1. 「考える授業」でなければワクワクしない
教科書の本文は,生徒の実態に応じた量や内容になっています。できるだけシンプルにして学習負担を軽減するというねらいもあります。本文の大きな特徴は,場面を切り取って,言語の使用場面だけに特化していることです。ですから,実際のコミュニケーションとしては物足りない,淡々とした展開,唐突な始まり方に思われるケースも出てきます。ここが教師の腕の見せ所です。「教師の発問」によって,味付けをしていくのです。本稿では,その具体例をご紹介します。
まず,教師の発問について,過去形(was, were)の指導を例にとって説明します。通常,「am / isはwasに,areはwereに変身する。しっかり覚えましょう」という説明で終わってしまうことが多いようです。動詞が過去形に変わるということを教えるだけでは,あまりに一面的な指導です。そこで,例えば次のような発問をしてみます。
★「次の( )に何が入るか考えてごらん」
Look! A beautiful ( )! It was a caterpillar a couple days ago.
wasを答えとして書かせるのではなく,それはあえて出しておき,クイズのようにして,関係性(状態の変化)を考えさせるようにするのです。(答えはbutterfly)
次は,助動詞の発問例です。第1回でもbe going toとwillのニュアンスの違いについてご紹介しましたが,基本的に,助動詞は話者の意志(気持ち)を表すという「性質」を理解させることが大切になります。今回は,mustとhave/has toで説明してみましょう。mustとhave/has toを指導したあとの,まとめの活動です。
次が,教師の発問です。
★「自分の強い意志が入っているのは,(1)と(2)のどっちですか?」
(1) I must go now. Dad is waiting.
(2) Oh, it's already nine o'clock. I have to go now.
(1)では,Dad is waiting.と言っています。つまり,「父親を心配させたくない」という思いから,強い意志を持って「私,もう帰る!」と言っています。一方,(2)のほうは,「もう9時になったから,帰らなきゃ」という意味になります。「本当はもっといたいけど,しかたなく」というニュアンスが出てきていることがわかります。
それぞれ,mustの入った文とhave/has toの入った文だけを比べていても違いはなかなか見えてきません。しかし,特定の場面を与えると,「ああ、なるほど!」という納得が生まれてくるようになります。
何度もくり返しますが,「ことばは,場面の中で意味を持つ」のです。
このように「考える活動」を授業の中に組み入れることにより,場面を考える習慣がついてきます。お薦めは,助動詞を一通り指導したあとのまとめとして,他の教科書の本文で,must, have/has to, should, will, be going toの部分だけ,文字を抜いて空欄にして,答えとその理由を考えさせるという活動です。「活用する力」は,このようにまとめの活動で育てていきます。
他の教科書本文を取り上げることで,塾ですでに習っている生徒たちを真剣にさせることもできます。例えば音読指導では,教科書本文をテキスト形式(文字だけの状態)で与えて,次のような発問をします。
(ブラウン夫人がジュディにクリスマス・プレゼントを渡している場面)
Mrs. Brown: | This is for you, Judy. Your grandmother sent it. |
Judy: | How pretty! |
Mrs. Brown: | It's a book of stories about Christmas. |
★「今から,ペアで役を決めて読みます。実際にプレゼントを使って練習をしなさい」
英文はNEW HORIZON English Course 2 Unit 6, p.58(東京書籍)より
教科書の音読では,会話の部分をそのまま,間をとらずに読んでしまいがちです。しかし,ジュディがブラウン夫人からプレゼントをもらってすぐにHow pretty!と言ったとしたら,それはクリスマス・プレゼントの包み紙を見て言ったことになります。そして,すぐにブラウン夫人が中身について説明したとすると,プレゼントを開ける前に中身をばらしてしまうことになります。これは不自然です。つまり,How pretty!を言う前に,プレゼントを開けるための時間(間)が必要になるということです。「なるほど,そうか!」と納得できたら,本文の音読の際には,必ず自分で場面を考えるようになります。
2. 教科書本文から「話題」を広げる
作文を書くとき,最初の1文がなかなか書き出せないということがよくあります。ゼロからスタートするのは,いつでも難しいものです。遅々として進まない様子に,時計を見ながらやきもきすることはないでしょうか。そんなときにお薦めなのが,教科書の本文を,必要に応じて文や単語を付け足したり,他の言い方に変えたりするという活動です。例えば,SUNSHINE English Course 2のProgram 1では,単元の学習が終わったあとで,Program 1の最初のページに戻って,教師はこう言います。(赤字が教科書の本文に付け足した部分)
★「由紀(Yuki)になったつもりで,そのときのことをもっと詳しく説明してみましょう」
Yuki: | I visited my uncle in Okinawa. It was my first visit. I stayed there for three days. It was very exciting. Oh, and I snorkeled with my cousin too. |
Mike: | Oh, yeah? That's nice. Did you see many beautiful fish? |
Yuki: | Oh, yes. They were so colorful! The sea is very clear there. I saw a beautiful coral reef too. I still remember them. How about you, Mike? Did you go back to Canada? ... |
英文はSUNSHINE English Course 2 Program 1, pp.8-9(開隆堂)より
