生活を科学し,実践する力を育てる授業づくり 子どもがいきる家庭科

特徴
小学校・中学校の家庭科教育の大先輩たちの研究の成果や、学習指導要領の内容を吟味し、かつ授業として成立する内容であることはもちろん、体験学習や参加型学習により児童・生徒を積極的に授業に向かわせるような授業づくりを目指した教育書。
「はじめに」より
教育行政の「生きる力」や「確かな学力」の訴えを見聞きするたびに、子どもたちの学ぼうとする好奇心や意欲を底上げするのに、「家庭科」こそ出番だという思いを強くしていました。家庭科が大事にしてきた、生活と科学を結びつけるということは子ども達の感性を鋭くするし、理論的根拠と実践が結びつくことは納得のいく分かり方ができることです。
また、自分の生活が多くの「もの」の命や、人々の労働や工夫、社会の仕組みやサポートによって成り立っていることを知れば、どんなにか孤独や孤立から解放され、自分たちを取り巻く生活をよりよくする自信を持ち、未来を志向することができることでしょう。現在の子どもたちに必要な学びは、このような「家庭科」の学び方であると考えるのです。
しかし現実は、家庭科の出番が多いわけではなく、むしろ小、中、高校まで家庭科時間数の実質的な削減が進んでいます。これを危機感と感じないわけにはいきません。
もっと家庭科の存在を広く知ってもらうこと、次代の家庭科研究実践の担い手を育てること、家庭科担当者の実践を多く共有し自分たちの教科指導力を高めることを目指したいと思います。
幸い私は静岡県を中心に多くの家庭科の授業を参観でき、また先生方と教材や授業の展開を一緒に研究する機会がありました。そこでは教師、子ども、生活研究のない合わせの面白さ、貴重さを教えていただいたのです。
新しい学習指導要領の実施を間近にし、いままでの蓄積を継承すべきこと、発展させるべきことを意識したテキストを作りたいと考えました。その際、私がそうであったように、小・中学校の先生方の授業づくりの考え方をしっかり学ぼう、大学の先生方には家庭科の学習指導要領の読解や、教材研究のポイントさらには国民の生活課題について科学の先端からあるいは基礎から解題していただこう、家庭科との接点の提案をしていただこうというアイディアを持つにいたった次第です。
多くの執筆者の協力を得て、本書の目次が、内容が成り立っています。世界に一つしかない教師と子どもの授業の事実や、着実さとチャレンジ精神による研究が伝わってくることでしょう。私たちの心身と専門性を豊かに育ててくれる報告です。
本書は一人で予習復習に、明日の授業の下調べに、あるいは大学の授業や研究会で検討して到達点を学び、さらに調べ学習が進むように意図されたレビューやワークも設けてあります。活用が期待されるところです。
忙しい中原稿を寄せてくださった先生方、編集やシュッパン関係者の皆様に感謝を申し上げます。
編者 吉原崇恵
本書の魅力
- 静岡県を中心に東海地区の小・中学校、大学の家庭科教育および教科専門を担当している多彩な執筆陣による著書です。
- 着実で挑戦的な内容を網羅した、小・中学校の家庭科の多様・多数の実践報告は、世界にひとつの授業であり、そこに教師と子どもの姿があります。
- 小・中学校の家庭科教育へのコネクションを持った大学の教科専門からのアプローチは、自分の専門分野に閉じこもることなく、その経験をふまえた現代および将来の家庭科へのアプローチとして貴重です。
- 子どもの学びの発展や、成長を願う視点が光り、あたたかくかつ、透徹した家庭科への期待が満ちています。
第I部 家庭科で育てる力と私の授業づくり
第1章は、家庭科で育てる力について、大先輩たちの研究の成果を簡単にたどり、子どもが学ぶ過程を重視した場合のみにつける力を表現するように展開しています。
第2章は、小学校・中学校の授業報告を、学習指導要領の内容のA、B、C、Dの順番に配列し、授業の仕組みが分かることを主眼としています。
第3章は、授業を成立させる要因と関連を図で示しています。また、授業づくりのノウハウばかりでなく考え方の根底を問う、ベテランの先生方の座談会を掲載しています。
