皆さんは授業準備をするとき、最初に何を考え、何をされますか。「教科書を開いて本文を読む」「新出語句を確認する」「どんな活動を取り入れようか考える」 多くの先生方が、日々そのような準備をされているのではないでしょうか。しかし、私が授業づくりを構想する際、何よりも先に、そして常に立ち戻るようにしている原点があります。「今考えていることは、本当に生徒が目指すゴールにつながっているだろうか」という問いです。
1授業づくりは「目的地」から逆算する
授業づくりを航海に例えるなら、教科書は海図です。海図は航海に欠かせません。しかし、どれほど詳細な海図を持っていても、目的地が決まっていなければ船は進みません。この「目的地から考える授業づくり」を行うことこそが、授業の軸をぶれさせない秘訣です。これがいわゆる「バックワードデザイン(BWD)」の考え方です。
『Sunshine English Course』(以下、Sunshine)は、このBWDの考え方をもとに構成されています。だからこそ授業者自身も、年度当初の段階で単元を見通しながら、シラバスを構想しておく必要があります。
BWDとは、単に「最後のゴールを決める」という手法ではありません。「どのような姿を目指すのか」を明確にし、その姿をどのように見取り、評価するのかを逆算しながら指導を組み立てていく設計思想です。つまり、「何を教えるか」から出発するのではなく、
- どのような力を育てたいか
- その姿をどう評価するか
から逆算して授業を設計していきます。これは、学習指導要領で求められている「指導と評価の一体化」を具現化する視点でもあります。
ただ、「評価」はゴールではありません。評価は、あくまで通過点です。本来大切なのは、「どのような生徒を育てたいのか」という教師の願いであり、生徒たちがその姿へ向かって成長していくプロセスそのものです。見取りや評価を行うこと自体が目的なのではなく、その先にある「育ってもらいたい姿へ向かうために、どのような指導を行うか」を問い続けることこそが本質です。評価は生徒を選別するためのものではなく、目指す生徒像へ向かうプロセスを支えるものでありたいのです。
2年度当初に“正しい折り目”を入れる
年度当初の設計は極めて重要です。紙を折るとき、最初の折り目がずれると、その後も少しずつずれていってしまいます。授業づくりも同じです。年度当初に「どのような生徒を育てたいのか」「どのような力を身につけてほしいのか」を曖昧なままスタートすると、授業や評価の軸もぶれやすくなります。だからこそ、私は年度当初に“正しい折り目”を入れることを大切にしています。
それは教師にとってだけではなく、生徒にとっても同様です。生徒自身が「何のために学ぶのか」「どこへ向かうのか」を理解した状態で学び始めることが、その後の学びへの向かい方を大きく変え、それは主体的に活動や学習に取り組む姿勢につながっていきます。
私が年度当初に行うのは、主に次の5点です。
- 目指す生徒像を言語化するマンダラートに落とし込む
- ①を実現するために必要な力を整理する学習指導要領との接続
- 教科書の指導内容との関連を確認する指導時期の見通し
- シラバスに落とし込む言語活動と身につけさせたい力をつなぐ
- パフォーマンステストと定期試験を構想する
マンダラートとは、思考整理や目標達成のために、3×3のマス目の中心に目標や目的を書き、その周囲と派生マスに関連した内容を書き出していくものです。目指す生徒像を言語化する際には、具体的に生徒に身につけさせたい力や行動を「〜することができる」を後ろにして書いていきます。生徒たちも、年度当初に1年後(3年後)に目指す姿を書き出します。これにより、自分自身の課題、目標達成までの中間目標や具体的な行動を可視化することができます。
これらのステップをまとめると、次のようになります。
上記の授業設計の流れを踏まえた上で、実際に単元づくりで最初に考えるのは、「この単元が終わったとき、生徒にどのような姿になっていてほしいか」ということです。
3世界の課題を「自分事」に変える問いかけ
今回は、Sunshine 3 の PROGRAM 6 “The Great Pacific Garbage Patch” を例に考えてみます。この課では、太平洋上に存在する巨大な海洋ごみ問題が扱われています。毎年、生徒たちは写真や本文を見ながら、「こんな場所が本当にあるんだ」「知らなかった」と驚きの声を上げます。しかし、私はそこでさらに問いを返します。
What would you think if the same thing happened to the Seto Inland Sea?もし瀬戸内海でも同じことが起きたら、どう思う?
What if the sea around Miyajima was full of garbage?宮島の海がごみであふれていたら?
