第5回 ドリル活動

1. はじめに

 新学習指導要領ではさらなる基礎・基本の徹底をうたっている。これまでのコミュニケーション重視の流れの中で,ともすれば慣れる前に発話させようと無理をしてきた部分があったことは否めない。いくら中学生とはいっても,新しい言語体系を身につけることは英語耳や口周りの筋肉のトレーニングから始まる,とてつもなく時間がかかるものだ。本来,時間をかけてやるべき部分をはしょってきたから,定着しない生徒が出たわけである。言語とはもともと時間さえかければ誰にでも修得できるものなのだ。その事実をあらためて肝に銘じて,トレーニングの大切さを再評価したい。

2. 基本文の提示

 新出事項(文型・文法)を導入するのに使われるのが,いわゆる「基本文」である。しかしこれまでは,この基本文が単体として提示されることが多くはなかったか。いかなる文でも,それが使われる場面や文脈を伴って初めて意味を生じる。また学習者の頭にも,場面と結びついた基本文のほうが残りやすい。生徒がさらっと読んで場面が容易に想像できるような対話(1~2往復程度)の中で基本文を導入したい。

 またこれまでの導入でいちばん欠けていたのが,新出事項(文型・文法)を含んだ文を数多く提示することである。例えば受動態ではそれがどのように使われているのか,さまざまな例を示す必要がある。 私の授業では, 受動態を多く含む文章を提示して, by ~のある場合とない場合のどちらが多いかを生徒に体験させている。こうして教科書の基本文以外に数多くの実例を見せる(聞かせる)ことによって,受動態の定着は従来の指導に比べて飛躍的に増した。

3. しつこいくり返し

 また,スパイラルな指導という観点から,基本文の導入は既習表現とあわせて行う。例えば未来表現のwillの疑問文を導入するときに,時間はかかっても現在形の復習から入る。こうすることによって,1年生で学習した基本中の基本項目は何度も何度も生徒に提示され,一人も落ちこぼすことがなくなる。

● 必ずいつでも1年生のLesson 3-1からスタートする文法指導

必ずいつでも1年生のLesson 3-1からスタートする文法指導

北原延晃『英語授業の幹をつくる本 下巻』 (p. 26, ベネッセコーポレーション,2010)
英文はNew Crown 2(三省堂)を参照して作成。

bigben 教師は黒板にYou      to the U.K. every year.と書く。生徒は空欄に適語を入れ,書き終わったら立つ。わからない生徒には,教師がWould you like a hint?とたずねる。Yes, please!と答えが返ってきたら,「1年L.3-1」のようにどこで習ったものか,教科書のレッスン名を黒板に書く。生徒は教科書のそのページをヒントに答えを書く。それでもわからない生徒がいたら,教師はWould you like another hint?とたずね,ジェスチャーで示す。あるいはgoの最初の文字( g )だけを書いてやる。

 生徒が全員立ったら,教師はいちばん遅く立った生徒に答えを言わせる。指名された生徒の言う文が内容,発音とも正しかったら,全員がくり返す。教師は答えを板書する。以下同様に進める。

4. 教科書の登場人物を使った口頭ドリル

 次にあげるのは,Sunshine English Course 1 (平成18年初版発行)の教科書に登場する主人公由紀とその行動をまとめたものの一部である。生徒に配付し,生徒はそれを見て登場人物がしたことなどを思い出しながらスピーキング活動を行う。また生徒は,自学として家庭でライティングノートにどんどん書く。ピクチャーカードを使ってオーラルイントロダクションをするたびに,What's Yuki's family name? Where is she from? Where does she live? などと質問していけば,英検3級の二次試験にも対応できる。

ページ カテゴリー 内容 話す(書く)内容
0 姓名 佐山由紀 Yuki's family name is Sayama.
0 国籍 日本 She's from Japan. / She comes from Japan. / She's Japanese.
0 居住地 日本 She lives in Japan.
0 立場 中学生 She's a junior high school student.
12 行動 Mikeとパーティーに行く She goes to a party with Mike.
14 行動 パーティーでAndyに出会う She meets Andy at the party.

 2年生になったら,She went to a party with Mike. She met Andy at the party. と過去形を使って言わせることができる。生徒によっては,She will love Andy.などと未来表現を使う生徒もいるかもしれない。こうなると生徒の発想の豊かさを引き出す授業ができて楽しい。

5. ドリルとしてのペアワーク

 定番のペアワークも活動量を多くしたい。例えば次のようなペアワークの場合,どのようにしたら生徒の活動量を増やすことができるだろう。

● いっしょに弁当食べる人集まれゲーム

 立ち上がっていろいろな人に質問をして,同じ場所で弁当を食べる人を全員そろえよう。同じ場所で弁当を食べる人は一緒に行動すること。3分間で全員そろったチームが勝ち!

(例) A: Hi! Where do you eat lunch?
  B: I eat lunch in the classroom.
矢印
自分と同じ場所だったら・・・ 自分と違う場所だったら・・・
A: Me too! Let's go to the classroom!
B: Yes, let's.
→以後一緒に行動する。
A: I eat lunch in the cafeteria. Goodbye.
B: Goodbye.
→別れて他の人にあたる。

in the classroom / in the cafeteria / in the music room / in the gym / in the library

 次のような工夫はいかがだろうか。

北原延晃 (きたはらのぶあき)
北原延晃東京都の公立中学校で英語教員として長年教鞭をとる。現在,東京都港区立赤坂中学校教諭。「生徒に楽しく学習させたい。ムダな勉強はさせたくない。教師も楽しく教えたい。教師は教えすぎず,生徒が自分で調べたり,友だちと考えたりする時間を作りたい。赤ちゃんがことばを覚える過程を大事にしたい」がモットー。
主な著書
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』(開隆堂),『英語授業の「幹」をつくる本(上・下巻)』,NHKDVD『わくわく授業-わたしの教え方』(以上ベネッセコーポレーション)など。