かてきちの家庭科先生!教えてください 第1回 教科書の制作にあたっての

家庭科の専門家に編集部がインタビューする「かてきちの"家庭科先生!教えてください"」シリーズ。今回は、開隆堂の小学校家庭科教科書の代表著者である横浜国立大学教授の堀内かおる先生と、中学校家庭分野教科書の代表著者である金沢大学教授の綿引伴子先生に直撃インタビューした内容を、全5回にわけてお送りします。
初回は、「教科書の制作にあたっての"思い"」についてです。

綿引先生・かてきち・堀内先生の対談イラスト
小学校家庭科教科書
小学校教科書
中学校家庭科教科書
中学校教科書
かてきち

かてきち:こんにちは!家庭科が大好きな「かてきち」です。堀内先生、綿引先生、今日はよろしくお願いします。早速ですが、現行の教科書を制作するにあたって、編集に込められた思いなどを教えてください。まずは堀内先生、お願いします。

堀内先生

堀内先生:はい。小学校の教科書は、子どもたちにとっては家庭科という教科と出合う手がかりですよね。小学5年生になって教科書が配られて、「家庭科でどんなことやるのかな?」っていう期待をもちながら教科書を見て「あ、こんなこと学べるんだ!」っていう期待に胸をふくらませる。そこからスタートすると思うんです。

小学校教科書50・51ページ
小学校教科書50・51ページ
小学校教科書66・67ページ
小学校教科書66・67ページ
背景

教科書は教科と出会う手がかり

かてきち

かてきち:子どもたちにとって初めて家庭科に出合う瞬間ですね!

堀内先生

堀内先生:そう。だから教科書は子どもたちにとって家庭科という教科と出合う最大の媒介物です。子どもたちには、生活の中で生きていく力を身につけていく具体的な実践がとても大事です。家庭科では、まさに「生きる力」と言われているような、実際に自分で生活を営んでいくために必要な力を具体的に身につけていく。それはスキルだけじゃなくて、その背景にある考え方だとか理論に裏付けられた知識も身につけていく。そういう教科なので、教科書は非常に広範囲に渡る生活のどれをどの程度、どの段階で子どもたちに伝えていったらいいんだろうっていうことを具体的に、授業という形で先生方が教えていく、取り上げていくためのまさに教材なんです。教科書「を」教えるのではなく、教科書「で」教えるということがよく言われますけれども、教科書を使って教える。だから先生方にとって教科書は、最大の教材なんです。

かてきち

かてきち:なるほど。

堀内先生

堀内先生:現行教科書をつくるにあたって1番大事にしたことは、最大のユーザーが子どもたちであり先生であることを前提に、いかに豊かな学びを保証している内容かつ使いやすい構成になっているかということです。また、家庭科は非常に多岐に渡る内容を扱っているので、注意したいのはそれらの内容がそれぞれバラバラに並ぶのではなくて、互いに結びつきながら生活が総合的に成り立っていることに気づけるように、子どもたちも先生もそれを実感できる教科書であることが大切だと考えながら、編集に関わらせていただきました。

かてきち

かてきち:多岐に渡る内容を総合的に捉えることができる教科書づくりを意識したということですね!ありがとうございます。続いて、中学校代表著者の綿引先生に伺います。現行教科書の制作への思いについて教えてください。

背景

“相互依存”という自立

綿引先生

綿引先生:中学校の現行教科書をつくるにあたっては、大人の上から目線にならないように、できるだけ中学生目線で中学生に寄り添いながら励ます教科書を目指しました。そこで、そのために意識したことや工夫したことがいくつかあります。まず価値の押し付けや、説教調だったり、「何々しましょう」と促したり、大人の求める方に誘導的になったりならないように気をつけました。言葉の使い方だったり、文章の書き方だったりというところですね。それから、自立という概念を「何々ができる強い人間」という一面だけで捉えたり、「自立を目指そう」というふうにするのではなく、熊谷晋一郎さんの言葉を引用して、依存先を増やしていくことで共生しながら自立していくということ、つまり相互依存、助け・助けられる頼り合いですよね。その相互依存の大切さとか、弱くてもいいんだよっていうことを伝えたいと思いながら制作しました。この視点は、ガイダンスの11ページや、A.家族・家庭・地域の20ページ、36ページ、37ページなどあちこちに散りばめています。それと関連して、人権や多様性の理解についても意識的に内容を含めました。

中学校教科書11ページ
中学校教科書11ページ
中学校教科書36ページ
中学校教科書36ページ
かてきち

かてきち:具体的にはどのページでしょうか。

綿引先生

綿引先生:ガイダンスの「持続可能な社会への構築」の8ページや、「『自立』と『共生』は一体」の11ページ、中学生の発達の特徴や自己理解についての20ページ、子どもの権利条約や意見表明についての73・74ページ、トランスジェンダーの中学生のコラム81ページ、ジェンダーについて書かれている82・83ページなどに(他にもありますが)、人権や多様性の尊重理解に関する記述があります。

中学校教科書73ページ
中学校教科書73ページ
中学校教科書74ページ
中学校教科書74ページ
中学校教科書36ページ
中学校教科書82・83ページ
かてきち

かてきち:235ページ(住生活)にもありますね。その他に意識した観点などありますか?

