社会的エコロジーの創始者であるE.H.S.Richardのヒューマンエコロジー思想を基盤に据えた「生活思想と教育実践の統合」をめざした書です。小・中・高を対象とした授業実践例も取り上げ、環境教育や消費者教育及び総合的な学習の時間での指導に活用できます。
本書は、新しい時代のリベラルエデュケーション(教養教育・市民教育)としての共生思想、とりわけ社会的エコロジーの創唱者であるE.H.S.Richards(エレン・ヘンリエッタ・スワロー・リチャーズ:1842~1911)のヒューマンエコロジー思想を基盤に据えた「生活思想と教育実践の統合」をめざしたテキストである。
リチャーズの環境思想から導き出される普遍的生活価値(例えば健康・安全・生命に与える影響への配慮etc.)とのかかわりで、教育・環境問題を生活者の視点で総合的に理解できるよう、家庭科教育、消費者教育、環境教育さらに家庭教育に至るまでを扱っている。すなわち、共生社会を支えるパートナーシップ理念の下で、生活と教育のつながりに焦点を当てている。
現代社会が抱える教育問題と環境問題のルーツは密接につながっている。共生社会の実現には、すべての人々が教育問題と環境問題を「一つの構造」として、また「生命の連鎖」とみなすホリスティックな認識が求められている。そこで、本書は「全体的視野」や「考える力」を培う読書課題用として文献・図表等の資料を積極的に導入した。
エコロジーの思想はいろいろな学問の中に存在するが、共通する原理は「共生」である。夫々の多様なかかわりの中に歓びや幸せが存在する共生社会、その実現のためには「分かち合う責任」は前提である。すなわち私たち市民は、人間存在に不可欠な生活倫理にかかわるテーマを常に抱えており、新しい時代に求められる人間らしい社会行動の基準となる生活倫理の一つとしてヒューマンエコロジーが考えられるのである。教育の意図する健全な人間性の発達にとって、リチャーズのヒューマンエコロジー思想が現代社会に与える影響は大きい、と考える。
以上のような考えを抱く筆者四人は、リチャーズのヒューマンエコロジー思想を共有する研究仲間である。いずれの章も、「ヒューマンエコロジーの精神」との文脈で、生活と多様な教育のかかわり、すなわち環境調和的存在としての個の育成の観点が貫かれている。
本書が「ヒューマンエコロジー」の正しい理解と健全な生活教育の実践に少しでも役立てば幸いである。また、家政・生活環境系分野のみならず「人間生活」を扱う教科教育学関連分野の大学生や現場の先生方にも活用していただけたら、と筆者一同願っている。
筆者一同
第Ⅰ章では、身近な生活環境(人間と環境との相互関係性やヒューマンエコシステム)を研究対象とするホームエコノミクス(家政学)の本質論を展開します。
今日ではどんな分野であれ、社会的環境(人間生活)とのかかわりで研究する学問を広くヒューマンエコロジーと読んでいます。生成の過程で“隠れエコロジー”として誕生した近代家政学もその一つです。Richardsが希求したヒューマンエコロジーとは、人類の健康生活のために知識を強調的につなぐ倫理的な応用科学でした。
第Ⅱ章では、およそ1世紀前“社会的エコロジー”あるいは“精神的エコロジー”とも呼べるヒューマンエコロジーを創唱したRichardsの人と思想を、その生涯における活動と著作を中心に見て行きます。
公衆衛生思想の下にエコロジーと食物科学(栄養学)を発展させたRichardsは、環境の汚染源は「人間」と考え、その問題解決を公共の生活福祉に係わる環境科学と生活文化に係わる教育に託しました。
第Ⅲ章では、Richardsのヒューマンエコロジー思想を今日の教育としていかに具体化するかについて考えます。その理論的枠組の一つとして提案するSTS家庭科は、つながりの下でいかに生きるかを問う市民教育として、子どもたちの「生きる力」と豊かな人間性の育成に積極的にかかわるものです。
第Ⅳ章では、Richardsのヒューマンエコロジーしそうに触発されながら、自然環境と社会環境を関連付けることの必要性を念頭におき、家庭科教育あるいは生活教育における環境教育の在り方を考えていくことを目的としました。その際、まず環境教育の国際的な流れを資料やグラフで確認し、次に自然環境の問題を社会的な環境と積極的に結びつけながら環境教育を進めているドイツの環境教育を実践例の一つとして紹介しました。
第Ⅴ章では、人間教育のうち、中でも基本的な家庭生活における幼児期の教育的かかわりについて考えました。家庭の教育力の低下が言われ始めて久しいですが、人間教育のスタートである幼児期における家庭教育は、ひとりの人間が育っていく一過程、という全体的な視野から考慮されなければなりません。家庭教育の普遍的価値をRichardsのヒューマンエコロジー思想というホリスティックな教育観に還元し、子どもを育てる場としての家庭生活について概観します。
第Ⅰ章 思想としてのヒューマンエコロジー Ⅰ-1 ヒューマンエコロジーと“共生”観 Ⅰ-2 「新しい科学」の誕生 -リチャーズのエコロジーの命名- Ⅰ-3 現代社会と科学
Ⅰ-4 ホームエコノミクスの全体的視野と理論モデル
Ⅰ-5 ホームエコノミクスとシステムアプローチ
Ⅰ-6 共生時代における家政学の社会的貢献 -生活と教育-
第Ⅱ章 リチャーズ・アンソロジー Ⅱ-1 エレン・スワロー・リチャーズの生涯-ユーセニクスへの道- Ⅱ-2 リチャーズ・アンソロジー
第Ⅲ章 共生社会における市民教育 Ⅲ-1 ホリスティック教育思想 Ⅲ-2 ホリスティック教育としてのSTS Ⅲ-3 「生きる力」と総合学習 -STS家庭科-
Ⅲ-4 STS家庭科プログラム(HE-Com)の展開 Ⅲ-5 資源循環型社会と生態学的消費者教育
Ⅲ-6 生態学的消費者教育の教材研究
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Ⅲ-7 HE-Com学習展開例
第Ⅳ章 ヒューマンエコロジー思想と環境教育 Ⅳ-1 ヒューマンエコロジー思想と環境教育 Ⅳ-2 環境教育の国際的な流れ
Ⅳ-3 ドイツの環境教育 -環境教育の実践例として-
第Ⅴ章 幼児期における環境教育 Ⅴ-1 現代社会における家族
Ⅴ-2 『コスト・オブ・リビング』にみるRichardsの家庭生活観
Ⅴ-3 Frobelの『人間と教育』にみる幼児教育観
Ⅴ-4 幼児期における環境教育
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著者 | 住田和子、西野祥子、丸橋静香、香川晴美 |
判型 | B5 |
ページ数 | 224 |
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