1. 新学習指導要領のポイント
新しい学習指導要領の実施まで,いよいよ1年となりました。今回の改訂で,教科の目標は次のように変更されました。
外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う。(下線は引用者による)
改訂のポイントは,
- 「読むこと,書くこと」が追加され,四技能の指導をバランスよく行う。
- 「実践的コミュニケーション能力」から「実践的」が削除された。
の2点になります。2.は実質的な変更ではありません。重要なのは1.です。週当たりの授業時間数が3時間から4時間に増加したことに伴い,「聞くこと,話すこと」に比べて結果的に軽視されてきた「読むこと,書くこと」が復活したのです。
今回の学習指導要領では,四技能を総合的に(バランスよく)指導することが求められているのです。当然,評価においても,それに対応した配慮が必要になります。そのため,国立教育政策研究所(国研)は,観点別学習状況評価における「評価の観点と趣旨」の改訂も行ったのです。
2.「観点別評価」改訂のポイント
新しい「評価の観点と趣旨」は,次のようになっています。2,3,4の【趣旨】から「初歩的な」が削除されたのは,小学校に外国語活動が導入されたことと連動しています。(下線は引用者による)
- コミュニケーションへの関心・意欲・態度 ←現行と変更なし
【趣旨】コミュニケーションに関心をもち,積極的に言語活動を行い,コミュニケーションを図ろうとする。 - 外国語表現の能力 ←現行は「表現の能力」
【趣旨】外国語で話したり書いたりして,自分の考えなどを表現している。 外国語理解の能力 ←現行は「理解の能力」
【趣旨】外国語を聞いたり読んだりして,話し手や書き手の意向などを理解している。- 言語や文化についての知識・理解 ←現行と実質的に変更なし
【趣旨】外国語の学習を通して,言語やその運用についての知識を身に付けているとともに,その背景にある文化などを理解している。
2.の【趣旨】は,現行よりも技能と能力の関係がダイレクトな記述に変更されています。
3.評価の観点と内容のまとまり(=四技能)
他教科では「内容のまとまり」は多くの場合,単元を指しています。しかし,外国語では,四技能がこれに対応しています。評価の観点と四技能の関係を表にすると,次のようになります。○は,その観点に含まれる技能を表しています。(※カの△は「音読」を指しています。)
聞くこと | 話すこと | 読むこと | 書くこと | |
(1) 関心・意欲・態度 | ○ア | ○イ | ○ウ | ○エ |
(2) 外国語表現の能力 | ○オ | △カ※ | ○キ | |
(3) 外国語理解の能力 | ○ク | ○ケ | ||
(4) 言語や文化について | ○コ | ○サ | ○シ | ○ス |
さて,○と△を合計すると,13か所になりました。これらのどれを,いつ,どのように評価すればよいのでしょうか。
国研が作成した「単元の評価に関する具体例」(国研のHPで近日中に公開予定)では,現行の例よりも現実的で取り組みやすい提案がなされています。ポイントは「授業中の観察によって評価データを収集する」項目が大きく減少したことです。この10年近くにわたって,複数の評価項目を設定して「観察評価」することに取り組まれた方も多いと思います。日常的に継続できたでしょうか。実現可能性(feasibility)の点で困難だ,と感じませんでしたか。今回の改訂では,このような困難点の解消が試みられているようです。
もちろん,(1)関心・意欲・態度(表の○ア~エ)は授業中の観察評価で行うことになります。しかし,(2),(3),(4)は基本的に「教えながら評価する」ことはせず,単元末や学期末などに筆記テストや実技テストを設定して評価することが例示されています。例えば,○オ,△カ,○サは,プレゼンテーションや面接などのスピーキングテストを実施して評価します。「話すこと」は筆記では評価できないからです。それ以外の○は,中間・期末などの筆記テストなどというように,評価に特化した時間を設定して評価します。
指導目標や授業内容を反映したテストを計画実施することによって,妥当性(validity)や信頼性(reliability)の高いデータを収集することが求められているのです。
4.具体的な工夫
最後にテストの作成・実施について,少し触れることにしましょう。「話すこと」の評価については,国研が2006年に実施した「特定の課題に関する調査(英語:「話すこと」)の問題が参考になります。この問題と集計・分析結果は国研のHPからダウンロードすることが可能です。
(http://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei_eigo/index.htm)
また,具体的な活動や評価の例は,ビデオ『スピーキング活動の絶対評価事例シリーズ1~3』(開隆堂・TDK)や,DVD『スピーキング・テスト・セレクション』(ジャパンライム)が大変参考になります。
残った3つの技能については,筆記テストでの評価が可能です。しかし,出題方法を工夫しないと,結果として,文法・語彙の知識しか評価していないことになります。これでは,「言語や文化についての知識・理解」以外は評価していないことになります。みなさんが学年末に作成されたテストの各大問は,先ほどの表の○オ~スのどこに対応していたでしょうか。実技テスト等と併せても,評価し損なっている項目はないでしょうか。これらを点検したうえで,新学期ではどのような問題を作って評価するのか,考えてみたいものです。
5.考えたいこと
筆記テストを作成する際に,考えたいことを挙げて結びとします。
- 授業で学習済みの文章を使って,読解力が評価できるのか。
- 既習の文章を使って,どのような問題を作ればよいのか。
- 和文英訳や,空所補充,語順整序などは,「書く」力を評価しているのか。採点基準は妥当か。
- 複数で採点する際に,中間点の基準を安定させるにはどうしたらよいか。
久保野雅史 (くぼのまさし) |
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主な著書 |
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』(開隆堂),『英会話・ぜったい音読 入門編』(講談社インターナショナル)。現在, NHKラジオ『基礎英語3』に「悩み解決! 英語のギモンQ&A」を連載中。 |