こんにちは!家庭科編集部です。このコラムでは、家庭科の先生方の日常や授業に役立つ情報を発信しています。
今回は、開隆堂発行書籍『食教育のESDとユニバーサル調理』の著者である神戸女子大学の佐藤佐織先生が提唱されている「ユニバーサル調理教育」について伺いました。
だれ一人取り残されない「ユニバーサル調理実習」
近年、食物アレルギーをもつ児童・生徒は増加し、学校では健康と生命を守るための確実な対応が求められています。家庭科の調理実習でも対応に悩む先生は多く、その対応方法も様々です。私が中学校家庭科教員を対象に行った全国調査(2022)では、食物アレルギー原因食品を完全除去した全員共通のメニューで調理実習を実施したことがある教員は4割程度でした。一方、食物アレルギーをもつ生徒のみ除去メニューにする、食物アレルギーをもつ生徒のいる班や学級は除去メニューを用意する、試食時に自己除去させる、参加するが食べさせない、別室で待機させるなど、特別な対応を行った教員は5割を超えていました。
これまで食物アレルギーへの対応は「少数派への個別対応」という捉え方が一般的でした。しかし、私が実施してきた現職の家庭科教員を対象とした「ユニバーサル調理実習」勉強会では、受講者の先生から「誰もが安心しておいしく食べられる献立を考える視点は今までなかったため、教育の機会均等、他者理解という話をうかがい、反省した」という声が寄せられました。
「ユニバーサル調理実習」とは、食物アレルギーをもつ児童・生徒への特別対応ではなく、食物アレルギーの有無にかかわらず、だれ一人取り残されずに全員が一緒に同じものを安全に調理し、おいしく食べられるようにする包括的な考え方のもとで取り組む調理実習です。児童・生徒全員が公正に学び、安全を確保することは教育的配慮として不可欠です。
味と見た目にもこだわる「ユニバーサルレシピ」
私が提唱する「ユニバーサルレシピ」とは、食物アレルギーの有無にかかわらず、すべての生徒が共に調理実習に参加し、安全に食べることができる、また、その能力を十分に発揮して調理実習の学びを得ることができるレシピです。食物アレルギーの原因となる食品を除くと「おいしくない」「学習効果が下がる」と思われがちですが、食品選択や分量、栄養、味、見た目まで丁寧に工夫し、通常のメニューと遜色ない仕上がりを目指して試作を重ねて開発しています。
書籍『食教育のESDとユニバーサル調理』(開隆堂 2025)の第3部には、三大アレルゲン不使用の「ユニバーサルレシピ」28種を掲載しています。中でも「米粉と小松菜の蒸しパン」は、私が中学校教員だった2019年に開発した蒸し調理の学習用レシピです。三大アレルゲン除去によるカルシウム不足を補うために、野菜の中でもカルシウムの豊富な小松菜を使用し、天然色素クロロフィルによる鮮やかな緑色で食欲をそそる見た目に仕上げました。この蒸しパンを調理し試食した中学生・大学生・教員からも「野菜のほんのりとした甘味がしておいしい」「ナチュラルな色で見た目がきれい」と高評価を得ています。
・豆乳と甘酒のブラマンジェ(左上)
・チキンハニーマスタード(右上)
・米粉と小松菜の蒸しパン(左下)
・コーンポタージュ(右下)
ただし、「米粉」は、種類によって吸水量が異なるため、水分(本レシピでは豆乳)の調整が重要です。レシピ通りにつくっても生地が思い通りにならない場合があり、水分は少しずつ慎重に加える必要があります。また、米粉の種類によって仕上がった時の外観や味にも違いが出ますので、調理実習の前に試作をし、調理に適した米粉(食物アレルギー対応による違和感がなくおいしく仕上がる米粉)を選ぶ必要があります。
食物アレルギーは種類が多く、万能な「ユニバーサルレシピ」は存在しません。児童・生徒の状況に応じた代替食品の検討が不可欠です。
調理実習では、児童・生徒の食物アレルギー情報の正確な把握や、原因食品を除いた食品(調味料、加工食品も含む)の使用、学校内に設置されている食物アレルギー対応委員会や養護教諭、保護者等と連携・情報共有し、安全管理を徹底することが重要です。
食物アレルギーへの対応に加え、皆で一緒に学ぶことによって他者理解や協働性をも育む「ユニバーサル調理実習」の魅力を、ぜひ多くの先生方に知っていただければ幸いです。
食物アレルギーについて、“個別対応”から誰もが共通して安全に調理できる“ユニバーサルな対応”へシフトすることで、児童・生徒一人ひとりが同等に学ぶことができる。
ユニバーサルレシピでは、『米粉』がこんなに大活躍するなんて驚きです!ぜひ、授業に取り入れてみてはいかがでしょうか。
(↓詳細は、ぜひ書籍をご覧ください。)
『食教育のESDとユニバーサル調理』
編著:堀内かおる・佐藤佐織
仕様:B5判/100頁(第3部カラー)
定価:1,980円(本体1,800円)
発行日:2025年8月30日
佐藤 佐織(SATO SAORI)
神戸女子大学准教授
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科修了。博士(教育学)。元中学校・高等学校教諭。専門は家庭科教育学、教材開発・授業実践研究。学校現場での指導経験と研究活動を基盤に、食物アレルギーの有無にかかわらず誰もが参加できる「ユニバーサル」の視点に基づく食教育について研究を進めている。また、「ユニバーサル調理教育」を実践できる家庭科教員の育成にも取り組んでいる。