1. はじめに
「聞く・話す」重視の学習指導要領から4技能をバランスよく指導する新学習指導要領へと新しい時代の幕が開く。週当たり指導時数を33%増やして,それを既習事項の復習や「読む」「書く」の指導に当てる。時数増なくしてはできなかった大転換である。
ところが喜んでばかりもいられない。これまで音声面を大事にして慎重に進めてきた指導が,文字偏重になりはしないか。「学力向上」の大号令のもと,すぐ点数に結びつく(と一般に考えられている)「読む」「書く」指導への過度な偏重をあおりはしないか。
第10回でも書いたが,「頭に聴覚像(acoustic image)を作る」(頭の中に英語の世界を作る)ことなしには英語の定着はあり得ない。だから1年生の音声指導では,これまで同様,音声を使った練習をたっぷりさせてあげてほしい。各種パフォーマンス(スキット,スピーチ,絵本の読み聞かせ,紙芝居,インタビューテスト,英語劇)における本校生徒の発話能力のずば抜けた高さはもちろんだが,各種written testのスコアの高さはその証明である。
2. 新しい紙面構成
開隆堂Sunshine English Course(以下Sunshine)にはかつて「L-Sプログラム」という文字の登場しないページが各学年に3か所ほどあった。当時,「音声重視」という流れの中で大変支持されたページであったのだが,L-Sプログラムには新しい文法事項が含まれていた。今回の改訂では,それを特定の文法事項と絡めずに通常プログラムと切り離して提示することにした。理由は,リスニングにはリスニングなりに,スピーキングにはスピーキングなりに,生徒の興味を引いたり,該当技能を伸ばしたりするのにふさわしいコストパフォーマンスのよい展開があるからである。
それでは実際に平成24年度版の新しいSunshineの紙面を見てみよう。
(1)下は1年生の最初のPOWER-UP Listeningである(図1)。文科省『英語ノート』の中身にあわせて,トピックは生徒の好き嫌いが中心となっている。さらに小学校外国語活動とのつなぎを十分に配慮して,選択肢の単語は教師の発音を聞いてから選ぶようになっている。
図1 POWER-UP Listening 1(1年pp.36-37)
(2)次は同じく1年生のPOWER-UP Speaking 2である(図2)。2往復の簡単な対話を中心に,易から難へスピーキング活動をレベルアップできるようになっている。実際の授業では次のように評価活動につなげるとよい。
1導入したその授業の中で,全ペアに「*そのまんまスキット」合格を課す。
(*教科書を見ないで対話にジェスチャーをつけながら演じること)
2 このスキットをペアごとに変化させたスキット発表を後日行う。
図2 POWER-UP Speaking 2(1年pp.74-75)
(3)1年生も3学期になると,次のように立派な寸劇とも呼べる長さのスキットができるようになる(図3)。
図3 POWER-UP Speaking 4(1年pp.108-109)
(4)このPOWER-UP Speakingは,2年生になると次のような広がりを見せる(図4)。ただ覚えて発表するだけでなく,与えられた状況に応じて(発話の)内容を変えながら対話を続ける練習も組み込まれている。これまでのスピーキング教材にはなかった発想である。
図4 POWER-UP Speaking 3(2年pp.52-53)
(5)POWER-UP Speakingでは3年間を通して,日常出会うであろう場面を次のように設定している。さまざまな表現がある買い物,道案内,電話については学年を越えて練習できるようにしてある。
Book 1 | Book 2 | Book 3 |
時刻をたずねる 持ち主をたずねる 依頼する・許可を求める 買い物① |
電話① 誘う・依頼する・約束する 買い物② 道案内① 買い物③ |
旅行 食事 道案内② 電話② 買い物④ |
(6)さて,ここで3年生のPOWER-UP Speaking 4を見てみよう(図5)。右ページでは左ページで練習した電話表現を「聞き取って」,伝言内容を「書き取る」活動がある。これこそ,新学習指導要領で言われている複数の技能を統合化した活動の具体例である。
図5 POWER-UP Speaking 4(3年pp.58-59)
さらに3年生POWER-UP Listening 3をご覧いただくと,今度は有名人のプロフィールを聞きながら(listening),それに関してのサマリーを読み(reading),空所に英語を書き込む(writing)活動が用意されている(図6)。次に,これらの有名人の名言を聞き,音読,暗唱する活動も組み入れられている。
図6 POWER-UP Listening 3(3年pp.100-101)
3.おわりに
第10回でも書いたが,新しいSunshineでは次の2点も編集の柱の一つとしてとらえた。「生徒にとって自学の参考書となる教科書」「教師にとって検索が簡単な教科書」である。この考えは,全学年を通じていろいろなところで具体化されているが,今回お話しさせていただいたPOWER-UP Listening, POWER-UP Speakingのコーナーにもその配慮がなされている。たとえば,全学年で複数配置しているspeakingトピックについては,優秀なペアには上級学年のものにチャレンジさせるのもおもしろい。「楽しい」「力がつく」と感じたら,生徒は無限の可能性を見せるものである。
北原延晃 (きたはらのぶあき) |
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主な著書 |
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』(開隆堂),『英語授業の「幹」をつくる本(上・下巻)』,NHKDVD『わくわく授業-わたしの教え方』(以上ベネッセコーポレーション)など。 |