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インタラクションの条件と進め方

胡子美由紀(広島県広島市立古田中学校教諭)

 新学習指導要領では,小中高の全教科で「言語活動」の充実を図ることが求められています。そこでは,「生徒の学び方」が重視され「主体的・対話的で深い学び」が視点として取り上げられています。特に,英語で「対話的な学び」を具現化するのに必要不可欠なのはinteractionです。今回の改訂では,言語活動として,英語科では4技能5領域を意識し技能どうしを統合(リンク)させること,特にスピーキングでは,speechinteractionとに分けて捉え,しかも「暗唱ではなく即興で」という目標設定がなされています。

interactionの重要性

 新学習指導要領のねらいは,単に話すだけにとどまらず,自分のまわりの社会や世界と関わり,真のコミュニケーションを図る中で英語力を育むことです。それには,生徒自身が考えを発信しながら他者の考えから自分の考えを再構築する場や,インプット・アウトプット・フィードバックのスパイラルを授業の中でつくることが必要です。その理由は,interactionの中で他者との違いに気づき,自分と異なる見方・考え方があることを理解できるからに他なりません。スキルの習得だけでなく良好な対人関係の構築にも英語授業が貢献します。外国語学習は,interactionなくしては成立しません。実際に英語を使う機会があって初めて,生徒の心も身体も思考もアクティブになります

 関わりを重視したやり取り,すなわちface to faceのinteractionは教室だからこそできることです。協働的な学びの中で,生徒どうしで英語を使う場面が増え,その場で判断して表現する即興性の高い言語活動になります。通常のクラスサイズは1クラス約40人です。旧態依然とした知識伝達型の授業スタイルでは,教師から生徒へのone wayになってしまいます。learner-centered & learning centeredで,生徒どうしが関わり合うface to faceの利点を生かす授業になれば,英語があふれる教室になることは間違いありません。

interactionの条件

 では,interactionの豊かな授業を実現するにはどのように取り組めばよいのでしょうか。その前提条件と進め方を,筆者の実践に基づいてご紹介します。
 生徒が英語を使用する機会を増やすには,interaction,すなわち「やり取り」を軸にした言語活動を増やすことが重要です。そうすると生徒は,生きたコミュニケーションの手段として英語を学び始めます。「やり取り」の主軸は,目的と相手を意識したメッセージの発信や受信を英語で行うことです。そして,スムーズな「やり取り」には,生徒の言語バリアと心理バリアを取り除くことが肝心です。筆者が考えるinteractionの条件は次の5点です。

(1)安心して活動できる環境の醸成(ルールづくり)
 生徒にとって,英語に触れること自体が異文化体験です。まずは生徒が安心して自分を出せる環境づくりが必要です。筆者は,生徒が主体的に活動できるベースとして,英語授業におけるモットーとクラスルールの徹底を意識しています。これにより,目指す姿と教師の願いを浸透させ,よい集団の土壌をつくることができます。ルールは生徒を縛るものではなく,心をしなやかにし,誰とでも明るく豊かなコミュニケーションを取ることができるようになるためのものです。

(2)ラポールの構築
 教師と生徒,そして生徒どうしの信頼関係(ラポール)の構築です。お互いをrespectするwin-winの関係づくりが大切です。英語は人とのつながりやコミュニケーションの取り方を学ぶことができる教科でもあります。筆者は,生徒にマメに話しかけ,具体的に褒めることや“Give and Give”の精神で,自分が率先して動くことを心がけています。間違えることに寛容な温かい人間関係を構築する学習集団づくりが,「やり取り」を中軸に据えた授業には不可欠です。

(3)即興性と流暢性の重視
 本WEBマガジン第3回でも紹介されていますが,相手とのやり取りの中では,その場で臨機応変に対応できる力(即興性)相手に分かりやすく伝える力(流暢性)が重要です。場面や状況に応じて適切に対応できる力を培うことで,真のコミュニケーション力を育成することができます。こうした言語活動を可能にするには,教師・生徒間でのinteraction modelの提示自分ごととして捉えられるトピック,そしてrecastする力が必要です。授業自体が自然なコミュニケーションになり,interactionを通して,情報を伝え合う意味のあるやり取りが展開されます。

