9月24日に、中央教育審議会の教育課程部会で、外国語ワーキンググループの第1回会議が開催されました。 会議では、小、中、高等学校に共通する課題として語彙が挙げられ、以下の実態から過度な負担が生じていると指摘されました。

  1. 学習指導要領の前回改訂で指導すべき語彙数が増え、中学校では小学校で扱った語彙の定着に加えて、増加した新出語彙を指導する必要がある。
  2. 教科書の新出語彙を全て覚える指導がなされるなど、メリハリのある語彙指導が行われていない。
  3. 中学校学習指導要領に社会的な話題が位置付けられたことに伴い、難易度の高い語彙が増えた。

 ここで改めて、中学校での語彙指導について考えてみましょう。

1. どんな単語がよく使われるのでしょう?

 語彙指導について焦点を当てる前に、クイズを出したいと思います。 日本語の中で、最も多く使われる単語は何だと思いますか? 一般的には助詞の「の」が最も多く使われると言われています。 では、英語の中で最も多く使われる単語は何でしょうか。英語では “the” だと言われており、このほかに高い頻度で使われる単語には、be動詞、前置詞のofやto、接続詞のandなどがあります。 その使用頻度は非常に高く、上位10語で全英語の20%を占めると言われています。上位50語で35%、100語で41%、そして2,000語で80%をカバーするそうです(Schmitt & Schmitt, 2020)。 ということは、現在の学習指導要領で示されている、小学校で習う600~700語程度と、それに加えて中学校で習う1,600~1,800語程度の単語をしっかり習得していれば、英語学習は順風満帆ですね。めでたしめでたし!
 と言いたいところですが、残念ながら、そううまくはいかないのが現状です。

2. こんな単語見たことない!

 上述のように2,000語で全英語の80%をカバーすると言っても、小、中学校で習う単語の全てがこの2,000語の中に含まれるとは限りません。 実は中学校の英語教科書には、一般的には使用される頻度があまり高くない単語も使われています。 これは、教科書会社が故意に頻度の低い単語を掲載しているというわけではなく、「このトピックならこの単語が出てくるのが自然である」ということがよくあるためです。 現在の学習指導要領では社会的な話題を扱うことが求められており、教科書には時に難しいトピックが出てきます。 そのため、扱うトピックによっては、使われる単語が難しいものになることがあるのです。例えば、Sunshine English Course 3 PROGRAM 6 Part 1をご覧ください。

Sunshine English Course 3 (p.83)
Sunshine English Course 3 (p.83)

この文章は海のごみベルトの話ですが、ごみベルト自体がgarbage patchという表現で表されるために新出単語にpatchが含まれています。 しかし、みなさんが最近patchという英単語に触れたのはいつでしょうか? 私はちょっと記憶にありません。 かゆみ止めのために貼る日本語での「パッチ」や、「パッチワーク」なら聞いた気がしますが。 しかし、ごみベルトというトピックの英文を教科書に掲載するにあたっては、patchというあまりなじみがない単語を使わざるを得ないでしょう。 このように、トピックに特有の単語というものがあるため、patchという単語を中学生に覚えさせたいわけでなくとも、文章の内容的にpatchが出てきてしまうのです。

3. 一部の単語をひいきしよう

 では、patchが新出単語として教科書に載っている場合に、どのように扱えばよいでしょうか。 新出単語のリストが本文の横に掲載されていると、生徒はこれを全部覚えて、定期試験や高校入試に向けて対策をしなければならない、と思うかもしれません。 先生の中にも、教科書に掲載されている単語だから覚えさせたほうがよいと考えて、全ての新出単語をフラッシュカードなどで何度も提示し、発音指導やスペリングの指導をし、全単語について単語テストを行う、というような指導をなさっている方がいらっしゃるかもしれません。 最近はコンプライアンスを重視することが社会でうたわれ、平等に接していないと誰かに何かを指摘されて大問題になるのではないか、と恐々とする部分があるかと思います。 ただし、単語については全てを平等に扱わなくても大丈夫です。むしろ、一部の単語をひいきして手厚く扱いましょう。
 なお、辞書を見てみると、単語によって記載されている語釈や用例の量が全く異なります。例えば、上の教科書紙面に出てきたpatchと、太字で掲載されているkillを見てみたところ、以下のようになりました。

Sunshine English Course 3 (p.83)

killのほうがpatchよりも明らかに多くの説明が記載されていることがわかります。 このように、辞書も全ての単語を平等に扱っているわけではなく、軽重をつけているのです。 辞書には単語の意味だけではなく、その単語を使ったコロケーションや熟語なども載っていますが、一般的には高い頻度で使われる単語ほど、さまざまな意味や用法が存在するため、その説明がたくさん載っているということになります。 また、Longman Dictionary of Contemporary English第6版では、各見出し語について、話し言葉と書き言葉のそれぞれで出現頻度が高いかどうかを示してくれていますが、patchはいずれでも高頻度扱いはされていません。 これらのことを総合的に考えると、patchよりも優先して習得すべき単語がありそうです。

4. 意味が理解できれば十分な単語もある

 先ほどからだいぶ軽視されてしまっている、かわいそうなpatchですが、辞書での説明の量が少なく、出現頻度が低いからといって、完全に無視して授業を進めることは難しいと思います。 そこで頼りにすべきなのが、学習指導要領の解説で示されている、受容語彙と発信語彙の考え方です。 中学校学習指導要領で示されている「1,600〜1,800語程度」については、「全てを生徒が発信できるようにすることが求められているわけではない」と中学校学習指導要領(平成29年告示)解説外国語編(p. 34)に書かれています。 そのため、patchのような単語は聞いたり読んだりして意味がわかる受容語彙として指導し、よりさまざまな意味や用法で使われる単語は話したり書いたりして表現できる発信語彙として習得させることを目指すとよいでしょう。


参考文献

参考文献

  • Schmitt, N., & Schmitt, D. (2020). Vocabulary in language teaching (2nd ed.). Cambridge University Press.