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生徒の英語力を定着・向上させる
小・中連携の指導

大城賢(琉球大学名誉教授)

はじめに

 新しい学習指導要領により,小学校に教科としての外国語(英語)が導入されました。これは,英語教育の枠組みが変更されたことを意味します。当然,中学校や高等学校も対応が求められています。英語教育の大改革が始まりました。

 今回の学習指導要領は,目標や内容が小・中・高と一貫して示されています。目標や内容を一覧表にした「学校段階別一覧表」もついています。全体を俯瞰しながら,それぞれの学校段階の教員がそれぞれの役割を果たす必要があります。また,指導法の連携もますます求められます。そこで本稿では,学習指導要領が求める外国語の授業を踏まえながら,生徒の英語力を定着・向上させる小・中連携の指導について考えてみたいと思います。

既習事項を取り入れた帯活動の工夫

 筆者は昨年度,沖縄県糸満市立潮平しおひら中学校の新垣望先生の英語の授業作りに関わりました。新垣先生は1年生のクラスを担当しており,研究テーマは「英語で自分の考えや気持ちを伝え合う力を育成する学習指導:既習事項を活用し,即興で『やり取り』する言語活動を通して」というものでした。

 新垣先生は毎時間の授業の導入時に,既習事項を活用した帯活動として文部科学省の小学校外国語教材We Can!を活用したSmall Talkを行っていました。私が参観したときは,We Can! 1のUnit 6 I want to go to Italy. のページが電子黒板に投影されていました。馴染みのある教材なので,生徒からは「やったことある!」「できる!」という声が上がりました。新垣先生はまず,生徒がわかりやすいように,また小学校で学習したことを想起させるように,先生自身の行きたい場所をゆっくりと話しました。その後,生徒どうしの1分間のSmall Talkの活動にもっていきました。1回目が終わると,生徒に「言いたかったけれど,言えなかった表現」などを聞いていきました。そして,全体で「どのように表現すればよいのか」を考えたあとに2回目のSmall Talkを行いました。1回目と2回目の活動でかかった時間はわずか3分程度でした。Where do you want to go? のテーマで始まるSmall Talkでしたが,もちろんI want to go to ~. だけでは終わりません。I can see ~.,I can eat ~., I like ~.,I don’t like ~.,This is ~. etc. などを使った表現が次々と出てきました。

 小学校でのSmall Talkは,高学年で設定されている活動です。Small Talkを行う目的の1つは,既習表現をくり返し使用できるようにしてその定着を図ることとなっています。新垣先生は,小学校での既習表現を再び活用させる授業を,本時の活動と絡ませながら毎時間行っていきました。

 新垣先生のSmall Talkの実践を見て感じたことが2つあります。1つ目は「見たことがある」「やったことがある」という生徒の体験は,生徒の「やってみよう」という意欲を高める効果があるということです。2つ目は,さまざまな文型を同時に使う体験をくり返すことになるということです。中学校のこれまでの指導は,本単元や本時の指導内容に指導者の注意が行き過ぎていたように思います。過去形が本時の目標文となっている場合は,過去形の文を導入し,それを練習し,最後に過去形の文を発表させて終わりということが多かったのではないでしょうか。しかし,現実のコミュニケーションの場面では過去形だけを使うということはありません。絶えずさまざまな文型や表現が混ざり合って使われることになります。したがって,既習事項の定着のために設定されたSmall Talkは,まさに現実の対話場面を映し出す活動と言えます。

 新しいSUNSHINE 1 にはGet Ready(中学校英語をはじめよう―小学校英語を生かすー)という課があります。ここでは,小学校で学んだことや取り組んだことが再び取り上げられています。新しいSUNSHINE 1の最初のページを開いた生徒たちは「やったことある!」と感じ,そして「やってみよう!」という意欲を掻き立てられるものと思います。さらに,新しいSUNSHINEでは通常PROGRAMのページ上部にTryのコーナーを設けています。1年生では,小学校で学んだ既習表現を何度もくり返し使用させる工夫があります。さらに2年生以降でも,このコーナーは引き継がれています。先生方には,このTryを上手く使って既習表現の定着を図ってもらいたいと思います。

