第12回 テスト作成の玄人になるために

1. テスト作成は素人…

 これが,22歳で教壇に立ったときの偽らざる気持ちです。大学で英語科教育法は履修しました。教育実習も済んで,採用試験にもパスしました。しかし,テスト問題の作り方がわからなかったのです。大学の授業でも,テストについて触れられていた記憶はありません。皆さんは,どうでしょうか。専門的に学んだことがなければ,自分たちが中学生時代の経験を再生産するしかありません。しかし,これでは玄人とは言えません。「テスト作成については素人同然」だと知ったら,生徒や保護者はびっくりするでしょう。
 そこで,勤務校の英語科教育法の授業や英語教育ゼミなどでは,「テスト問題の作成」を実習することにしています。グループごとに模擬授業を行ったあとで,担当範囲について,

 1担当範囲について,出題分野を分担して問題を作成する。

 2出題の狙いを説明したうえで,全体でディスカッションしながら検討していく。

 3指摘された問題点をクリアできるように,問題を改善して次回に持参する。

という手順で行います。最初に作った問題は拙いものですが,多くのグループが改善版では長足の進歩を遂げます。その伸び方には驚くこともしばしばです。理論を知って意識が高まり,ノウハウを学んで技術を身につければ,テスト作成力は飛躍的に向上するのです。  
 新しい教科書を使い始めるのを機会に,今までのテストを再点検してみませんか。

2. テスト問題の構成を見直す

 評価の観点と評価方法の関係は,基本的には次のようになるでしょう。

①コミュニケーションへの関心・意欲・態度 → 授業中の観察評価
②外国語表現の能力 → 筆記テスト(書くこと)+実技テスト(話すこと)
③外国語理解の能力 → 筆記テスト
④言語や文化についての知識・理解 → 筆記テスト

 お手元の定期テスト問題を見直してみてください。どのような問題構成になっていたでしょうか。以下のチェックリストに従って,大問を分類してみてください。各項目の末尾に付けた②~④の数字は,評価の観点との対応関係を表しています。以下のリストに,スピーキング力を測る問題は含まれていません。実際に話させないと評価できないために,筆記テストで行うには無理があるからです。

リスニング力を測っている大問(③)
リーディング力を測っている大問(③)
ライティング力を測っている大問(②)
語彙力を測っている大問(④)
文法力を測っている大問(④)

 すべてのにチェックが入りましたか。それでは,リーディング力を測る大問について点検してみることにしましょう。

3.長文問題≠リーディング力を測る問題

 「長文問題」という言い方をよく耳にします。文章が与えられ,それに関する設問に答えるものです。しかし,このような形式の問題が,リーディング力を測っているとはかぎりません。
 授業で扱った文章を使って出題したとします。このような文章の下に,内容理解の設問をぶら下げた場合,正答を得るために文章を読む必要があるでしょうか。多くの設問は,文章の内容を記憶していれば答えられます。英語の文章を読む必要はありません。リーディングを行わずに答えられるのですから,リーディング力を測っているとは言えません。また,下線部和訳の問題は和訳を暗記していれば十分に答えられます。このような問題を出し続けると,「和訳を覚えてテストに臨む」という悪しき学習を助長することにもなりかねません。
 また,初めて目にする文章であっても,設問の作り方が拙いと,文章を読まずに答えることが可能です。次に示す例は,ある高校入試問題の長文にぶら下がっていた設問です。問題を見ただけで答えられることがわかるでしょう。

A. ①[ to / how / baseball / Masao / are / players / know / Japanese / doing / wants ] in America.の[   ]の中の語を正しく並べかえるとき,前から6番目と9番目に来る語をそれぞれ書きなさい。

B. ②You will also be able to stay at home and study on the Internet.の内容を,次のように書き表すとすれば,     の中にどのような1語を入れるのがよいでしょうか。

On the Internet, you will also be able to study      going
to school.

C. 次の質問に対する答えとして,本文の内容と合うものはどれでしょうか。
What is one of the Internet’s privacy problems?

 Things you have ordered on the Internet may not be sent to you.

 Most of the information on the Internet is written in English.

 When you buy something on the Internet, the thing you get may not be good.

 Some people may steal important personal information on the Internet.

解答はこちら

4.既習テキストの活用方法

 それでは,教科書で学習した文章はテストに出さないほうがよいのでしょうか。そうではありません。リーディング問題としては不適切ですが,文法力や語彙力を測る問題として活用することができます。
 次の問題では,既習文法事項を総動員する必要があります。自分の持っているレパートリーの中から最も適するものを選ぶことが求められるからです。

(  )内の動詞を適切な形に変えなさい。(  )内は最大で2語までとします。

  Forty-five of the greatest singers in American popular music were recording the song, "We Are the World."
  Quincy Jones was conducting. Michael Jackson, Lionel Richie, Stevie Wonder, and other famous stars were singing with the same wish(ア help)the starving people in Africa.

~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

 They started to record the song at 10:00 p.m. that night. They(イ work)together for ten hours, until 8:00 a.m. the next morning.
  Let us realize that a change can only come,
  When we stand together as one.
 A few days before Christmas in 1984, Harry Belafonte, a famous American singer, was watching TV. He(ウ see)a film about an Australian doctor who was working in Ethiopia. He was caring for starving children.
 Harry Belafonte thought that he also should take action. He wanted(エ make)a record to raise money to save those children. He asked Michael Jackson and Lionel Richie(オ write)the words and music.
 The pop stars(カ sing)their hearts out. They did not receive any money for their work on this record. All the money(キ send)to Africa to save people from starving.
 Lionel said, "I don’t want you(ク forget)the hunger problem until babies stop(ケ die)from hunger. Do anything you can, if you have any feeling in your heart about human life."

Sunshine English Course 3(平成9年度初版発行)より

 正答は,ア to help,イ worked,ウ saw,エ to make,オ to write,カ sang,キ was sent,ク to forget,ケ dyingで,過去形,受動態,不定詞,動名詞などの既習事項です。たとえば,受動態の学習直後には「受動態の作り方」がテストで問われているでしょう。しかし,それだけでは十分ではありません。このような形で既習事項を絶えず反芻させながらその定着度を確認するような問題を,教科書の文章を使って作ってみてはどうでしょうか。
 教科書の文章を使った文法テストを出すからには,授業中もそれに類するトレーニングを行う必要があります。たとえば,動詞の他に前置詞や限定詞(冠詞や所有格など)を空所にして,答えを書き込まずに空所を補いながら音読練習をさせるのです。このような負荷をかけた練習は,アウトプットする英語の正確さを上げることにつながるのです。

久保野雅史 (くぼのまさし)
久保野雅史神奈川県立外語短大付属高校で4年,筑波大学附属駒場中・高等学校で21年の勤務を経て,現在は神奈川大学外国語学部英語英文学科准教授。専門は英語教育学,学習英文法,テスティング。スピーキング力を伸ばす音読指導,テスト・評価の改善に取り組んでいる。国立教育政策研究所の学力調査問題の作成・分析協力者や,高等学校学習指導要領解説(外国語編・英語編)の作成協力者も務める。
主な著書
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』(開隆堂),『英会話・ぜったい音読 入門編』(講談社インターナショナル)。現在, NHKラジオ『基礎英語3』に「悩み解決! 英語のギモンQ&A」を連載中。