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リスニングがつなぐ小・中英語教育

西垣知佳子(千葉大学教授)

 新学習指導要領のもと,外国語科では,小・中・高の各学校段階で一貫した目標が設定されました。これにより外国語教育においては,なお一層,小・中の接続を図ることが求められています。また,リスニングは言語習得の基礎であることから,小学校英語では「まずは十分なリスニングを行う。スピーキングを急がない」と言われます。こうしたことから,小学校英語と中学校英語の接続を考えるとき,そのキーワードの1つがリスニングと言えるのではないでしょうか。ここでは,リスニングを軸に小・中連携について考えます。

新入生とリスニング

 外国語教育の小・中連携を考えるにあたって,中学校への新入生が,小学校でどのようなリスニングの学びを経験してきたかを知っておくことは重要です。そこで,新学習指導要領において,言語活動の「聞くこと」が小学校から中学校へとどのように発展していくのかを確認してみましょう。

 まず,小学3,4年生の外国語活動では,英語を聞いて,「それらを表すイラストや写真などと結び付ける活動」が行われます。続いて,5,6年生の外国語科では,「イラストや写真などを参考にしながら聞いて,必要な情報を得る活動」へと発展します。このことから,小学校のリスニングは,視覚情報と聞き取れた英語から,必要な情報を推測しながら得られればよいことがわかります。英語の一語一句を正確に聞き取るようなリスニングはしません。

 中学校ではさらに進んで,「日常的な話題や外出したときに聞こえる駅のアナウンスなどから,自分が必要とする情報を聞き取る」という,視覚情報のない状況でのリスニングへと発展します。注目すべきは,「社会的な話題に関する会話や説明などを聞いて,概要や要点を把握し,その内容を英語で説明する活動」へと,さらに発展させるよう求められている点です。

 以上を踏まえ,令和3年度版SUNSHINE ENGLISH COURSEでは,小学校英語から中学校英語への滑らかな接続を大切にしています。そのため,中学校での本格的な英語学習が始まるPROGRAM 1の前に,小・中の英語教育の橋渡しをするGet ReadyPROGRAM 0を置きました。新SUNSHINEがリスニングを軸にしてどのように小・中連携を図っているのか,はじめにGet Readyを通して見てみましょう。

Get Readyと小・中連携

 Get Readyの役割は,新入生が小学校で培った英語力を駆使して多様な活動に挑戦し,「できる!」「英語が好き!」という気持ちを抱いて,中学校英語をスタートさせることです。また先生方には,Get Readyを通して生徒の英語力の実態を把握していただきたいと考えています。では,さっそく具体的に見ていきましょう。

特長1 リスニングからのスタート

 図1はGet Readyのとびらページです。ここでは,新SUNSHINEの主人公である真央と健が,生徒に向かって話しかけます。はじめに,真央が自己紹介をします。生徒は,聞き取れた内容をメモ欄に書き取ります。


図1:Get Readyとびらページ
(1年 p.7)

Hi, everyone!  Nice to meet you.  I’m Mao.  Our Junior High School life started.  I’m a new student at Mirai Junior High School.  Do you enjoy your school life?  I want to make many friends and I want to play sports.  Basketball team, tennis team....  I like sports very much.  Of course, I like English.  Let’s enjoy studying English.

 生徒は,小学校で英語学習をスタートしたときから,音声優先で英語を学んでいます。そこでGet Readyでは,生徒が自信をもって取り組めるように,活動をリスニングからスタートしています。個別にメモをとったあとに,ペアやグループでそのメモの情報を交換したり確認したりすると,聞き逃した情報を生徒どうしで補うことができます。

特長2 くり返し学習への配慮

 上に示した真央の自己紹介では,過去形,to不定詞,動名詞が含まれており,新入生には一見難しそうです。しかし,実はどれも小学校で既に触れていて,自己表現活動にも使ってきたものであり,聞き取りは先生方が想像するほど難しいものではありません。過去形,to不定詞,動名詞のように,小学校で触れたり使ってきたりした表現は,教科書本課で明示的に文法を学ぶタイミングを待つことなく,中学校入学直後から音声を通してくり返し触れさせることで,生徒が忘れないようにしたいという配慮です。

特長3 教科書を身近でリアルなものにする工夫

 Get Readyでは,新学期にふさわしい「自己紹介」というテーマのもと,新SUNSHINEの登場人物(図2)を介して,生徒は様々な活動に取り組みます。生徒は授業での活動を通して,真央や健をはじめ,エミリー,ダニエル,ミラー先生などの登場人物について知ることができます。本課のPROGRAM 1の学習が始まる前に,これから3年間,一緒に英語を勉強する教科書の中の仲間たちに対して,実在する友だちのように親しみをもってもらいたいと考えました。
図2:新SUNSHINEの仲間たち
(1年 前見返しうら)

特長4 リスニングを基盤にした統合的活動

 Get Readyはリスニングからスタートして,他技能の活動を統合的に取り入れるようにもしています。活動の形態は,生徒が小学校で経験して慣れ親しんでいるものです。ここでは,「聞くこと⇒書くこと⇒やり取り」と展開する例を紹介します。

 Get Ready 2の①-1(図3)では,英語を聞いて,エミリー,ダニエル,ミラー先生とその人の好きな食べ物とを線で結びます。


図3:Get Ready 2 ①-1(1年 p.10より)
聞く活動

 2の①-2(図4)では,生徒が好きな食べ物を4線に書きます。つづりがわからない生徒は,4線の下にあるWord Boxがサポートします。子どもに人気の高い食べ物のつづり,意味,イラストが示されているので,生徒はWord Boxを参考にして4線に書き写すことができます。


