古くから木材にゆかりのある東京・新木場に、木材と合板に関する資料の収集や展示を行っている「木材・合板博物館」はあります。今年4月、同館の新館長に「森林総合研究所」の研究員でもある渋沢 龍也氏が就任しました。
今回は渋沢館長に、木材が持つ「地球に優しい秘密」と、そのポテンシャルをさらに引き出した「合板(ごうはん)」の技術について、お話を伺いました。
――木材は地球環境に優しいと言われますが、具体的にはどういうことなのでしょうか?
館長: 1990年代、「建築の工法でどれくらい環境に差が出るか」を計算した研究では、木造建築はコンクリートや鉄骨の建物に比べて、建築する際に出る二酸化炭素(CO2)の量が圧倒的に少ないことがわかっています。
木の素晴らしいところは、空気中のCO2を吸い込んで、自分の体の中に炭素として閉じ込めてくれる点にあります。乾燥させた木材の、なんと半分近くは炭素でできているんですよ。
つまり、私たちが街の中に木造の家を建てたり、木製の家具を置いたりすることは、「都市の中にミニ森林を作って、CO2を閉じ込めている」のと同じことなんです。木が山で育つのに50〜70年かかりますが、住宅や家具を50〜70年以上大切に使い、その間に山に新しい苗木を植えて育てるというサイクルを回していければ、地球のCO2は増えません。こんなことができる資源は、地球上で木材だけなんです。
――そんな優れた木材の力を、さらに高めたのが「合板(ごうはん)」だと伺いました。
館長: はい。自然の木は縦方向(繊維の向き)の力にはものすごく強いのですが、横からの力には弱いのです。さらに、乾燥すると水分が抜けて、反ったりねじれたりしやすいという性質もあります。
合板は、この弱点を補います。丸太を大根の桂剥きのように薄くスライスした板を作り、繊維の向きを縦・横に交互に変えて貼り合わせたんです。この工夫によって、どこから力がかかっても同じように強く、乾燥しても反りにくい、頑丈な板が生まれました。
さらに素晴らしいのが、資源を無駄にしないことです。丸太から四角い柱を切り出す一般的な方法だと、丸太の半分くらいしか使えません。でも、丸太をクルクル回して薄く剥ぎ取っていく合板なら、丸太の8〜9割を無駄なく使い切ることができます。また、この方法なら必要な大きさや厚さを持つ材料を比較的容易に作ることも可能です。
――合板は、私たちの暮らしのどんなところで役立っているのでしょうか?
館長: 住宅の壁の裏などに隠れていることが多いですが、実はとても目立つところでも活躍しています。たとえば、卓球のラケット、体操競技のジャンプ台(ロイター板)などが代表例ですね。しなやかな強さと、どこを触っても同じ品質が求められるスポーツの世界で、合板はなくてはならない存在です。
また、合板は日本の住まいの「耐震性」を上げるのにも、決定的な役割を果たしてきました。1995年の阪神・淡路大震災以降、住宅を強くする材料として合板が一気に広まりました。それまでは大工さんの職人技で斜めの柱(筋交い)を組む難しい工事が必要でしたが、合板を壁に打ち付けるだけで、誰でも簡単・確実に、強い壁を作れるようになったんです。日本の建物の安全性は、合板の登場で一気にレベルアップしました。
――館長は4月に就任されたばかりだということですが、今後博物館をどのようにしていきたいですか?
館長: この木材・合板博物館は、ただ展示を見るだけの場所ではありません。正しい知識を伝える場、最先端の技術を発信する場、そして子どもたちが木に触れて学ぶ「木育(もくいく)」の場という、3つの役割を大切にしています。私自身の研究で得られた知恵を、博物館を通して皆さんの手へ分かりやすく橋渡ししていきたいと思っています。
木材・合板博物館
木材や合板の性質を紹介、比較する展示や環境教育にも役立つ展示に加え、世界で当博物館だけというロータリーベニヤレースの実演(火・木13:30~)、木材を使ったワークショップなども開催されている。
アクセス/〒136-0082 東京都江東区新木場1-7-22 新木場タワー3F・4F(新木場駅下車 徒歩7分)
開館時間/10:00~16:30(最終入館時間16:00)
入館料/無料 ※小学生以下の入館には、保護者のつきそいが必要
休館日/土曜日、日曜日、祝日、夏季休暇、年末年始 ※都合により変更の場合あり
※最新情報は公式Webページよりご確認ください。
www.woodmuseum.jp