(4)協働的な学びの推進
 ペア・グループを活用した即興のinteractionを中心とした言語活動は,生徒の発話力を向上させ,その場で考える場面が増えることで思考力・判断力の獲得にも効果を発揮します。協働的な学びには,仲間との協力を要する課題設定(発問)が必要です。自然な関わり合いがinteractionする場をつくり出します。仲間がメンターとなり,信頼関係を築きながら,英語への気づきだけでなく人としての成長を促す学びとなります。

(5)振り返りの充実
 振り返りは仲間と関わりながら自律的に学び続けるために必要です。特に,即興性を重視するinteractionにおいては,既習知識や情報から引き出せなかった部分を新しい知識・情報と結びつけたり整理したりする働きをします。即興のinteractionでは「言いたいことが言えない」葛藤が生まれます。この葛藤を持たせるのが即興性の醍醐味です。「知り(言い)たい」という意欲が引き出されて初めてことばに命が吹き込まれます。

interactionを中心にした言語活動を帯活動で積み重ねる

 特に,次の5つの力をつけることを目指しinteraction中心の言語活動を仕掛けています。

相手の言ったことや自分の知りたいことについて,的確に尋ねることができる質問力
ある程度まとまった内容を伝えられる発信力
絵や写真などを自分のことば(英語)で説明できる描写力
Discourse Markerを意識し,即興でやり取りをつないでいける即興力
情報・意見・理由などのギャップに対して,相手を「納得」させられる展開力

 これらの力をつけるには,バックワードデザインの視点に立ち長期的な視野で取り組む必要があります。授業中のreactionrecastなどで自然に英語を使用する場面をつくり,毎時間の帯活動でinteractionの豊富な言語活動を仕組むことによって,英語を話すことに慣れさせていきます。ベイビー・ステップでくり返すことが生徒の自信となり,上記5つの力をつけることにつながります。

 さらに,言いたいことをサッとことばにしてスムーズなinteractionを実現させる瞬発力をつけるために,筆者が生徒たちに伝えていることが5つあります。

よそ行きの日本語で考える(日本語は省略の言語。語順を意識させます)
3歳児に話すつもりで考える(わかりやすくシンプルな語を使うようになります)
結論を最初に,説明は後にする(英語は大切なことを先出しする言語です)
事実と感想で話を組み立てる(言えることを増やします)
意見には理由3つと具体的な根拠などを示す(プラス・マイナス両面から捉えます)

 生徒は,話をさせるととめどなく話し続けます。「中学生にはできるわけない」と生徒の力に限界をつくっているのは,案外教師の側なのかもしれません。
 では,筆者が毎時間行う帯活動の一部をご紹介しましょう。

(1)生徒のActive Classroom Englishを増やす(授業をinteractiveに)
 授業の一部分の活動だけでinteractionの場面をつくるのではなく,授業自体をコミュニカティブにinteractionを行う場にしてしまいましょう。生徒との自然なinteractionの場面を増やすには,教師が英語で授業を進めることが不可欠です。この「英語で授業」が意味するのは,教師だけが英語で進めるone wayの授業ではありません。生徒にどんどん英語を使わせるために,英語で授業を行うのです。Teacher’s Talking Time < Student’s Talking Timeとなる授業が,目指す「英語で授業」の姿です。教師の英語に対し生徒が反応できるようになるには,生徒が授業全般で使用できるActive Classroom Englishを増やすことが必要です。主には相手が伝えた内容に相づちを打ったり,質問や感想を述べたりするreactionの表現がそれにあたります。


My Project 4(2年p.36より)
 SUNSHINE ENGLISH COURSEでは,各PROGRAMの対話部分やPOWER-UPシリーズで自然なinteractionを学べる構成になっています。また,My Project 3では,スムーズなinteractionに導くための知りたい情報の引き出し方,My Project 4では,interactionに必要な対話のつなぎ方のストラテジーを学び,スキットの作成を通して習熟させていきます。普段の地道な積み重ねが生徒の発話を増やします。

(2)Student Teacher
 授業冒頭で教師の代わりにその日の教師役の生徒(ST)が授業を進める活動です。生徒は,毎時間の仲間のパフォーマンスを楽しみにしています。STの生徒にとっては,緊張感を乗り越え,パフォーマンスをやり切ったときの達成感がとても大きいようです。