図4:Get Ready 2 ①-2(1年 p.10より)
書く活動

 Get Ready 3の②(図5)では,小学校で親しんできた「なりきりインタビュー」でやり取りを行います。生徒がなりきる人物は,真央,健,エミリー,ダニエルの4人です。彼らのプロフィールカードをもとにして,お互いにだれかになりきって英語で質問をし合います。


図5:Get Ready 3 ②(1年 p.12より)
話す活動(やり取り)
 英語で質問文を作るのが難しい場合は,下に置かれた質問カードをヒントにして質問を考えます。これらの質問は,小学校で学んできた表現ばかりです。英語での質問の仕方を思い出せない生徒も,この活動をくり返すことで,小学校で身につけた英語表現を思い出し,定着を図ることができます。

特長5 コミュニケーションをしている実感と主体性を引き出す活動

 3の③は,それまでの活動で復習した表現を使って,実際にALTやJTEの教師に対して,生徒が主体的に考え,英語でたくさん質問をする「教師⇔生徒」のやり取りです。そして3の④は,友だちの好きなこと,将来なりたいものなどを英語で質問する「生徒⇔生徒」のやり取りです。このやり取りは,Small Talkとして小学校でも親しまれている活動です。

 Get Ready 4では,生徒は文字を介して英語を使います。Get Ready 4の①(図6)では,新入生としてはたっぷりの量の英語を読みます。生徒は目に飛び込んできた英語の中から,理解できる語句をつなぎ合わせて回答することでしょう。4の②(図7)では,質問に答える形で自己紹介カードを書きます。4の③(図7)では,自分が書いた自己紹介カードを使って,友だちとお互いに自己紹介をしてサインを交換します。新しい友だちを作る,英語のクラス作りに生きる活動です。小学校英語では協働的,対話的な活動が数多く設定されているので,新SUNSHINEでも生徒どうしの教え合い,学び合いを大切にしています。

図6:Get Ready 4 ①(1年 p.14)
読む活動
図7:Get Ready 4 ②,③(1年 p.15)
書く活動とやり取り

 以上のように,Get Readyでは,リスニングを起点として統合的な活動につなげることができます。身近な場面設定での目的・意味のある言語活動を通して,「聞き取る⇒理解する⇒理解したことを表す⇒やり取り・読む・書く」活動へと統合させ,発展させていきます。

Power-Upでさらなるリスニングの強化

 新SUNSHINEでは,現行版を引き継いだ各技能に特化したPower-Upというコミュニケーション活動があり,ここでもリスニングに特化したトレーニングができます。新SUNSHINE 1のPower-Up 4「店内放送を聞こう」(図8)を例に,リスニングの学習を見てみましょう。

 ここでは,以下のように3段階のスモールステップを踏んでいます。

1聞き取れた語句をヒントにして話題を捉える

2必要な情報を聞き取る

3必要な情報について,一語一句を正確に聞き取り,聞き取った部分を声に出して読んでみる

1は小学生から取り組んでいる活動ですが,23,中でも3は中学生になって初めて行う活動です。聞き取った音と英語を結びつける作業であり,聞き取れていたつもりだったのに実は詳細には聞き取れていなかった自分の弱点に気づくことができます。実力を高めるには,正解したことよりも間違えたことが重要です。聞き取れていなかった部分に意識を向け,聞き取れるようになることには価値があります

 さらに,聞きっぱなしで終わらせないために,英文スクリプト全体を印刷して生徒に配布し,聞き取った音声と英語の文字を合致させる作業を行います。その後,シャドーイングや音読活動をします。このように,Power-Upを利用して一段上の実力を目指します。


図8:Power-Up 4(1年 p.77)
①話題を捉えるリスニング
②,③情報を聞き取る,正確に聞き取るリスニング

 最後に,学習指導要領の言語活動「聞くこと」における,「社会的な話題に関する会話や説明などを聞いて,概要や要点を把握し,その内容を英語で説明する活動」は,たとえば,新SUNSHINE 3のOur Project 7「記者会見を開こう」で扱われています。生徒がインタビューに参加する記者役となって,会見者役の友だちのスピーチを聞いてメモをとり,概要や要点を把握して質問をする活動があります。3年間で学んだことを総動員して記者会見に臨み,リスニングとスピーキングの即興力を培います。

 本稿では,小・中連携の柱の1つとしてリスニングを取り上げ,新SUNSHINEのページを見てきました。進化し続けるSUNSHINEにどうぞご期待ください。

西垣知佳子(にしがき ちかこ)

 明海大学を経て1996年度より千葉大学に勤務。現在は同大学教授。教育学部で小・中・高の英語教員の養成を担当。専門は英語教育学。特にリスニング・スピーキング,5領域の統合,語彙・文法の指導,ICT教材の作成と活用に関心を持っている。
 学生には「英語力」「授業力」「人間力」を備えた英語教師に育ってほしいと願って指導し,授業ではThe more we do, the more we can do. を信条として,「経験すること」「活動すること」を大切にしている。

主な著書

『猜猜“我”是誰? 親子遊戯識物図册(漢,英,日,韓対照)』(外国語教学与研究社:北京),『生活語彙が楽しく身につく! 小・中学生の英語カルタ&アクティビティ30』(明治図書),『デイリー英単語 あら・かるた』(開隆堂出版),『えいごなぞなぞBOOK』(開隆堂出版),『リスニングが上達する! 英語楽習マガジンNonstop English Wave』(日本英語検定協会,監修),NHKラジオ講座『英語リスニング入門』番組講師(2002年~2004年),NHKラジオ講座『基礎英語2』番組講師(2016年~2018年)など。