綿引先生

綿引先生科学的な視点というのも意識しました。例えば、調理実習例にはつくり方だけではなく「Q&A」という形でなぜそうするのかとか、なぜそうなるのかという原理や科学がわかるようにしています。それにより知的好奇心を刺激したり、また自分の生活に応用できたりすることができます。例えばハンバーグをつくるときになぜ塩を入れてよく混ぜるのかとか、ムニエルを焼くときはなぜ初めに強火にするのかなど、たくさんの科学がこの調理実習のページには掲載されています。また、食生活では中学校教科書104・105ページに体の図があって、家庭科としては斬新なページだと思いますが、食べ物が体の中でどのように変化していくのかとか、家庭科で学ぶ食べ物と栄養が、どのように自分たちの体に影響しているのかを科学的、視覚的に理解できると思います。また理科や保健体育などの他教科と関連させて学ぶこともできます。他にも洗濯の時の界面活性剤の働きや、結露の仕組み、部屋の空気の流れや間取りから効果的な環境を理解するというところも「科学的」な内容かなと思います。

中学校教科書128・129ページ
中学校教科書128・129ページ
中学校教科書104・105ページ
中学校教科書104・105ページ
背景

生活を「科学的」な視点で

かてきち

かてきち:「科学的」な観点も意識されているんですね!

綿引先生

綿引先生:そうですね。「科学的」と言うと自然科学のことを思い浮かべますが、それだけではなく、社会科学、人文科学の面からも科学的であることを意識しました。例えば、性別役割分業やジェンダーは歴史の中であるいは社会的・文化的につくられてきました。日本は他国に比べて家事や育児が女性に偏りがちという実態があるのですが、その背景や関連していることを様々な点から検討したり考えたり、あるいは多様な意見・異なる意見から交流したり、そういうことも科学的な学びと言えるのではないかなと思っています。また、幼児のイヤイヤ期や心の発達を、46・47ページの表にあるような言語・情緒・認知・社会性の発達と関連させて学ぶことも科学的と言えると思います。ただし科学というのはそのとき、つまり現在の真理であり、進歩すれば否定されたり変わったりすることもあります。そういった様々な視点を教科書に盛り込みながら、中学生を励ます教科書にしたいと思ってつくりました。

かてきち

かてきち:まさに生徒に寄り添った教科書ですね!では次に、教科書で授業をするにあたり、具体的な工夫や特に力を入れたことなどこだわったポイントを教えてください。まず堀内先生、いかがでしょうか。

堀内先生

堀内先生:教科書を編集していく中で、会議の議論でも非常に検討されていたところですけれども、学びのプロセスが可視化されていることが大事だと思います。先生方がこの教科書を使って授業をしていくときに、内容として豊かなものが教科書に含まれていたとしても、それをどんな風に子どもたちに提示していったらいいのかわからなかったら、授業にはなりません。また、子どもたちも面白いな、すごいなって教科書のページを眺めているだけでは学びに発展していかないので、教科書の紙面に「学び方」が可視化されていることが大事だと思います。例えば最初の目次ページに、階段を登っていくステップのイラストが描かれていますが、これを見ると家庭科ではどういう風に学んでいくのかが、わかります。

小学校教科書6・7ページ
小学校教科書6・7ページ
背景

学びのプロセスを可視化する

かてきち

かてきち:「3ステップ」ですね。

堀内先生

堀内先生:はい。最初の段階「気づく・見つける」がファーストステップですね。セカンドステップが「わかる・できる」。見つけてそこでやってみて考えてみて、わかることがあり、できるようになります。そして「そうか!わかった」ってなったら、3つ目のサードステップ「生かす・深める」です。できたことをそこで終わりにしないで、じゃあ自分の家庭生活でもう1回やってみようとか、もう少し工夫して生活に生かしてみようとか、さらに深掘りしてみようとか、さらに発展的にもっと難しいことにもチャレンジしてやってみようかなという風につなげて、自分の生活に合うようにカスタマイズしていってほしいです。教科書ってそれぞれの内容に関して典型的な基礎基本をベースにつくられています。ですから教科書「を」教えるっていうスタンスだったらそこを教えたところで終わっちゃうんだけど、教科書「で」教えるというスタンスで学習を積み重ねていくということを考えたときに、教科書にある内容を取り上げたところで終わりにしないで、授業時数が足りないかもしれないけども、子どもたちの心の中で意欲の火が消えずに、主体的に次に向かって続いていくような流れを残していけるようにしたいものです。その意味で、この「生活に生かす・深める」っていう、ここが実はとても大事なんですよね。

かてきち

かてきち:「3ステップ」で学びを段階的にフォローするんですね。その他に工夫点はありますか?