第4章は、多様な学習方法として、家庭科で長年工夫されてきた体験的学習の代表である「実験・実習」や、近年の「参加型学習」を取り上げ、紹介と活用の示唆をしています。さらに、学習環境づくりも紹介しています。
第II部 生活の科学と家庭科の基礎知識
第1章は、教科専門分野の立場から、学習指導要領の関連分野を読み解き、食物学、被服学、住居学、家族・保育学、家庭管理・経営学、消費・生活設計、経済学、地域社会などに関する課題の提起を期待する章です。立場の違う考え方を材料にして、自分お家庭科観を磨きましょう。
第2章は、家庭科の内容や典型的な教材、新しく試みられている教材に注目したものです。教材の背景にある科学的根拠を把握して指導の際の自信につながるように、また、考え方を整理するために概念や原理を把握できるようにしましょう。
第3章は、家庭科の教育内容や教材が、現代に生きる子供たちにとって学び甲斐があるようにするために、国民が抱えている生活課題についての関心と理解への誘いです。
安心安全、防災、男女共同参画、子育て支援、多文化共生、環境共生、多様な選択肢と意思決定など、私たちが直面している課題を取り上げています。
第III部 家庭科教育Q&A
歴史や教科の課題をテキストの最初に設定する構成もあります。このテキストではあえて最後に「Q&A」の形で設けています。執筆者は、膨大な研究成果をまとめたり研究途上の事項を整理したりして、今後の検討課題を提起しています。読後、自らQ&Aを作成していけば、家庭科のパワーアップに大きな貢献ができます。
目次
第I部 家庭科で育てる力と私の授業づくり
1章 家庭科育てる力と授業研究
2章 1 私の授業づくり(小学校)
- 「自分にできることから家族のために」5年生1学期の授業実践
- 家庭との連携を軸にした、実践的な態度を育てるための授業
- 選んで食べる子の育成を目指す家庭科教育
- 学びがつながり、「生活に生かす力」のつく学習展開
- 食生活を見つめ、基礎基本をおさえた学習展開の工夫
- なぜ食べるのか考え、食事を自分で整える子の育成を目指して
- 食品の組み合わせを考え、実践的な態度を育てる
- 家庭科の学習と子どもたちの生活をつなげる試み
- 「しまっこ定食」-1食分の食事づくり―
- 「自分でできる」喜びを味わうことを目指す指導の工夫
- 家庭生活をよりよくし、「生きて働く力」を育てる問題解決的な学習の展開
- 家庭生活に自らかかわっていく子どもをはぐくむ家庭科を目指して
- 一人ひとりの意欲を高め、生活能力を育てる授業
- 布の利用のための布の仕組みの観察と試作
- 気づきから主体的な生活者を育てるために
- 「整理・整頓及び清掃の仕方と工夫」の単元展開
- 家庭生活に自らかかわっていく子どもをはぐくむ家庭科
2章 2 私の授業づくり(中学校)
- 現代の家族を考える
- 家族の多様性の気づきから家族の成立を考える
- 「自分の未来を切り拓く―発達する幼児・発達する自分」(中3)
- 「つかむ」「つくる」「いかす」体験を関連づけた単元構想の工夫
- 学びを支えた追究用紙の活用
- 育児雑誌の作成を通して幼児とのかかわりを追究する
- 自己肯定感をもち、他者と共に生きることができる生徒の育成を願って
- 朝ご飯から食生活を見直そう
- 生徒の主体的な学習活動をめざした食生活の指導計画案
- 土曜日のお弁当づくり―意思決定プロセスを導入して―
- 主体的な調査学習から食品の安全性などを自ら判断する力を育てる
- 生徒が学ぶ意義を理解し実生活にいかすことを目指した授業の工夫
- 子どもの創意工夫を生かしたオリジナル弁当の開発
- 生産と消費を結び未来を創る学び
- 衣服の社会生活上のはたらきを実感する工夫
- 衣生活 視点を明確にして 「似合う色を見つけよう」
- 1年「R大作戦! 環境にも人にもやさしく~自分で作ろう編」
- 環境配慮の衣生活の可能性を拓く
- 騒音防止の体験的な活動を通して実践的意欲を高める
- 家族が安全に気持ちよく生活できる住まい
- 住まいの地震診断―安全・安心な住まいをめざして―
- 生徒の価値観を問い直し、商品選択の視点を広げる授業の工夫
- 環境マークの意義を理解し、環境に配慮した商品を選択しよう