沖縄でシュノーケルをしたという思い出は,あっさりと終わる内容ではありません。水中メガネに慣れるまで息をするのが難しいこと,サンゴ礁の見事さ,色とりどりの小さな 魚たちが寄ってくる様子が感動的なことなど,語る内容は豊富にあります。実際に沖縄に行ったことがない生徒が多い場合,写真やビデオなどを見せることで,イメージを膨らませることもできます。
この「~になったつもりで…する」という「なりきり作文」によって,生徒は複眼的な視点を持つようになります。『のはらうた』(童話屋)で有名な工藤直子さんの詩を授業で取り上げ,視点を学ぶこと,さらには彼女の詩を英訳することで,一気に発想が広がるようになります。そのあとの「身近なものになったつもりで英文を書いてみよう(I am a clock. / I am an eraser.)」という課題では,個性的な作品がたくさん生まれてきます。
3. 行間を読み取る発問を考える
最後に,本文の読み取りについて考えてみましょう。教師は,closed question(答えが1つしかない質問)を作るのは得意ですが,どちらかというとopen-ended question(答えが多様に生まれる質問)を考えることは苦手のようです。一方,生徒は自由な発想を持っています。そこで,同じレベル同士のペアで「ライバルに挑戦!」という活動を仕組みます。相手にクイズのような問題を作り,交換して解き合うというものです。生徒が作った質問を,一部ご紹介します。
ロンドン到着の翌日,由紀はおとうさんの知り合いのホワイトさんに,市内観光に連れて行ってもらうことになりました。
Mr. White: | How's your jet lag, Yuki? Are you tired? |
Yuki: | No, I'm fine. Oh, is that Big Ben? |
Mr. White: | Yes, it is. Shall we take a boat ride on the Thames first? |
Yuki: | OK. That sounds great. |
テムズ川の遊覧船に乗ると,聞きなれない英語が聞こえてきました。
Yuki: | What did he say? Was that English? |
Mr. White: | Yes. That's a dialect of English. Listen! There's another person who speaks with the same accent. He's talking about the London Eye. |
Yuki: | I see. |
SUNSHINE English Course 3 Program 7, pp.60-61(開隆堂)より
★生徒たちが考えた発問とその答え:
(1) | No, I'm fine.を由紀になったつもりで読むと? (答え:元気に。 理由:そうでないと,観光時間が縮小されてしまうから。) |
(2) | Yes, it is.をホワイトさんになったつもりで読むと? (答え:ゆっくりとうなずきながら。 理由:ロンドンに住む人にとって誇りであるビッグ・ベンなので,「そう,あれが有名なビッグ・ベンだよ」という気持ちで。) |
(3) | 間をとらなければならないところはどこ? また,その理由は? (答え:1つ目はOh, is that Big Ben?の前。 理由:ハッと気づいたということは,しばらく会話がなかったから。/2つ目は,He's talking about the London Eye.の前。 理由:何を言っているか,しばらく聞いていないとわからないから。) |
(4) | ホワイトさんは,次のどれで来た? a. 車 b. 電車 c. 遊覧船 (答え:b 理由:これからロンドン観光の名物ダブル・デッカーに乗るだろうから。) |
(5) | 由紀とホワイトさんは今,船のどちら側に立っている? (答え:ロンドンアイ側。 理由:2人は方言が聞こえる位置にいる。方言で話している人たちはロンドンアイを見ながらしゃべっているはずなので。) |
open-ended questionは行間を読む楽しさがあり,友だちの意見を聞きたくなるといったよさがある半面,時間がかかるので,欲張らないことです。また,根拠のない答え(本文に書かれていないこと)を排除することです。そうしないと,何でもありの「遊び」になってしまいます。よい発問の基準は,生徒から「あっ,そうかあ!」「ああ,なるほど」という声が出てくるかどうかです。
ただ,いくら発問を工夫しても,ワクワクする授業になるとはかぎりません。いくつか配慮しなければならないことを述べておきます。
(1) | 手順を間違えれば,「発問」は生きず,教材は台無しになります。 |
(2) | クラスの居心地がよくなければ,「発問」は空砲となります。 |
(3) | 教師と生徒の人間関係がよくなければ,「発問」は無視されます。 |
(4) | 学習規律がしっかりとできているクラスでなければ,「発問」は一部の生徒だけの学習課題(教材)で終わります。 |
4. 授業で心がけたいこと
英語の授業は,「英語」を教えることだけが目的ではありません。「英語」+「内容」の両輪がないと学びは深まりません。大切なのは,むしろ「内容」です。内容がおもしろいからこそ,英語を聞こうとするのです。さらに,自分が考えたことを,英語を使って仲間と共有したくなります。そこで,必要になるのが,適切に「聞く,読む,書く,話す」手段としてのことば(英語)です。英語を学ぶことが当たり前なのではなく,少しでもワクワクするような内容を用意し,それをどう「英語」で与えるかという構想を練ること,それが「ことばを教える教師」の仕事であるように思います。
中嶋洋一 (なかしまよういち) |
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主な著書 |
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』『わかる!英語わくわくワークブック』(開隆堂),『英語好きにする授業マネジメント30の技』(明治図書),『だから英語は教育なんだ』(研究社),NHKDVD『わくわく授業-わたしの教え方』(ベネッセコーポレーション),NHKDVD『えいごルーキーGABBY』(日本コロムビア)など。 |