 まず,STはルーティンのgreetings(日づけや天気などの確認含む)を行い,speechをします。1年生の最初だけマッピングを行い,文の構成の仕方や語順について伝えますが,英文は書かずに完全なpreparedではない状態にします。原稿を書くと,それを頼りにして頭の中で英文を浮かべることをしなくなるからです。speechの最中,STは聞き手を巻き込むように途中で質問を入れたり賛同を促したりし,聞き手はreactionを返しながら聞きます。speech後は,既習語彙と表現を活用し,初めて聞くspeechの質問と感想をその場で考えます。聞き手は内容を知りませんし,STは聞き手が何を尋ねるかわからないので,瞬時に思考・判断し応答する即興性の高いinteractionになります。話し手と聞き手のどちらにも,臨機応変さとその場で考え発話することが求められます。

 しかし,中学生なのでことばに詰まることがあります。そこが即興interactionのねらいです。生徒自身の中に「言いたいけれど言えない」葛藤が生まれ,自分のことばで表現している仲間もいる中で,「もっと言えるようになりたい」と思うようになります。生徒がそうなって初めて,「言いたかったが言えなかった表現を確認する」ことに意味が芽生えます。活動直後に短時間でよいので,辞書を使い語彙や表現の確認をする時間を持つことで,生徒の意欲も表現力も飛躍的に伸びます。調べている時間は静かに集中して辞書と向かい合います。簡単な修正で済むものは,筆者がその場でrecastし,言いかえてつなぐこともあります。辞書引き時間は2分間,質問時間を1分から2分と設定しています。このやり方はTopic Speechでも応用可能です。
My Project 5(2年p.72より)

 くり返し,相づち,問いかけfillerなど,聞き手の参加を促し,対話を継続させるのに必要な表現やストラテジーを普段から使わせることが,interactiveなspeechを上手く機能させるポイントです。毎時間の活動でしつこく使うことが生徒の負荷を下げ,座布団積み上げ方式の授業から脱却し,使いながら習得させることに導くことができます。また,こうした伝える内容重視の活動と展開が,自分に必要な語彙・表現を獲得させ,習熟させることを可能にします。

(3)即興Chat
 日常のコミュニケーションの場面では,あらかじめマッピングなどの準備をしてから話し始めることはありません。私たちは頭に浮かんだことをそのままことばにしています。英語でも同様の過程をふませることで,生徒はスムーズに発話ができるようになります。まずは発話させてみること,そしてここでも,「言いたいけれど言えない」経験をさせることが大切です。即興Chatはそれを実現可能にする言語活動です。chatの継続には,前述したMy Project 3, 4にある対話を続けるストラテジーと,話ができる内容が必要です。さらに,「あなたは今〜にいます」や「新しく来るALTに伝えます」などの場面設定をしたり目的を持たせたりすると,即興で話す必然性が生まれます。生徒に馴染みがあるトピックは負荷が低く,とっかかりとしてはよいですが,活動が定着したら,教科書の題材関連のトピックや写真などに挑戦させましょう。本文に入る前の興味喚起やスキーマの活性化に効果的です。
 また,言えなかった表現を使わせるために,相手を替えて再チャレンジさせます。一度自分がアウトプットし,前のペアの内容も聞いているので,自信を持って発話できます。また,伝えることは自分の考えの再確認となり自己肯定感を高めることができます。教師は教室内をモニターし,生徒が努力したところを見取りながら次に生かせるものをフィードバックします。慣れてきたら,発話の再現,シェア,書き起こしなどをさせたり,発話の展開に必要な要素を考えさせたりするのもよいでしょう。

(4)Reporting Chat
 この活動では,伝える内容に変化を持たせます。4人グループで,横ペア・斜めペア・縦ペアと,生徒は3回相手を替えてやり取りをします。自分と相手だけでなく他者が絡むため,主語に応じて動詞も変化し,短い時間で頭をフル回転させなくてはなりません。横ペアでの活動は先ほどの即興Chatと同じ要領でやり取りします。斜めペアでは自分のペアが話した内容を伝えます。縦ペアでは,斜めペアからレポートされた内容を伝えた本人と話すので,伝えられた内容の確認を行うことになります(斜めペアでは主語が三人称,縦ペアでは二人称)。また,活動後に書く活動を加えると技能統合型の活動になり,accuracyも補完できます