- 循環型社会形成の担い手を育てる指導計画の工夫
- 地域で活動している人から学ぶ消費者の権利と責任
- ワーク・レビュー
3章 授業の見方と授業研究の方法
- 授業を成立させる要因
- 座談会:私の授業づくり―子どもと生活を見つめて―
- ワーク・レビュー
4章 多様な学習方法
(1) 多様な参加型学習方法の例とマニュアル
- ワークショップ
- KJ法
- ロールプレイング
- ブレーンストーミング
- イメージマップ
- ウーリーシンキング
(2) 学習環境づくり<学校・家庭の連携、地域の協力>
(3) 学習環境づくり<学校・家庭の連携、地域の協力>
第II部 生活の科学と家庭科の基礎
1章 私が考える学習指導要領から出発した教材研究の発展
- 食生活の教材
(1)小学校 (2)中学校
- 衣生活の教材
(1)小学校 (2)中学校
- 住生活の教材
(1)小学校 (2)中学校(室内環境)
- 家族/家庭生活の教材
(1)家族に関する内容 (2)小学校(仕事に関する内容)
- 消費生活の教材
(1)学習指導要領 (2)解説 (3)題材例
- 経済金銭の教材
(1)小学校 (2)中学校
- 地域・社会の教材
(1)防災活動を中心に考える
(2)ボランティア活動を中心に考える
(3)伝統文化を中心に考える
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2章 小・中学生が生活を科学するための題材と体験的学習
- 現代家族を見つめる
- 家族を支えるサポートシステム
- 食物摂取時(食品選択時)に考えることをどう指導するか?
- 塩の効果が生きる調理
- 米からごはん(でんぷんの変化)
- 大豆とその加工品
- 小麦粉の科学
- 魚と肉、卵(たんぱく質の調理科学)
- なぜ野菜や果物をたくさん摂らなくてはならないのか?
- 食物繊維を使った調理実験
- 日本型食生活で食卓をととのえる
- 被服のライフサイクル(入手・着用・管理収納・再利用)
- 被服の手入れの意義と必要性
- 縫うとは何か・いろいろな縫い方と活用
- 平面から立体へ ボタンつけ・小物作り・袋づくり
- 着装と被服の機能
- 被服の繊維・糸・布の仕組みを再現
- 繊維の性質と着心地
- 家族と共に住まう
- 室内環境の整備:明るさ、通風・換気の実験
- 騒音、室内の空気汚染実験(中学校)
- 緑のカーテン効果
- 住まいの健康と安全点検
- クーリングオフ・悪質商法のロールプレイ
- 消費者の基本的な権利と責任
- 遊びを創りだす
- 幼児とのふれあい体験ガイド
- 地域の生活文化
3章 国民の生活課題と先端科学
- 環境共生の繊維科学
- 食の安心・安全
- 防災とまちづくり
- 男女共同参画
- 育児参加と子育て支援
- 多文化共生社会
- エネルギー環境教育
- フェアトレード・フードマイレージ
- 循環型社会形成と3Rのライフスタイル
- 選択の方法としての意思決定プロセスと多様な価値観
第III部 家庭科教育Q&A
- 中学・高校で女子のみ必修の時代があったのはなぜですか?
- 現代の我が国のジェンダー・セクシュアリティーの問題状況はどうですか?
- 家族の多様化とはどういうことですか。家庭科ではどのように位置づけますか?
- 家庭科におけるものづくりの価値について?
- 今日の消費者問題にはどのような社会的・歴史的な特徴がありますか?
- 日常生活につながる学びの実態をどのように考えていますか?
- 食育と家庭科教育の関係をどのように考えていきますか?
- 義務教育段階の家庭科教育にキャリア教育をどのように導入できますか?
- 評価の考え方及び規準と基準の作成はどうなっているの?
資料 小・中学校家庭科教育年表
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仕様
| 編著 |
吉原崇恵 |
| 判型 |
B5 |
| ページ数 |
224 |
| 価格 |
本体2,300円(税抜) 定価2,530円(税込) |
| ISBN |
9784304020865 |