第14回 「わかる授業」から「できた!と実感できる授業」への転換を―リーディングとライティングの指導を中心に―

1. 実際に「活用」できれば,さらに学習意欲が高まる

 この連載では,新しい学習指導要領で述べられている4技能の総合的な育成と統合的な活用をどう図るか,また新しいSunshine English Course(以下Sunshine)がそれにどう対応しているかということについて,実際の紙面をご覧いただきながらご紹介してきました。「統合」については,もうおわかりいただけたかと思いますが,「活用」についてもお話をしておきます。
 よく似た言葉に「応用」がありますが,「応用」とは「得た知識を他にも同じように当てはめてみる,状況に応じて変化させる」という意味です。応用問題は,基本的なことを習得したあとで行う問題です。
 一方,「活用」とは「学んだことが十分に発揮できるように使う,実際に役立てる」という意味です。ですから,活用では「何のために」という目的が必要になります。目的が生まれやすい活動としては,問題解決学習,自己表現学習(自己選択・自己決定の場面がある活動)などが望ましいということになります。
 「活用」は,機械的学習(くり返し練習,パタン・プラクティスなど)ではなく,有意味学習(生徒が必要感や問題意識をもつ学習)です。実際,自分が活用できていることが実感できると,「もっとできるようになりたい」と望むようになります。テストや宿題といった外発的動機づけで展開する授業から,「もっと知りたい」「もっとやってみたい」といった生徒の内発的動機づけを促す授業に転換するために,私たち指導者がもっと「活用」について理解を深め,互いに実践を紹介することが大切になります。

2. 効果的なReading指導で「理解の能力」を高める

 第11回で,今回のSunshineではMy Projectが3年間を通して「扇の要」のように学期ごとのPROGRAMを取りまとめていると述べました。また第10回でも述べられているように,Sunshineは「自学の参考書になる教科書」になっています。ゴールが具体的に示され,手順がきめ細かく用意されているため,学習者は到達目標への道筋がイメージしやすくなっています。ですから,具体的な到達目標(ジグソーパズルの仕上がった絵)であるMy Projectから逆算した授業(backward design)を進めると,見通しが生まれるようになります。見通しはやる気につながります。さらに,指導者が生徒にMy Projectを事前に見せておき,そこに至るには「何」を「どこ」までできることが必要かを生徒に示すようにすると,より効果があがります。
 このような指導で不可欠なのが,教師の一貫した指導です。たとえば,英語の特性を考えたとき,指導すべきことの優先順位として,英語では結論が先にくること,動詞(main verb)が文の構造を決定してしまうこと,情報があとに付け足されていくことなどです。そのためには,直読直解(即読即解)の指導が必要になります。
 音読は「直読直解」の習熟にとても有効な学習方法です。英語は表音文字ですから,何か国語もマスターした歴史学者のシュリーマンがそうであったように,教科書が擦り切れるほど何度も音読をすることが大切です。ALTやネイティブの方に「この英文は正しいですか」とたずねると,だいたいの方が即座にぶつぶつとその英文を音読されます。そして,「こうは言わないなあ。むしろ,こう言うよ」というようなことを言われます。実際に声に出して確認される様子を見て,やはり音読が基本なのだと痛感します。
 ただ,授業で音読練習を拝見すると,どうも一過性で終わっていることが多いようです。つまり,音読練習で時間をかけるのは常に「今日のページ」になっており,既習単元の音読練習のための時間が用意されていないようです。内容を「理解」しないまま,どれだけ音読練習をしたとしても,intake(真に使える英語の摂取)は起こりません。むしろ大切なのは,すでに内容を熟知している既習単元をくり返し音読練習させることです。または,早めに意味を把握させたうえで,十分に音読練習の時間を取ってあげることです。
 読む活動は,すべての学習のベースとなりますから,中学校時代にその基礎を徹底する必要があります。従来から「読み物教材」には定評のあったSunshineですが,新版では授業の中でさらに「読み」に習熟できるように,新しく4つのことに取り組みました。
 順にご紹介していきます。

(1) 入門期で,対話文以外に,まとまった文章を読む機会をつくる

 対話文の多い1年生では,まとまった文章を読む機会を増やすために,本課とは別にPOWER-UP Readingが2か所入っています。POWER-UP Reading 1「英語の掲示・標識など」とPOWER-UP Reading 2「想像しながら読んでみよう」です。読みの活動では,内容理解,要約,音読などが主な指導になりますが,ここでは辞書指導や文脈を読みとって自分の考えを述べるという活動も用意されています(図1)。

