第3回 音読指導の実際

1. はじめに

 長勝彦先生(元武蔵野大学客員教授)は中学校教師生活の晩年に,私たち若手教師によく次のようにおっしゃった。「私の教え子の中で,教科書をスラスラ音読できない生徒で英語が好きな生徒は1人もいなかった。」「授業で何をやっても,生徒は家に帰ったら教科書しか残らないのだ。」これらの言葉を聞いて以来,私は音読指導を授業の中心に据えてきた。音読が英語学習に有効だと声高に言われるようになる20年も前の話である。

 今回は「中学生が教科書の英語をきちんと読めるようになるためには,どのような指導が必要なのか」をテーマに話を進めていくことにする。

2. 音読に至るまで

(1) アルファベットの認識

 アルファベットがどういう音を表しているかは1年生の4, 5月に徹底的に訓練する。文字を見たら即座にその音を発声できなければならない(指導の詳細についてはSunshine English Course Book 1(以下Sunshine 1)指導書のLet's Start 2を参照されたい)。

(2) 単語の認識

 (1)の訓練で,アルファベットを見たらその表す音が出せるようになった。これで多くの単語が発音できるようになる。しかし,1年生で学習する基本単語の中にはbook, eatのような二重つづり字がいくつかある。それらの中で,1学期に頻出するものを取り上げて指導する。手順は,まず4月から生徒が学んだ単語に多く含まれるフォニックスルールを選定する。Sunshine 1 を例に取れば,以下のルールである。

 第1段階:oo, ea, ee, magic E
 第2段階:ay, ou
 第3段階:ow, au

(3) フレーズの認識

 ある語を学ぶときには,その語と結びつきの強い語も一緒に覚えたほうが,実際の言語使用に有効である。 実際の授業では, ビンゴや新語導入の際に, <動詞+目的語句>, <形容詞+名詞>, <動詞+副詞>などを指導している。詳しくはSunshine 1 の巻末資料⑪「アクションカード」を参照されたい。

(4) 文の認識

 1年生と2年生前半までは,教科書本文の内容理解はすべてジェスチャーで行っている。日本語を介さなくて済むし,本文の内容を身体で覚えることになるので忘れにくい。また,自然と英語の語順が身につく。指導手順は以下の通りである。

 1教科書本文を教師が1回読み,生徒は聞いている。

 2生徒は教師の後について1回リピートする。

 3教師は再び本文を1文ずつ読む。その時に生徒にジェスチャーをさせる。ジェスチャーができていれば,その文の内容が理解できていると言える。理解できていない生徒は,できている生徒のジェスチャーをまねることによって内容理解ができる。

 4次に教科書を机の上に置かせて,教師の後についてリピートとジェスチャーを両方するように指示する。スラスラと言えるようになるまで練習する。

 5生徒は教科書を再び持って音読をする。クラス全体→ペア→個人。

 6音読を宿題にして授業を終える(☆読み)。次の授業の最初に,教科書を閉じたまま教師のジェスチャーをキューにして,本文を再生させる。全部できれば音読が足りていると言える。

book「☆読み」とは,教科書本文を5回読んだら教科書の余白に☆印を1つ書き入れることである。宿題としては☆の数が最低5個以上になるように指導している。

3. 内容理解と音読

(1) 1 年生 2 学期まで

 教科書本文を生徒がジェスチャーで表現→教師の後について音読(intensive) → buzz reading → individual reading →☆読み(宿題)

(2) 1 年生 3 学期,2 年生

 本文を生徒がジェスチャーで表現→教師の後について音読(intensive) →内容の難しいところの確認→paced reading →shadowing → buzz reading → individual reading →☆読み(宿題)

paced reading とは,教師やCDのモデルと同じ速さ,同じピッチ(声の高低)で読むこと。英語のイントネーションをつかませるのに有効な方法。

shadowing とは,モデルを聞きながら,ほぼ同時に声に出して言うこと。スピーキングへの橋渡し。

(3) 3 年生

 教師の後について音読(1回だけ)→教師が日本語を言い,それに対応する英文を指さす→教師の言う日本語に対応する英文を言う→内容の難しいところの確認→ T-Fクイズ→ Q&A

4. 音読テスト

 音読指導は1年生のうちが勝負だ。学期に1回は音読テストや発音クリニックを実施して,生徒の音読の進展具合を把握する。しかし,2年生になると中だるみからか,音読をおろそかにする生徒も出てくる。そのため2年生になっても音読テストをしたほうがいい。参考までに1年生2学期での評価基準の一例をあげる。

 A+ …… 発音が日本人離れしている。帰国子女と間違えるほど。
 A  …… スラスラと正しい発音・アクセント・リズムで読めている。
 B  …… 1, 2箇所の間違いがある。1, 2回つっかえる。
 C  …… 間違いが多い。つっかえる回数が多い。

5. 朗読活動

 1, 2年生3学期最後の活動として,教科書を離れた朗読活動をする。音読の楽しさを知るためであると同時に,これらの英文がスラスラ読めたら音読卒業である。

1 年生で使った絵本

Olivia (Ian Falconer 2000年 Atheneum Books)
Olivia and the Missing Toy(Ian Falconer 2003年 Atheneum Book)
Grandma Baba's Warming Ideas(さとうわきこ原著 2004年 Tuttle Publishing)

2 年生で使った Story Books

urashima『英語で読む日本昔ばなし Book 1-3』(2005年 ジャパンタイムズ「週間ST」編)
Peach Boy, Urashima Taro, The Princess of the Moon, A Crane's Gratitude

6. 速読指導

 2年生の後半からは速読を意識させる。速く読むためには未知語で止まっていられないし,想像力をフルに活用する必要がある。まずは教科書のストーリー性のある素材を使ってやってみよう。3年生では音読の回数を減らして速読,skimming, scanningなど日常生活におけるreadingのトレーニングをする。

 速読では次の計算式でWPM(Words per Minute)を計算する。つまり1分間に何語読めたかである。読む速度が目に見えて速くなるので生徒の励みになる。

計算式 = 語数 × 60  
X秒  
  (かかった秒数)  
北原延晃 (きたはらのぶあき)
北原延晃東京都の公立中学校で英語教員として長年教鞭をとる。現在,東京都港区立赤坂中学校教諭。「生徒に楽しく学習させたい。ムダな勉強はさせたくない。教師も楽しく教えたい。教師は教えすぎず,生徒が自分で調べたり,友だちと考えたりする時間を作りたい。赤ちゃんがことばを覚える過程を大事にしたい」がモットー。
主な著書
『決定版!授業で使える英語の歌20(正・続)』(開隆堂),『英語授業の「幹」をつくる本(上・下巻)』,NHKDVD『わくわく授業-わたしの教え方』(以上ベネッセコーポレーション)など。