Will we still see this beautiful view ten years from now?十年後も、今の景色は残っているだろうか。
すると、生徒たちの表情が少し変わります。
Oh, I don't like that.え、それは嫌だ。
I want the sea in Hiroshima to stay clean.広島の海はきれいでいてほしい。
If the number of tourists increases, garbage might increase, too.観光客が増えたら、ごみも増えるかもしれない。
世界の問題だった海洋ごみ問題が、少しずつ「自分たちの問題」へと近づいていく瞬間です。ここで、皆さんに問い掛けたいのです。皆さんが授業者なら、この単元のゴールをどこに置くでしょうか。本文内容を理解すること、新出表現を身につけること――もちろん、それらは大切です。しかし、それだけで十分でしょうか。海洋ごみ問題について学んだ生徒に、私たちはどのような姿を願うのでしょうか。
私はこの問いを深めたとき、「この問題に対して、自分の考えをもち、行動を起こす」という思いにたどり着きました。英語を学ぶ理由は、テストで点数を取るためだけではありません。誰かとつながり、社会と関わり、よりよい未来を創っていくための手段でもあります。だからこそ、「知識を得るだけで終わるのではない。自分との関わりを考え、自分の言葉で発信し、実際の行動につなげてほしい」と考えました。
4単元を貫く「4つの意図」を持ったタスク設計
そこで設定した単元ゴールが、次のものです。
Take specific action to ask foreign tourists to protect the environment of the Seto Inland Sea.瀬戸内海の環境を守るために、外国人観光客へ具体的な行動を呼びかける。
最終タスクには、外国人観光客へ向けたアピール動画の作成を設定しました。宮島や平和公園には、多くの外国人観光客が訪れます。
If you were to send a message as a junior high school student in Hiroshima to protect the beauty of the Seto Inland Sea, what would you say?もし自分たちが広島の中学生として、瀬戸内海の美しさを守るために何かを伝えるとしたら、どのようなメッセージを届けるだろうか。
この問いを、単元全体を貫く軸にしました。このタスクには、明確な意図が4つあります。
- 英語を使う「必然性」があること相手は外国人観光客です。日本語ではなく英語で伝える必要があります。「英語を勉強するために英語を使う」のではなく、「相手に伝えるために英語を使う」という状況をつくりたかったのです。
- 相手が「明確」であること「世界の人々へ発信する」という設定も魅力的ですが、中学生にとっては少し遠い存在に感じられます。一方、宮島や平和公園を訪れる外国人観光客は、生徒たちにとって非常に想像しやすいリアルな存在です。
- 「広島らしさ」があること太平洋上の海洋ごみ問題を学ぶだけで終わらせず、瀬戸内海という身近な海へ視点を戻します。世界の課題と地域の課題を結びつけることで、生徒たちは問題を「自分事」として捉えやすくなります。
- 「行動変容」を促す目的があること動画の目的は、単に情報を伝えることではありません。観光客に実際の行動を起こしてもらうことです。「マイボトルを使ってください」「ごみを持ち帰ってください」「プラスチックの使用を減らしてください」――生徒たちは、相手に動いてもらうために、何をどのように伝えればよいかを必死に考えることになります。
ゴールが明確になると、不思議なことが起こります。教科書の見え方が劇的に変わるのです。本文は単なる「教える内容」ではなく、ゴールへ向かうための「材料」になります。「なぜ海洋ごみは生まれるのか」「なぜ問題なのか」「どのような解決策があるのか」 生徒たちは、動画制作に必要な情報を集めるために本文を読み始めます。「読まされる本文」から、「自分たちの目的を達成するために読む本文」へと変容していくのです。
5生徒Aさんの変容:「問題を解くもの」から「伝えるもの」へ
以前、私のクラスにはAさんという生徒がいました。英語が特別得意なわけでも、環境問題に強い関心があるわけでもありません。PROGRAM 6 の導入で、こう問い掛けたときも、「自分には関係ないかな」とつぶやいていました。
What do you think we can do to reduce marine garbage?海洋ごみ問題を減らすために何ができると思う?
しかし私は、その言葉を聞きながら、むしろここにこそ学ぶ意味があると感じていました。最初から関心をもっている生徒ばかりではありません。だからこそ、単元を通してどのように変容していくのか、そのプロセスに価値があります。
ある時間の彼女の記述です。次のように問い掛けたとき、
What words do we need to make tourists take action?観光客に行動してもらうためには、どのような言葉が必要だろう。
Aさんが最初に書いたのは、短い表現でした。
Please don't throw away trash.ごみを捨てないでください。
しかし、グループで交流する中で、「なぜそうしてほしいのかも入れた方がいいんじゃない?」「瀬戸内海のきれいさを伝えた方が動いてくれるかもしれない」という仲間の声を聞きながら、Aさんは相手の行動を促す温かいメッセージを自ら書き加えていました。
We want to protect the beautiful sea in Hiroshima. Please take your trash home.私たちは広島の美しい海を守りたいです。ごみは持ち帰ってください。
私は、その姿に大きな変化を感じました。それまでは英語を「問題を解くためのもの」として見ていた生徒が、少しずつ「誰かに届けるためのもの」として使い始めていたからです。また、別の時間には「この表現、観光客にちゃんと伝わるかな」と友達に相談する姿も見られました。そこには、「間違えないように話す」という受動的な態度ではなく、相手意識を持って「伝えたい」という主体的な願いが生まれていました。
6おわりに:同じ目的地を見つめて始まる航海
私は、その姿こそが「学びへの夢中」の始まりだと思っています。生徒たちは、課題を自分事として捉え始めたとき、自ら学びに深く関わろうとします。生徒主体とは、単に活動量が多い授業のことではありません。教師がただ手を離すことでもありません。生徒が「やらされる学び」ではなく、「自分で進みたくなる学び」に出合うことです。
だからこそ私は、年度当初にパフォーマンスタスクを示し、ルーブリックも生徒と共有します。どこへ向かうのかという目的地を、最初から生徒と共有するのです。これは、目先の単元ゴールだけを指すのではありません。教師が1年生の段階から“3年後の成長した姿”を明確にイメージして日々の授業を紡いでいくことで、生徒は常に、その先にある確かな見通しを持つことができるのです。
目的地を知らずに船に乗る乗組員はいません。学びも同じです。教師と生徒が同じ目的地を見つめることで、初めて本当の航海が始まるのです。
次回予告
さて、目的地は決まりました。しかし、航海はここからです。Aさんも、この時点ではまだ「行動を起こす側」に完全に回ったわけではありませんでした。しかし単元の最後、Aさんの言葉は大きく変わることになります。