図1 POWER-UP Reading 2「想像しながら読んでみよう」(1年p.99)

図1 POWER-UP Reading 2「想像しながら読んでみよう」(1年p.99より)

(2) 読解に特化した,新事項のないPROGRAMを本課に位置づける

 2年生,3年生では,本課に3つのReading 教材が組み込まれています。基本文(新しい文法事項)がなく,読みとり(理解)に特化されていますから,集中して読ませることができます。たとえば2年生では,PROGRAM 4 The Pillow(枕に関する笑い話),PROGRAM 8 A Shelter for Pet Animals(阪神淡路大震災でホームレスとなったペットについての話),現行版で好評だったPROGRAM 12 Her Dream Came True.が読み物教材として用意されています。また,3年生では,PROGRAM 4 Faithful Elephants(戦時中に上野動物園で起こった悲しい実話に基づいた物語),PROGRAM 9でMother Teresa,PROGRAM 10ではO. Henryの名作"After Twenty Years"を取り上げています。いずれも,心に響く読みごたえのある内容であり,生徒の読解力を高めるのにふさわしい教材になっています。
 読みとりをサポートする活動としてAfter Readingがあり,WritingやSpeakingにつながるさまざまな発問が用意されています(図2)。また,PROGRAMの冒頭にある日本語のリード文や問いかけ,音声で用意されている「マイクや由紀たちのおしゃべり」もBefore Readingとして使うことができます。

図2-1 PROGRAM 4のAfter Reading(2年p.45) 図2-2 PROGRAM 8のAfter Reading(2年p.83)
図2-1 PROGRAM 4(2年p.45より) 図2-2 PROGRAM 8(2年p.83より)
図2-3 PROGRAM 9のAfter Reading(3年p.99) 図2-4 PROGRAM 10のAfter Reading(3年p.110)
図2-3 PROGRAM 9(3年p.99より) 図2-4 PROGRAM 10(3年p.110より)

 発問は授業の生命線です。よい発問は英語好きな生徒を育てます。Sunshineでは,3年間で扱う英語の歌でも内容を深める発問(考えさせる活動)が用意されています。
 ★辞書を引いて,YesとNoのように対になる単語を見つけましょう。

Hello, Goodbye / the Beatles(1年p.147)より   

 ★各月のことを言い表している単語に下線を引きましょう。

I Just Called to Say I Love You / Stevie Wonder(2年p.139)より   

★主人公の気持ちを表している部分に下線を引き,どんな気持ちかを考えてみましょう。

Tie a Yellow Ribbon Round the Ole Oak Tree / Dawn(3年p.129)より   

(3) 習熟を図るためのReading教材

①本課とリンクしたReview Reading

 「学習負担」を増やさず,習熟を図るために「学習量」を増やすことを目的として,Review Readingを用意しました。特に,本課の内容やテーマに関連した話題を取り上げているのが特徴です。すでに習った内容を深める読み物ですから,生徒の心理的な負担が少なくなり,「理解の能力」だけに特化した指導をすることが可能です。もちろん,習熟度別学習などで活用することも可能です。
 たとえば,1年生のReview Reading 3 From PET Bottles to Spaceshipsは,PROGRAM 8のOrigamiで学んだ「折り紙」の技法が宇宙工学で利用されているという内容の読み物になっており,驚きと関心をもって読むことができます。また,読みとりを深める設問として「質問の答えに当たる部分を見つけて,本文に下線を引く」という作業型の学習が用意されており,どんな生徒でも気楽に取り組めるようになっています。
 2年生のPROGRAM 6 A Work Experience Programは,Review Reading 3のTake Action!で職場体験後に実際に生徒が書いた作文につながっています。また,PROGRAM 11 Yui - To Share Is to Liveで学んだ白川郷の合掌造りでは,本課で使われているreplace the straw roofという表現がReview Reading 4 Helping Each Otherではreroofingという別の言い方になっています。2つの読み物を比べて違う表現を探させることができます。
  3年生のReview Reading 1 The Origin of World Heritage Sitesでは,PROGRAM 2のVolcanoes in Japanで扱った日本の世界遺産の話題につなげ,1954年に起きたエジプトの古代遺跡を守るアクションを紹介し,世界遺産の起源に迫ります。またReview Reading 2 Japanese Anime Goes Abroadでは,PROGRAM 5のSushi-Go-Around in the Worldで取り上げた和食ブーム(回転寿司)とPROGRAM 6のLet’s Talk about Things Japanese.で扱った日本の伝統芸能・文化から,今,世界中でブレークしている日本のアニメにつなげています。
 生徒は本課を学んだあと,復習(まとめ)の活動としてReview Readingに取り組みますが,教師は事前にReview Readingを読んでおくことが望ましいと考えます。なぜなら,本課(導入)とReview Reading(まとめ)をどうつなげるかという全体構想ができていると,学習の定着がさらに進むからです。
 My Projectが課を超えてタスクを束ねているとしたら,このReview Readingは本課のReading教材を束ねる活動になっていると言えます。

