暮らしを彩る器 実践事例

美術1 教科書P.48〜51「炎と共に⽣きる」に関連した実践事例「暮らしを彩る器」をご紹介します。

① 題材のねらいと学習の内容 

食事は人が生きていく上で欠かせないものである。 そして、食べ物を美味しくいただくためには、用途に合った器が必要である。 朝、短時間でバランスのよい食事をとるための器、 給食で大勢が効率よく食事をとるための器、お客をもてなすための器。 器にはそれぞれの⽤途に合った材料や機能があること、また、それらを使い分けることで、⽣活が豊かになることに気づかせたい。 ここでは、⾷器以外にも花器や⼩物⼊れなど⽣活で役⽴つ焼き物を制作し、つくる楽しさと使う喜びを味わわせたい。

② 評価の観点(規準)

形や色彩、粘土の性質や、それらが感情にもたらす効果などをもとに、全体のイメージでとらえることを理解している。
粘土や用具の使い方などを身につけ、意図に応じて工夫し、制作の順序などを考え、見通しをもって表している。
使う目的や条件などをもとに、使用する人の気持ち、焼き物の特徴などから主題を生み出し、使いやすさや機能と美しさなどの調和を考えながら、表現する構想を練っている。
使う目的や機能との調和のとれた美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図や工夫などについて考えるなどして、見方や感じ方を広げている。
美術の創造活動の喜びを味わい、生活で使う目的や機能をもとに焼き物で表す学習活動に主体的に取り組もうとしている。
美術の創造活動の喜びを味わい、生活で使う目的や機能をもった焼き物の作品を鑑賞する学習活動に主体的に取り組もうとしている。

③ 指導計画

学習の流れ 生徒の学習活動 教師の働きかけ
第1次(50分)
焼き物について知る
・焼き物の機能や造形的な美しさを感じ取る。
・焼き物の産地による特徴や歴史を知る。
・制作の流れを知る。
・実物の焼き物を鑑賞させ、機能と形の関係や、個々が感じた美しさを発表させる。生活を彩る焼き物を紹介し、焼き物を自らの暮らしに取り入れようとする意欲を高める。
第2次(50分)
アイデアを練る
・皿やカップ、箸置き、花器など生活で使う場面を意識してアイデアスケッチをする。 ・教科書やインターネットの情報を参考にして、どのような場面でどのように使うのか具体的にイメージさせる。
・つくるものに合った成形方法を示しておく。
・釉薬の色で出来上がりの感じが変わることを伝える。
第3次(150分)
成形・施釉
・つくるものに合った成形方法(手びねり、ひもづくり、板づくりなど)で成形する。
・素焼きした作品に釉薬をかける。
・成形方法は動画などで具体的に示す。
・アイデアスケッチと変わってもよいことを伝える。
・釉薬は数種類用意しておくと作品の幅が広がる。
第4次(50分)
鑑賞する
・友達と作品を互いに鑑賞し合い作品のよさや工夫に気づく。
・制作を通して感じたことや工夫した点について発表する。
・ふり返りシートなどを用意し、生徒が作品をふり返り、友達の作品についてもまとめられるようにしておく。
・家庭などで実際に作品を使用する様子を写真に撮り、ふり返りの際に一緒に紹介させる。

④ 導入の方法 

生活の中で使われる道具や工芸品には機能と造形的な美しさがある。 ここでは特に伝統的な陶芸作品を取り上げ、古くから日本人の生活の中に焼き物が取り入れられていたことを意識させたい。 また、備前焼、萩焼、有田焼、九谷焼、益子焼など、日本の代表的な焼き物の特徴にふれ、それぞれがもつよさを味わい、制作に生かすようにしたい。

⑤ 主な材料・用具 

教師/ 粘土、手ろくろ、釉薬、陶芸用絵の具、粘土べら、スポンジ、やすり、保管用の袋や容器
生徒/ 教科書、スケッチブック、タオル

⑥ 指導のポイント 

1.生活に生きる焼き物

美術の学習を通して、美的なものを大切にし、心豊かに過ごせるような創造力を身につけさせたい。

焼き物は、食器などとして生活の中で使う機会はあるものの、古風なものは中学生にとって親しみにくいかもしれない。 そこで、導入の鑑賞ではモダンなデザインのものなどを紹介し、制作意欲を高められるとよい。 また、家族や身近な人への贈り物として制作することにすれば、作品に込める思いも違ってくる。 相手の好みや受け取った時の喜ぶ顔を想像しながら制作すると、出来上がった時の喜びもまた違ったものになるだろう。

2.粘土や用具の準備

焼き物は、成形~乾燥(約1か月、この期間は他の題材に取り組む)~素焼き~施釉~本焼きと工程が多く、 導入やアイデアを練る段階を含めると制作が長期間に及ぶ。また、手で直接粘土を練ることから始めるため、 制作時期を考えて計画的に年間指導計画に組み込みたい。
粘土:購入業者によっては一人分ずつ小分けした状態で販売しているところもある。 ビニル袋に入れ、発泡スチロール等の乾燥しにくい容器に入れて保管しておくとよい。
色つけ:複数の釉薬から自分で色を選択する方法、陶芸用絵の具で絵つけし、 上から透明釉をかける方法、色粘土を使い成形時に色を考える方法など、さまざまな方法がある。 表したい器を想定して、色つけの方法を決めるとよい。
用具:使い古した布やタオルなどを生徒に用意させ、授業前に濡らして湿らせておく。 粘土がついた用具や手は濡れたタオルでふき、直接水道で洗わないようにする(排水管がつまることもあるため)。
保管場所:成形後に作品を乾燥させて保管する場所を確保しておく。焼き上がった後の保管も同様である。

釉薬をかける様子
釉薬をかける様子

3.地域との連携

焼き物は制作工程が多く、粘土やさまざまな用具の準備が必要であり、焼き物の制作をしたことがない教師にとっては、不安も大きいと思われる。 そこで、地元の陶芸家と連携して授業を進める方法もある。その場合は、事前にどのような形で授業を進めていくかよく話し合っておくことが必要である。 陶芸家の作品やその技術を実際に見ることは、生徒にとってもよい刺激となり、意欲や関心の向上につながるであろう。

4.鑑賞する上で意識すること

本題材は、焼き物をつくって終わりではなく、出 来上がった作品を実生活で使用し、どう感じたのか というところまで活動を深めたい。使っている場面 を写真や動画に撮って友達どうしで鑑賞し合い、互 いの考えを発表したり、使っている場面を見たりす ることで、自分や友達の作品のよさに気づき、次の 制作への意欲につなげられるとよい。さらに、今 後、自分でものを選び購入する時に、自分の好みや もののもつ機能を考える指標になるようにしたい。