にはたくさんの方法が存在するが,「暗唱」や「記憶」を重視する際には,片耳に指を入れて音読させることもある。これによって自分の声が頭の中に響き,それらが促進される。

(2) フォニックス

 小学校外国語活動が平成23年度より全面実施された。中学校英語科との円滑な接続においては「音と文字の一致」は大きなポイントである。小学校外国語活動では「音」に重点を置いて指導している。中学校入学後の英語科の授業においては,それぞれのアルファベットがどのような音を表しているか,また組み合わせによってどのような音になるのかを学習する。この時期の指導が,その後の単語の発音や音読に大きく影響を与えることは言うまでもない。

(3) EFLの環境

 日本はEFL(English as a Foreign Language)の環境である。よって,学校の授業以外で英語が必要となったり,使用を迫られる機会は少ない。であるからこそ,英文を認識するためには「文法的な知識」が必要となり,学習者にとって大きな武器となり得るのである。私は以下のように英文に書き込みをさせて指導している。

 主語は四角で囲み,動詞には波線を引く。これによって,文の中でのチャンクの意識を育て,音読に生かす。

3.音読について

(1) 回数について

 音読は,英語学習において非常に重要な活動である。英語学習は「音読に始まり,音読に終わる」といっても過言ではない。しかし,やみくもにくり返すだけでは有効ではないと考える。様々な音読の方法を用いて,生徒があきずに音読に取り組むようにする。また,その回数や段階によって負荷を変えて取り組ませることが大切である。私は50分の通常の授業において,20回程度は必ず音読させ,暗唱させることを目標にしている。

(2) 方法について

 ① 一音一読
  英単語を一語ずつ音読する。丹田から声を出す。
 ② Intensive Reading(教師のあとについて音読)
 ③ Paced Reading
 ④ Buzz Reading
 ⑤ Individual Reading
 ⑥ Read and Look-up, and Say
 ⑦ Shadowing
 ⑧ Intake Reading

4.補助教材について

 教科書教材における英文の量は,極めて少ないのが現状である。そこで補助教材の活用は学習者にとって非常に有効である。例えば,開隆堂出版のNEW EASIEST SERIESなどは中学校1年生にとっても,比較的容易に取り組める教材である。付属のCDも有効に活用可能である。実際の授業では,リスニングから導入して,shadowingを用いて学習する。
また,「音読」だけではなく「黙読」にも取り組ませることが可能である。指導者が「音読」の適切な速度と目的,「黙読」の適切な速度と目的を明確にして取り組むことが肝要である。

5.黙読について

 私は授業の中で,silent readingとscanningを用いている。
silent readingでは,2つの方法があると考える。1つは「音を出さない音読」である。例えば,試験の状況を想像してみる。問題を解くために,音に出すことはせずに黙って読む。これが「音を出さない音読」である。この場合,心の中では「音読」しているのである。もう1つは「音読せずに文字を目で追うだけ」である。これは「速読」にもつながる方法である。これら2つを区別したうえで授業の中で取り組ませている。
scanningでは,パラグラフの中からkey wordを探したり,英文の概要をつかむのに有効である。

6.発問について

 英語科の授業に限らず,「発問」が指導者にとって重要であることは言うまでもない。「黙読」や「音読」をさせる場合,その「読み」の目的を明確にするうえでも,事前に有効な「発問」を精選し,投げかけることが大切である。
また,読後の理解力を把握するうえでは,内容に関する「問い」をあらかじめ準備することが必要である。今回の授業で使わせていただいたNEW EASIEST SERIESの『やさしいイソップ物語』シリーズには,非常に使いやすい問題がワークシートになって準備されており,これらを使わない手はない。

ワークシートの例1 ワークシートの例2

7.音読による内容理解

 教科書教材は,何度も何度もくり返し音読するため,学習者にとって「慣れ親しんだ英文」になっている。いや,なっていなければまずいのである。そこで,初見の英文に触れる機会を設定することは,学習者にとって自分の「読みの力を試す」絶好の機会となる。この場合,WPM(Words per Minute)を計算する。つまり,1分間に何語読めたかということである。また,場合によっては内容理解の問題の正答率を加味することもある。授業の中では,経過した時間を黒板で示し,結果を測定する。これによって,自分の「読む力」の変容,成長を知ることができる。