②学年の総まとめExtensive Reading

 1年生では,Extensive Readingとして新しくGrandma Baba and Her Friends on a Sleighを,2年生では従来から人気の高かったMaria Talks about Her Life.を,3年生ではThe Wisest Man in the WorldとThe Hatを入れました。それぞれ,学年末に対応したまとめの読み物になっていますが,進度や時期を考慮して柔軟に使うことができます。特に3年生のExtensive Readingは,高校入試の長文読解に対応する直読直解用の教材です。総語数(420語,650語程度)を示してありますから,時間を設定して読みとらせることができます(図3)。

図3 Extensive Reading 2(3年pp.118-119)

図3 Extensive Reading 2(3年pp.118-119より)

(4) 応用・発展のReading教材 ― Challenge

 さらに応用・発展用のReading教材として,2, 3年生ではそれぞれ2か所にChallengeが用意されています。内容は日本の伝統文化,自然科学に関するもので,本課や他のReading教材とは一味違った教科横断的な内容になっています(図4)。

図4-1 Challenge 1「英語で理科」(2年p.72) 図4-2 Challenge 1「英語で料理」(3年pp.32-33)
図4-1 Challenge 1「英語で理科」(2年p.72より) 図4-2 Challenge 1「英語で料理」(3年pp.32-33)

 このように,生徒たちの興味を喚起する内容がふんだんに盛り込まれているのが新しいSunshineの特長です。

3.効果的なWriting指導で「表現の能力」を高めるために
- POWER-UP WritingからMy Projectへのリンク -

 今回,新しい教科書の内容を考える前に,現場の先生方へのモニタリングや著者の先生方のアクション・リサーチを通して,「なぜ,生徒たちはまとまった英文,つながりのある英文を書くことが苦手なのか」という原因を掘り下げてみました。その結果,一貫した「語順」の指導や「習熟の活動」が少ないということ,マッピングの指導が行われていないこと(まとまりのある英文を書くには,マインド・マッピング等を使って自分で情報の順序を整理することが不可欠)などが見えてきました。
 そこで,新版ではPOWER-UP Writingという活動を用意し,構造や手順などをすべて3年間で統一し,どの生徒も「まとまり」や「つながり」がある英文が書けるように配慮しました。つまり,3年間を通して「モデル文の分析・理解」から「型の模倣・習得」ができるようにしたこと,POWER-UP Writingの一部の内容をMy Projectにもつながるようにしたことがその特長です。
 たとえば,語順やまとまった英文の書き方については,1年生のPOWER-UP Writing 2「日記①」で,情報の整理の仕方,文のつなげ方をていねいに指導しています(図5)。

図5 POWER-UP Writing 2「日記①」(1年pp.124-125)

図5 POWER-UP Writing 2「日記①」(1年pp.124-125)

 さらに,それは次の2年生のPOWER-UP Writing 1「日記②」へとつながっていきます(図6)。

図6 POWER-UP Writing 1「日記②」(2年pp.14-15)

図6 POWER-UP Writing 1「日記②」(2年pp.14-15)

 2年生のPOWER-UP Writing 2「ホストファミリーへのメール」では「日記②」で学んだ「構成」について学んだ「型」をさらに応用させます(図7)。

図7 POWER-UP Writing 2「ホストファミリーへのメール」(2年p.63)

図7 POWER-UP Writing 2「ホストファミリーへのメール」(2年p.63より)

 これらは,My Project 5「将来の夢を語ろう」にもつながります(図8)。

図8 My Project 5「将来の夢を語ろう」(2年p.76)

図8 My Project 5「将来の夢を語ろう」(2年p.76より)

 さらに,このメールの書き方は3年生のPOWER-UP Writing 1「ウェブストアへのメール」にもつながっています(図9)。

図9 POWER-UP Writing 1「ウェブストアへのメール」(3年p.51)