「目的・場面・状況」を大切にした導入

 今回の学習指導要領では,「目的・場面・状況」を明確にした言語活動が小学校から高等学校まで一貫して求められています。従来の英語教育では「目的や場面,状況など」を明確にしないまま,英文が導入されることが多くありました。たとえば,You have money. の疑問文は Do you have money? ですが,このDo you have money? は「目的や場面,状況など」によっては「(すみませんが)お金を貸してくれませんか」という意味にもなりますし,強盗が暗闇で一人歩きの女性に言うときは「金を出せ」という意味にもなります(和泉,2009など)。「目的や場面,状況など」が示されない限り,ことばは意味をなしません。もちろん声に出して発話する場合は「目的や場面,状況など」が示されないと,どのように発話すればよいかもわかりません。ことばが生きるためには,「目的や場面,状況など」と併せてことばを学ぶ必要があります。

 小学校のテキストは文法シラバスで構成されているわけではありません。場面・話題シラバスとも言えるものです。ですから小学校では,場面の中で英語の表現を理解する体験をしてきています。中学校以降の明示的な文法指導の重要性については後述しますが,「目的・場面・状況」を明確にした指導の重要性は小・中・高を通して変わることはありません。


Scenes(1年 p.70)

 新しいSUNSHINEでは新出の英語表現の導入が2コマのマンガ形式で行われています。文法の説明を受けなくてもイラストや場面を頼りに意味が推測でき,とてもわかりやすくなっているのです。そして,まさにことばが生きていると感じます。このマンガを上手く活用して,「目的・場面・状況」を明確にしたうえで新出表現の導入を行ってほしいと思います。

「英語のしくみ」をわかりやすく

 これまでの英語教育は,どちらかというと文法や語彙を先に指導して,それからコミュニケーションをさせるという傾向がありました。しかし,小学校の外国語活動では,文法・語彙よりも,むしろコミュニケーションを先に体験します。

 ところで,文法・語彙よりもコミュニケーションを先にさせると,どういうことが起こるでしょうか。外国語を初めて学ぶ児童は,当然のことながら文法や語彙の知識が非常に少ないものです。ですから,単語のみの会話になったり間違った発話が出たりします。コミュニケーションを優先させるとそれは当然起こることです。サヴィニョン(2009)は「文法は最初に重視すべき項目ではまったくない。学習者は,まずどのようにして意味を伝えるか,発話に参加するのかを学ぶ。そうすると学習者はコミュニケーションを経験することで,その結果として,言語の構造または機能に気がつく。私たちはコミュニケーションをしたいという気持ちと,コミュニケーションの経験があって初めて,文法を習得することができる。」と述べています。新しい学習指導要領の考え方は,まさにこのサヴィニョンの考え方に依拠していると言っても過言ではないと筆者は考えています。そして,実はこれが自然な学習プロセスなのです。

 新しいSUNSHINEも,この考え方に依拠していると言えます。生徒にコミュニケーションを体験させつつ気づきを促します。そして,大切なことは「気づき」を「知識」に変え,定着させることです。そこで,コミュニケーションを体験したところで,英語の文法を明示的に指導し,正確性を高める必要があります。SUNSHINEには文法をわかりやすくまとめた「英語のしくみ」というページがあります。コミュニケーションを体験したあとなので,文法のポイントはわかりやすく,しかも「英語のしくみ」が実感できます。生徒が思わず「そうだったのか!」と声を上げることでしょう。


●参考文献
和泉伸一(2009)『「フォーカス・オン・フォーム」を取り入れた新しい英語教育』大修館書店.
サンドラ・サヴィニョン(2009)『コミュニケーション能力―理論と実践』法政大学出版局.

大城 賢(おおしろ けん)

 琉球大学教育学部卒業。琉球大学大学院教育学研究科(教育学修士)修了。教育学部附属中学校・公立中学校・高等学校教諭として15年間勤務した後,沖縄国際大学教授を経て2004年から琉球大学教育学部教授。2020年3月に退職し,現在琉球大学名誉教授。学外においては,学習指導要領(外国語活動・外国語)作成協力委員,学習指導要領解説(外国語活動・外国語編)作成協力委員,小学校新教材開発検討委員などを務める。
 好きなことばは,羽野美佳先生(日田市立三和小学校長)からいただいた「木は光をあびて育つ,人はことばをあびて育つ」。

主な著書

『小学校新学習指導要領ポイント総整理 外国語』(東洋館出版社),『小学校英語早わかり 実践ガイドブック』(開隆堂出版),『小学校英語教育の展開』(教育出版),ほか多数。