(5)One Minute Monologue
 英語で伝えたいことがあるときに生徒が難しいと感じるのは次の3点です。

出力するのに時間がかかる
話せる内容がない
間違いを恐れて発話が止まってしまう

 そこで,この3つを克服するために,まず頭の中にあることについてミスを気にせず発話することを重視する活動として,One Minute Monologueを行います(筆者は1年生の初期は30秒,2年生・3年生では2分で設定して行います)。この活動でもfluencyを重視し,accuracyは書き起こしでカバーします。この活動の際には,発話語数を数えWPM(Words Per Minute)を数値化・可視化して記録に残しておくことが,生徒のモチベーションアップにつながっていきます。

 大事なのは毎時間くり返し行うことです。上の①,③は中学生であればすぐに克服してしまいます。先ほどReporting Chatでご紹介した縦横斜めペア方式や,1人ずつ相手が変わるフォークダンス方式で,相手を固定せずに多様な考えを聞かせる機会をつくることが「足場掛け」になります。さらに,教師がバックワードデザインで既習内容とinteractionに必要なストラテジーを活用し,考えさせたりアウトプットさせたりしたいことを仕組むと話せる内容も増えていきます。

 聞きっ放しにさせないために,聞き手にはリアクションしながら聞かせ,発話後に質問・コメント・レポートなどの時間をとります。意味のやり取りを伴ったコミュニケーションは,生徒の集中力と能動性を高めます。また,「発話した後に書き起こす」「聞いたことを書く」「聞いたことを他者に伝える」などの活動を挟むと,統合型の言語活動になりaccuracyを高めることもできます。トピックに関しては本WEBマガジン第3回をご参照ください。

 ご紹介した5つはどれも,活動自体にinteractionの必然性がある言語活動ばかりです。紙面の関係で割愛しますが,教科書の内容を活用したretellingやdiscussion,debateも帯活動として取り入れるのがおすすめです。

 日々の授業と帯活動で行うinteraction中心のアウトプットは,2年生・3年生で行うMy Projectに向かう土台になります。SUNSHINEのMy Projectは各PROGRAMと帯活動で身につけた力を総合的・統合的に活用する場です。My Projectの一つひとつの言語活動が,最終目的地のSpecial Projectへ向かう中継地点にある小刻みなゴール(到達目標)であり,生徒が仲間と協働して問題解決へ向かう道標になります。即興のinteractionを授業に取り入れれば,生徒の「もっと言えるようになりたい」「伝えたい」という気持ちを引き出すことができ,一つひとつのステップが,My Projectのさらなる活用につながります。

 相手のことを思って行われる英語授業での温かいinteractionが,生徒の学校生活の楽しみとなり,仲間とのよい関係を築く礎になることを願ってやみません。ワクワク感いっぱいの授業で,生徒たちの瞳をキラキラ輝かせましょう。

胡子 美由紀(えびす みゆき)

 広島市内の公立中学校,広島大学附属東雲中学校勤務を経て現在は広島市立古田中学校教諭。研究会をはじめ教員研修会の講師を務める。全国各地より授業参観者が訪れ授業公開を行う。
「限界をつくらない。言語は使いながら学び,学びながら使うもの。ことばの力が心を育てる。」がモットー。生徒の個性を引き出し,可能性を伸ばす英語の授業を展開中。生徒が仲間と共に学ぶ中で,手応え,分かる&使える喜び,成長を実感できるような授業づくりを大切にしている。

主な著書

『生徒を動かすマネジメント満載!英語授業ルール&活動アイデア35』,『生徒をアクティブラーナーにする!英語で行う英語授業のルール&活動』(以上,明治図書),『中学英語 生徒がどんどん話せるようになる!即興スピーキング活動』(学陽書房),『成長する英語教師をめざして』(共著・ひつじ書房),『「プロ教師」に学ぶ 真のアクティブ・ラーニング』(共著・開隆堂出版),DVDライブ版英語授業シリーズ 「広島市立早稲田中学校公開研究会 公開授業2」(ジャパンライム)ほか多数。