図9 POWER-UP Writing 1「ウェブストアへのメール」(3年p.51より)

 2年生のMy Project 6「賛成意見や反対意見を言おう」は,ディベート的な内容になっています。指導のポイントは,事前にていねいに下地づくりをしておくことです。そこで,POWER-UP Writing 3の「自分の考えをまとめる」では次のような順序で自分の考えがまとめられるようになっています(図10)。

図10-1 POWER-UP Writing 3「自分の考えをまとめる」(2年p.100)

図10-1 POWER-UP Writing 3「自分の考えをまとめる」(2年p.100より)

図10-2 My Project 6「賛成意見や反対意見を言おう」(2年p.113)

図10-2 My Project 6「賛成意見や反対意見を言おう」(2年p.113より)

4.英語学習で必要なのは「学習の意味づけ」と「量の確保」

 最後に,新版Sunshineが目指した「学習の意味づけ」と「量の確保」について述べておきたいと思います。
 「学習の意味づけ」には,大きく分けて2つあると考えられます。1つ目は,目的と目標を理解させることです。たとえば,公立高校の入試問題(英検3級,4級の問題)を最初の段階で見せておき,日々の授業とどうリンクしているかを具体的に説明し,自らの学習計画を立てさせます。また,まとめで行う活動は,最初にその内容を伝えておきます。スピーチやエッセイに挑戦する場合は,先輩のスピーチ映像や作品を見せてイメージをもたせてから学習に入ります。
 2つ目は,「理解」を確かめるということです。たとえば,授業中に「ああ,そうか」と納得できる場面を作ることです。リスニングの指導であれば,何度も聞かせるよりも,リスニングのあとでスクリプトを配付し,実際に音読して正しい音を認識したうえで,もう一度聞いて確認させることです。
 また,板書を写しながら,同時に「理解」はできません。教師がいくら熱心に語ってみたところで,生徒に出力(自分の言葉で書かせる,説明させるということを)させないかぎり,実際のところ「理解」しているかどうかはわかりません。つまり,生徒の「納得」の声がないまま進める学習では,「意味づけ」は起こらないということになります。
 続いて「量の確保」ですが,最初から最小限のものを選んでそれを覚えさせる,3年生になってから量を増やすという指導では効果が上がりません。入力(listening やreading)が十分でないと,出力(writingやspeaking)にはつながらないからです。入力は「量」が鍵になります。つまり,たくさん読むこと(多読,音読),たくさん聞く(多聴,英語圏だけでなくアジアやアフリカの人の英語なども聞く)ことです。
 また,最近の公立高校入試問題の英作文は,語数の指示(たとえば35語から40語でまとまった内容の英文を書く)があります。しかし,3年生の2学期から量への対策をしていてももう間に合いません。むしろ,1年生の定期テストから見通しをもって30語から40語程度のつながりのある英作文を課していくことが大切です。実際,それは可能です。生徒は,教師が考える以上の伸びしろをもっています。
 弁証法に「量質転化の法則」ということばがありますが,これは一定の量を超えると急に質がよくなるという意味です。このbreakthroughが起こるのに必要な時間と量は人によって違いますが,教師は自分の説明に時間をかけ過ぎず,あくまでもその時間中の「生徒の英語使用量」を増やす努力をしたいものです。
 授業は,教師と生徒が協同で創り上げるArtです。Artには見通しとデザイン力が必要です。前時の活動が本時に自然につながり,本時の活動が次時につながっていく授業。教師と生徒の心がつながり,生徒たちの考えや意見や願いがつながっていく授業。そんなつながりのある授業をどう仕組み,どう演出すればいいかを考える醍醐味をこの新版Sunshineで体験なさってみませんか。

中嶋洋一 (なかしまよういち)
中嶋洋一埼玉県の公立中学校,富山県の公立小・中学校で長年教鞭をとる。 その後,富山県教委の指導主事,公立中学校の教頭を経て,現在は, 関西外国語大学教授。中学校の指導では,英語ディベートと卒業文集づくりで,論理性と感受性の育成のバランスを心がけた。大学では,「七転び八起きできる教師」になれるよう,学生に「教師魂」を注入しているところである。
主な著書
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』『わかる!英語わくわくワークブック』(開隆堂),『英語好きにする授業マネジメント30の技』(明治図書),『だから英語は教育なんだ』(研究社),NHKDVD『わくわく授業-わたしの教え方』(ベネッセコーポレーション),NHKDVD『えいごルーキーGABBY』(日本コロムビア)など。