堀内先生

堀内先生:教科書の各内容の「扉」には、これから始まる各内容を象徴的に表している写真だったりイラストだったりっていうページがありますよね。これは、「フォトランゲージ」っていうワークショップの手法なんです。ただそのページのトップの写真だなって言って通り過ぎてしまえばそれきりなんですけど、なぜこういう写真やイラストをこれだけ半分の大きなページをさいて入れているかっていう点に実は意味があります。

小学校教科書48ぺージ
小学校教科書48ページ
かてきち

かてきち:どんな意味ですか??

堀内先生

堀内先生:等身大の子どもたちが多くのページで何かをしながら何か考えているような様子や、何かに取り組んでいるような様子の写真があります。これらを有効に使って「授業開き」ができると思うんです。

かてきち

かてきち:なるほど。具体的にはどんな使い方がありますか?

背景

“やる気”を引き出す工夫

堀内先生

堀内先生:例えば「ソーイングはじめの一歩」(小学校教科書20ページ)で子どもたちが何を使って、どんなことをするのだろうって考えてみたりとか、フェルトを切ってる写真が出ていたりする場面があって、例えばこういうページを見せてここから「ソーイングっていうことを学習していく授業が始まるんだよ」っていうことを授業の導入で取り上げることができます。子どもたちがまさに自分ごととして作ってみたい!やってみたい!こんな縫い方ができるようになりたい!って思わせるような導入をして欲しいなと思うんですね。そうした時に、子どもたちが実際に何かを作ろうとしていたり、語り合ったりしてる写真がある。それを見てこの子たちは何を作っているのかなとか、あなただったらどんなものを作ってみたい?とか、「写真」を手がかりとして子どもたちに投げかけていく。話題を共有していく。これからの学びに向かって意欲を高めていくような、そういう導入ができると思うんです。それがないと「はい、じゃあこれから小物作りをします」とか「袋を作ります」とか、「作ります」が目的で先生から言われたから作る、授業だからやるっていう話になってしまったら、自分ごとになりませんよね。それぞれの子どもが本当に「作りたい」って思えるような動機付けにどうやって持っていくのかが、まさに授業をする上での先生方の工夫であり、授業を考えるうえでとても重要です。実は教科書にはそのような意欲を高める伏線となるページがあって、それらがこの写真に込められています。

小学校教科書20ぺージ
小学校教科書20ページ
背景

“参加し、考える”教科書に

綿引先生

綿引先生:中学校教科書でも、小学校と同様に各内容の扉ページを見開き2ページで設けています。例えば、38・39ページには「幼児の生活」の内容に入る前に、幼児の様々な表情や姿が写真で大きく掲載されています。学習内容にかかわる写真を見て、幼児を「かわいい」とか「なぜ泣いているのかな?」など生徒が自然に関心をもって授業に入れるよう工夫しています。また、食生活(88・89ページ)では、あえて調理実習ではあまり使わないような食品も掲載しています。これは「これって何ていう食べものかな?」「食べたこと、触れたことないな」などの生徒の素朴な疑問や思いから、食品だけでなく栄養素や自分の食生活への関心や気づきを引き出せたらと思いました。他の内容の扉も同じように、これからの学習に「ふわっ」といざなうページになるようにしました。それから、できるだけ先生からの一方向的な知識注入型ではなく、生徒が参加し考える学習になるように、節ごとに、問い・課題を学習の流れに沿って入れて構成しました。まず節のはじめに、自分の生活を振り返る身近な問いから学習を始めます。例えば「最近、あなたはどのようなものを購入しましたか。」とか、「小学校では布を使って何をつくりましたか。製作はどのようなところが楽しかったですか。」などです。そして、本文では、「考えてみよう」「やってみよう」「話し合ってみよう」「調べてみよう」の課題に取り組むようにします。そして各内容の最後にある「学習のまとめ」では、最後の4番目の課題に、生徒それぞれの関心や学習意欲の継続を期待し、「生活の課題と実践」(292〜303ページ)につなげました。「生活の課題と実践」は独立してあるのではなく、日々の学習と関連していることがわかるようにしました。

中学校教科書88・89ページ
中学校教科書88・89ページ

(つづきは次回)

➡次回(第2回)のテーマは、堀内・綿引両先生が伝えたい「現行教科書の"推しページ"」です。